約100回記念特別企画 マイナー昆虫決定戦! ⑦手から糸を出せる虫がいる

 世界一マイナーな昆虫(グループ)を決定しようとしている今回のシリーズ。


 前回は、微妙にマイナーなBクラスたちを紹介しました。


 昆虫には28種類のグループがあります(諸説あり)が、既に23種類が姿を消しています。


 今回からはいよいよ、Cクラスの昆虫を紹介します。


◇ルール


 ①まず各グループをABCの三つに分け、Cクラス以外をふるい落とす。

 

 ②Cクラス内で決勝を行い、最もマイナーなグループを決定する。


 ※クラス分けの基準は、以下の通りです。


 Aクラス:昆虫に興味のない方でも知っているグループ。


 Bクラス:昆虫に多少興味のある方や、特定の業界には知られているグループ。


 Cクラス:かなりの昆虫マニアしか知らないグループ。


 ※カマアシムシもく、トビムシもく、コムシもくも、広い意味では「昆虫」です。

  ただし他の昆虫とはちょっと違うため、今回は除外します


 ◇特別ルール


 グループ自体は無名でも、有名な昆虫が含まれる場合は、ワンランクアップとします。


 例:「コウチュウもく」と言うグループが無名でも、「カブトムシ」が超有名な場合。

 →本来はCクラス相当でも、Bクラスになる。


 ※最終的には作者の独断と偏見で決まります(笑)


 ◇誰もCシーらないCクラス


 今まではAならA、BならBに分類された昆虫を、順番に解説してきました。

 しかし今回はまず、残ったグループに入場してもらいたいと思います。


 その上でそれぞれの特徴を精査し、世界一マイナーなグループを決定します。


 それでは、ベスト5の入場です!

 この中から、世界一マイナーなグループが決定します!


 ◇選ばれし昆虫たち(笑)


 ・先陣を切るのは最強の外敵ッ!! 「ジュズヒゲムシもく」ッッ!!!


 ・二番手は戦慄のあやとりマスターッ!! 「シロアリモドキもく」ッッ!!!


 ・続いては極寒のラストエンペラー!! 「ガロアムシもく」が登場だッッ!!!


 ・悠々と現れたのは森林のろくろ首ッ!! 「ラクダムシもく」だッッ!!!


 ・トリを飾るのはジェントルマンなサソリ軍団ッ!! 「シリアゲムシもく」ッッ!!


 ◇Cシービルウォー


 う~ん、頑張って盛り上げたのですが、見事に聞いたことのない名前ばかりです。


 こんな昆虫、地球上に存在するんですね(笑)

 このシリーズを始めなければ、一生知らなかったかも知れません。


 もう全員、優勝ってことでいいんじゃないかな?


 もちろん、そういうわけにはいきません。

 長々と読者の皆さんを付き合わせた以上、きっちり優勝者を決める責任があります。


 ただここまでマイナーになると、知名度はほぼ互角です。

 と言うか、ゼロとゼロが勝負しても、優劣を付けられるはずがありません。


 優勝者を決めるためには、他の部分に目を向ける必要があります。


 ◇「マイナー」の定義


 そもそも、マイナーとは何なのでしょう(哲学)?


 名前を知られていない昆虫は、確かにマイナーです。


 しかし、そこら辺を普通に飛んでいる昆虫を、真の意味でマイナーと呼べるでしょうか?


 また忘れてはならないのが、セールスポイントの有無です。


 他の昆虫にはない「何か」を持つグループは、個性を持っていると言えます。


「マイナー」は、「無個性」や「地味」とほぼ同じ意味の言葉です。

 個性的なグループに適用することは出来ません。


 もちろん、全てのグループは、他のグループにはない特徴を持っています。

 でなければ、別々のグループに分けられているはずがありません。


 ただ世界一マイナーを名乗るなら、最も個性に乏しいべきです。


 つまり、探すべきなのは、「最も出会いにくく、最も個性がない」昆虫になります。


 ◇最初の脱落者


 この基準を適用した時、真っ先に脱落するのがシリアゲムシもくでしょう。


 全く知名度のない彼等ですが、実は普通に見ることが出来ます。


 ようは今までも何度か登場した、「名前は知らないが、姿は見ている」タイプです。


 特にヤマトシリアゲはありふれた虫で、日本中に棲息しています。

 形も特徴的なので、存在さえ知っていればすぐに見分けられるでしょう。





 ☆シリアゲムシもく長翅目ちょうしもく) Mecoptera


 総数:約750種。


 変態:完全かんぜん変態へんたい(成虫になる際、サナギになる)。


 代表的な昆虫:ヤマトシリアゲ、ガガンボモドキ。


 関連シリーズ:なし。


 解説:名前は知らないが、日常的に見ているグループの究極系。


 ・種類もそこそこ多く、色々個性もある。Bクラスにしてもよかったかも。


 ・完全かんぜん変態へんたいする昆虫の中でも原始的な存在で、祖先の特徴を残している。

 ・ノミもくに近いグループで、ハエもくとも少し縁がある。


 ・基本的には森に棲むグループで、昆虫の死体や小さな昆虫を食べる。

  近縁きんえんのハエもそうだが、人間の死体にたかることもある。


 ・英名は「Scorpionflyスコーピオンフライ」。


 ・その名の通り、オスの尾(腹部の端)がサソリに似た形になっている。


 ・尾がサソリのように反り上がっていることが、「シリアゲ」ムシと言う名前の由来。

  いかにも危険そうだが、人を刺すことはなく、毒もない。


 ・尾の正体は「把握器はあくき」と呼ばれる器官で、交尾する時、メスを挟むのに使う。

  また把握器はあくきにはフェロモンを出すせんがあり、メスを呼び寄せる役割を持つ。


 ・交尾を行う際、オスがメスにエサをプレゼントする習性がある。

  オスがメスに唾液を与える種類もいる。何もあげない場合もあるらしい。


 ・顔は下半分がとても長く、ウマによく似ている。


 ・複眼は大きいが、はねは細い。

  はねが退化し、なくなっている種類も存在する。


 ・幼虫はイモムシそっくりで、地面に穴を掘って暮らしている。


 ・幼虫も肉食で、昆虫の死体や他の昆虫を食べる。


 ◇ガガンボモドキ


 ・ハエもくのガガンボ(大きいカみたいな昆虫)によく似た昆虫。


 ・ガガンボの成虫は何も食べないが、ガガンボモドキは肉食。


 ・またガガンボははねが二枚(しかないように見える)だが、ガガンボモドキは四枚ある。


 ・シリアゲムシもくのメンバーだが、尾がサソリのようになっていない。


 ・その代わり、カやガガンボのようにあしが長い。


 ・また一番後ろのあしが、鎌のようになっている。

  この鎌で他の昆虫を捕らえ、エサにする。


 ・ただしあまりにもあしの構造が特殊なため、歩くのは苦手。

  普段は鎌になっていない四本を使い、木の枝や植物にぶら下がっている。


 ・こちらも交尾を行う際、オスがメスにエサをプレゼントする。


 ・プレゼントするエサが大きいほど、メスが交尾してくれる可能性が上がる。

  またメスはプレゼントが気に入らないと、早々に交尾を打ち切ってしまう。


 ・色々面白い虫なので、興味のある方は詳しく調べてみて下さい。



 ◇第二の脱落者は?


 さて、これで残るグループは四つになりました。


 次にどこを落とすか悩みますが、やはりシロアリモドキもくでしょう。


 彼等は知名度の低い昆虫ですが、独特の特技を持っています。





 ☆シロアリモドキもく紡脚目ぼうきゃくもく) Embioptera


 総数:約460種。


 変態:不完全ふかんぜん変態へんたい(成虫になる際、サナギにならない。幼虫がそのまま大きくなる)。


 代表的な昆虫:シロアリモドキ。


 関連シリーズ:なし。


 解説:昆虫界のリアルスパイダーマッ!


 ・シロアリのグループではなく、全く別の昆虫。


 ・カワゲラもくやナナフシもくに近いと言われているが、まだよく分かっていない。


 ・熱帯地方に多い昆虫で、日本では3種類しか発見されていない。

  しかも、温かい地方(九州や沖縄、最低でも四国)にしかいない。


 ・目立たない場所に棲むこともあり、見るのはかなり難しい。


 ・オスがはねの生えたシロアリに似ていることが、名前の由来。

  ただ個人的には、あまり似ていないと思う。


 ・はねがあるのはオスだけで、メスにはない。オスにもはねがない種類もいる。


 ・飛ぶのは苦手だが、動きは素早い。


 ・細長い昆虫で、体長は1㌢前後。


 ・体型は寸胴ずんどうがたで、胸が腹と同じくらい長い。


 ・頭は大きいが、複眼は小さい。


 ・草食の昆虫で、藻や地衣類ちいるい(コケに似た菌類)、コケ、樹皮じゅひ(木の皮)などをエサにする。

  割と好き嫌いがなく、植物なら何でも食べるらしい。


 ・食べるのはメスと幼虫だけで、オスは何も食べないと言う説もある。


 ・成虫になったオスはすぐ死ぬらしい。交尾した後、メスに食べられる場合もある。


 ・実際、メスに比べて、オスは見付かりにくい。


 ・最大の特徴は、「前脚まえあしから糸を出せる」こと。


 ・「あし」で糸を「つむぐ」ことが、「紡脚目ぼうきゃくもく」と言う名前の由来にもなっている。


 ・前脚には「絹糸腺けんしせん」と言う器官があり、先端が膨らんでいる。

  シロアリモドキはここから糸を出し、トンネル状の巣を作る。


 ・巣は樹皮じゅひの隙間や岩陰いわかげにあるため、非常に見付かりにくい。


 ・小規模な群れを作り、アリやシロアリに似た生活を送っている。


 ・こんなマニアックな虫にも、寄生するハチがいる。


 ・これまた色々面白い虫なので、興味のある方は詳しく調べてみて下さい。



 ◇超接戦


 これでシロアリモドキもくが消え、残るグループは三つになりました。


 ここから先が難題で、どのグループも決定的な要素がありません。


 それでもどこかを落とさなければいけないなら、ラクダムシもくでしょう。


 彼等は残る三つの中で、最も種類の多いグループです。


 日本にはあまりいないのですが、世界中に棲息しています。

 残る二つのグループに比べて、見た目も特徴的です。





 ☆ラクダムシもく駱駝虫目らくだむしもく) Raphidioptera


 総数:約250種。


 変態:完全かんぜん変態へんたい


 代表的な昆虫:ラクダムシ。


 関連シリーズ:なし。


 解説:完全かんぜん変態へんたいする昆虫の中で、最も種類が少ないグループ。


 ・アミメカゲロウもくに近く、統合されてしまうことも多い。

  その場合はアミメカゲロウもくの「ラクダムシ亜目あもく」になる。


 ・世界中にいる昆虫だが、日本にはラクダムシとキスジラクダムシの2種類しかいない。


 ・シリアゲムシは「Scorpionflyスコーピオンフライ」だったが、こちらは「Snakeflyスネークフライ」。


 ・「snakeヘビ」と言われるように、首が恐ろしく長い。ともかく長い。そして頭も長い。


 ・実を言うと、長い部分は胸(の前のほう)が伸びたもので、「首」ではない。


 ・体長は2㌢前後で、大きな複眼を持つ。


 ・身体は細長く、柔らかい。ただ頭は硬く、噛む力も強い。


 ・メスは尾(腹部の端)に、産卵する時に使うくだを生やしている。

  このくだも非常に長く、とても目立つ。


 ・個性的な姿をしているため、簡単に見分けることが可能。


 ・森に棲む昆虫で、特に針葉樹しんようじゅの多い環境を好む。


 ◇幼虫


 ・イモムシに似ているが、比較的あしが長い(あし自体はイモムシにもある)。


 ・また身体は柔らかいが、頭と胸(の前のほう)は硬い。


 ・最大の違いは、腹脚ふくきゃくの有無。


 ・腹脚ふくきゃくは腹にある突起(またはイボ)で、あしとほぼ同じ役割を持つ。


 ・イモムシにはこれがあるが、ラクダムシの幼虫にはない。


 ・発達した顎を持ち、他の昆虫を捕食する。


 ・成虫と同じく森林に棲むが、樹皮じゅひ(特に針葉樹しんようじゅ)の下に潜んでいる。


 ・サナギの状態でも移動することが可能。



 ついに26種類のグループが脱落し、残りは2つになりました。


 決勝戦を行うのは、ジュズヒゲムシもくとガロアムシもくです。


 まさかこの二組が残るとは、誰も予想しなかったのではないでしょうか。


 まあ、当たり前ですよね、そもそも知らないんだもの……。


 長くなったので、今回はここまで。


 次回はついに、世界一マイナーな昆虫が決まります!

 

 ◇参考資料


 徹底図解 昆虫の世界

 岡島秀治監修 (株)新星出版社刊

 

 昆虫の誕生 一千万種への進化と分化

 石川良輔著 (株)中央公論社刊


 ※その他、過去に作者自身の書いたものを参考にしています。

  当時参考にした資料は、各回をご覧下さい。 

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