第19話 出会って5秒で…

メインモニターに映る大の字に張り付いたオッパイに見覚えがある。というか見間違うはずがない。


「…………………………………………………………。」


「あのご主人様、人とぶつかってしまったようですが大丈夫ですか?」


俺はアクセルを踏んで機体を走らせ始めた。


ギッ、ギギッギッ、ガン、ガンガン。


「オイ―――けろ、―――だろ、―――か。


「あのご主人様、先ほどぶつかった方がしがみついてキャノピーをこじ開けようとしてますが大丈夫ですか。」


ポチッとな。


キュゥゥゥン、バカン!


「ギャウン!」


「あのご主人様、急にキャノピーを開けるからしがみついていた人が吹き飛ばされましたが大丈夫ですか。」


ちなみにキャノピーとは装飾されたベットの天蓋とか、飛行機の搭乗口になる蓋のことである。


普通は戦闘機などでは視界を確保するために透明になっているが、甲型機動甲冑は光学センサー系が充実しているので不透明な装甲である。


そのためヤツの顔を拝めなかったが仕方ない。


俺はキャノピーを閉めるとスピードを上げて特甲技研の格納庫に向かって甲型機動甲冑を走らせた。


「あのご主人様、先ほど吹き飛ばした方ですが、ロープかなんかが機体に引っかかているみたいで引きずってますが大丈夫ですか。」


「大丈夫、大丈夫。あいつ頑丈だから。」


「お知り合いですか。ていうか本当に大丈夫なのですか。大丈夫ですか。さっきからすごい目で睨まれてますよ。」


後ろの映像を見てみると確かに睨みつけるヤツと目が合った。


「チッ。」


時速60㎞は出ている機体に引きずられて睨み返してくるとか、むしろまだまだ余裕なくらいじゃないのか。


仕方ないので、俺はブレーキを踏んだ。


勿論、急でだ。


機体は止まったけど引きずられた人は急には止まれない。


ヤツは勢いのままポーンと跳ねて、機体の前にベチャリと落ちた。


俺とウルトゥムはキャノピーを開けて機体の外に出た。


場所は帝都郊外の砦と都市部の間にある空白地帯。


人の往来はほとんどないのでこのまま放置してもいいのだが。


「おーい、飛鳥、死んでっか、生きてっか、死んでんなら返事すんなよ怖いから。」


俺は前世で好きだったドラマCDのセリフを引用してヤツに話しかけた。


「生きてまぁーす。」


テメェがそれ言うかよ。


と、イラっとした。


だってそれは山崎た〇みさんのセリフだからである。


つまりは『旦那って山崎た〇みさんの声に似てますね♡。』って言われた俺のセリフだろうが。


ナチュラルにこれだ。


だからこいつはむかつく。


「いやー、それにしても出会い頭にひどいじゃないっすか。」


「いやーすまんな。お前だとどうしても警戒してしまうんだ。」


「ひどいっすねぇ、飛鳥ちゃんとボッキ君の仲じゃないですか。」


「それだよ、そのボッキ君ってのが気に入らないんだよ。」


「えぇ~、いいじゃないですかボッキ君。語呂もいいのでみんなに広めたんですよ。これでボッキ君も名前がないとは言わなくてすむでしょう。」


「てめぇしばくぞ、それなら名前がないほうがましだ。」


「そんなことよりー、そっちの女の子紹介して。」


ハッキリ言って嫌だった。


だって、この飛鳥という女は―――


「ワタシはウルトゥムというものだ。ご主人様に仕える者、よろしくとして―――


俺の考えなど気づかずに自己紹介を始めてしまったウルトゥムに―――


飛鳥はその首にナイフを突き立てたのだった。

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