箸休め 古代の虫はとっても巨大! ②昆虫が大きくなれない理由

※文末に今回の「まとめ」を掲載しています。

 お時間のない方は、一番下まで画面をスクロールさせて下さい。


 古代の昆虫に着目している今回のシリーズ。

 前回は石炭紀せきたんき後期に棲息していたメガネウラを紹介しました。


 ◇昆虫が大きくなれない理由


 くり返しになってしまいますが、メガネウラは非常に巨大です。

 現代の地球にも巨大な昆虫はいますが、彼等ほどの大物はいません。


 もちろん、これにはちゃんとした理由があります。


 鍵を握るのは、昆虫の構造です。


 ◇人間の呼吸(おさらい)


 以前も紹介したのですが、昆虫も人間と同じように呼吸を行っています。


 ただし、昆虫の呼吸と人間の呼吸は、全く別物です。


 人間は鼻や口から酸素を吸い、肺の肺胞はいほうから血中に取り込んでいます。

 肺胞はいほう半球状はんきゅうじょうの器官で、ブドウの実のようにびっしりと集まっているのが特徴です。


 血中に取り込まれた酸素は、各部の細胞がエネルギーを作るために使われます。

 その過程で発生するのが、息を吐く時に出る二酸化炭素です。


 二酸化炭素は血中の赤血球によって運搬され、肺胞はいほうから肺に排出されます。

 ちなみに酸素を運搬するのも、赤血球の役目です。


 ◇昆虫の呼吸(おさらい)


 昆虫にも口はありますが、呼吸には使われていません。


 その代わり、腹や胸にある「気門きもん」で呼吸を行っています。


 気門きもんは身体の側面にある穴で、筋肉を使って開け閉めすることが出来ます。

 昆虫の種類によって違いはありますが、胸に4個、腹に16個いているのが普通です。


 気門きもんは口のように酸素を吸い、二酸化炭素を吐き出します。


 ここまでは人間と同じなのですが、昆虫には肺がありません。


 また昆虫にも血は流れていますが、酸素を運ぶのは気管きかんの役目です。

 二酸化炭素を気門きもんまで運ぶ役目も、気管きかんが負っています。


 ◇昆虫の呼吸法は効率が悪い


 昆虫には細かい気管きかんが無数にあり、全身に酸素を送ることが可能です。


 ただし、この方式には、「酸素が届く範囲が狭い」と言う欠点があります。


 そのため、大きくなりすぎると、全身に酸素を届けることが出来なくなってしまいます。

 現代にメガネウラを甦らせても、酸素が行き渡らずに死んでしまうでしょう。


 しかし現実に彼等は、石炭紀せきたんき後期の空を飛び回っていました。


 理由を語るには、まず当時の環境を説明しなければいけません。


 ◇巨大化の秘密は石炭紀せきたんきの環境にある?


 そもそも「石炭紀せきたんき」とは、約3億5900万年前から2億9900万年前までを指す言葉です。


 名前の通り、この時代の地層からは石炭がよく発見されます。


 石炭の正体は、古代の植物の死骸(化石)です。

 それが頻繁に発見されることは、当時の地球に大量の植物があったことを物語っています。


 実際、石炭紀せきたんきの地球には、シダ植物の大森林が存在しました。

 中でも高さ20㍍以上に成長するリンボクやフウインボクは、巨大な植物として有名です。


 ◇石炭紀せきたんきは酸素濃度が高かった!


 植物は二酸化炭素を吸い、酸素を排出します。


 特に植物の多かった石炭紀せきたんきには、今よりも大量の酸素が供給されていました。

 そのせいで火がきやすく、しょっちゅう大火災が起きていたと言います。


 また大気中の酸素濃度も、どんどん上昇していきました。

 現代の酸素濃度は21㌫ほどですが、石炭紀せきたんき後期には35㌫に達していたそうです。


 酸素濃度が高くなるほど、昆虫が酸素を送れる範囲は広くなります。

 石炭紀せきたんきほど酸素濃度が高いなら、メガネウラでも生きることが出来たでしょう。


 ◇巨大昆虫が絶滅したのは、酸素濃度が下がったせい?


 しかしペルムになると、状況が一変します。


 ペルム石炭紀せきたんきの次の時代で、今から約2億9900万年前から2億5200万年前を指します。

 末期には地球史上最悪の大量絶滅があり、90㌫以上のしゅが死に絶えました。


 ペルムには地球の環境が変わり、酸素濃度が23㌫まで低下します。

 その結果、メガネウラは呼吸が出来なくなり、姿を消してしまいました。


 ――と、一昔前までは言われていました。


 しかし現在、メガネウラを絶滅させたのは、酸素濃度の低下ではなかったと見られています。


 長くなったので、今回はここまで。

 次回はメガネウラが絶滅した理由に迫ります。


 ◇今回のまとめ


 ☆昆虫は身体にいた穴で、呼吸を行っている。


 ☆昆虫には肺がない。また血液ではなく、気管きかんで酸素を運んでいる。


 ☆昆虫の呼吸システムは、人間に比べて効率が悪い。大きくなりすぎると、全身に酸素を送り届けられなくなってしまう。そのため、あまり大きくなれない。


 ☆現代の酸素濃度は21㌫程度。しかしメガネウラの生きていた石炭紀せきたんきは、酸素濃度が35㌫もあった。


 ☆酸素濃度が高くなるほど、昆虫が酸素を送れる範囲は広くなる。そのため、効率の悪い呼吸しか出来ない昆虫でも、巨大化することが出来た。


 ☆ペルムの末期には、地球史上最悪の大量絶滅が起きた。


 ☆石炭紀せきたんきからペルム紀になると、酸素濃度が23㌫まで低下した。


 ◇参考資料


 徹底図解 昆虫の世界

 岡島秀治監修 (株)新星出版社刊


 オールカラー完全復元 絶滅したふしぎな巨大生物

 川崎悟司著 (株)PHP研究所刊


 ならべてくらべる動物進化図鑑

 川崎悟司著 (株)ブックマン社刊


 地球ドラマチック

「巨大昆虫はなぜ絶滅したのか」

 放送局:NHKEテレ 放送日:2016年3月12日

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