第24話
私達はまた、純白で美しい城の前に立つ。この前に来た時よりも強い思いを抱きながら。私も茜も、あの光景を見て平常心でいられるわけがなく、一言も言葉を交わすことなく立ちすくむ。しばらくするとクルムが朔を呼んで来てくれた。
「湊月、茜、早かったな」
朔は私たちの顔を見て、何かあったのかという目線を送ってくる。私は、言葉を発することができなかった。言わなきゃ、と思う度に苦しくなる。
「なんかあったみたいだな。俺に言えなくても大丈夫だが、先生には言えるように頼むな」
そういうと、朔は私達の頭を雑に、けれど優しく撫でた。これは、小雪じゃなくても大概の女子はドキッとしてしまうな。もちろん、私も例外ではない。少し心が落ち着いた私は、ある程度頭の中で言いたいことを整理する。
「先生、入っていいですか? 」
朔の声を聞いてはっと我に返る。気がつくとドアが目の前にあり、それが今にも開いたところだった。もう逃げられない。私が説明をして、元の世界の人達を救うんだ。ただただ地上の現状を報告するだけのはずなのに、私の心中は長年の宿敵と戦うくらいの決意で満ちている。
「さっそくだが、報告を頼む」
先生は、言葉を飾らない。前置きもしない。心の準備をしている時間はやはり与えられなかった。私はごくりと唾を飲み込む。
「あ、あちらでは、非常に大きな災害が起こっています。豪雨による水害です。緑の大地は濁流の茶色へと色を変え、人々は経験したこともないような状況に混乱を極めています。」
雲の上でずっと文章を考えていた成果だろうか。私にしてはうまく説明できたと思う。しんの目的はこれからだ。
「そ、それで、わたし達に、できることなんて、無いかもしれません。でも、どうにかしたいんです」
小学生の方が上手く言えたかもしれない。でも、どれだけ下手でも伝えるしかない思いだ。全力は尽くした。茜がぎゅっと手を握ってくる。私が、ゆっくりと顔を上げて先生を見ると少し驚いた顔でこちらを見つめていた。
「下で大きな災害が起こっているとすれば、ここでも大きな何かが動いている。それがわかるか? 」
先生は、厳しい口調ながら否定するという感じではなさそうだ、大きな何か、それを先生自身は分かっているのだろう。
「俺も、下働きとはいえ神だ。神との約束は、大きな意味をもつ。お前たちが協力する、と約束をしたなら覆すことはできないぞ」
その覚悟があるか、と先生は試すような視線でこちらを見つめてきた。
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