26 事件解明③

「それと、私の携帯電話からショートメールが送られていたということと、どう関係してくるのでしょうか?」

 神田正雄が尋ねた。

「ではここからは、もっと掘り下げてお話しましょう。熊田と吉村は事件当日、ロビーにいた岡倉君子さんのことをコンパニオンだと勘違いしました。熊田はご主人にコンパニオンを呼んでほしいと尋ねましたよね。ご主人はコンパニオン派遣会社と契約していないことを伝えた。でもそれは吉村には伝えられず、吉村は岡倉さんのことをコンパニオンだと思い込んでいました」

「ええ、そうですね、そうだと思います」

「事件当日の夜、7時半頃から宴会場でホラー映画研究会の皆さんが宴会を催されていました。この時、熊田が留守になっている二階の部屋に出入りしていたのです。おそらく、その時に25号室に入った熊田を、女将さんが目撃したのだと思われます。熊田は、25号室で携帯電話を見つけます。ご主人の携帯電話です。沖引さんがロビーで見つけて、25号室へ持ち運んだものです。熊田はロックがかかっていないその携帯を自分の計画に利用するために、盗んだのです。後で25号室に戻しに来るのですが。熊田は吉村に、『コンパニオンを手配するから、駐車場の車の中で待て』と伝えたはずです。吉村は酔った状態で自分の車の中でコンパニオンが来るのを待っていました。そして、8時2分、熊田は吉村宛にご主人の携帯からショートメールを送ります。内容はこうです、『吉村さん? コンパニオンのナナミです。車の中で服脱いで待っててね。もちろん全裸で』」

 全員が顔をしかめた。

「……変態ですね」

 森田一子がつぶやいた。

「吉村は車の中で、全裸になってナナミが来るのを待っていました。しかし、そこへ熊田が来たはずです。熊田はこの時に、盗んだビデオテープをベータ版だとは知らずに、吉村に渡したのだと思われます。そして熊田は吉村が脱いだ服にわざとコーヒーをこぼしました。そして、洗濯しておくからと言って吉村の衣類を全て持ち去ったのです」

「ありゃまあ、香崎、車の中で全裸になって、服を全部持っていかれたって、悲惨な状況だよな」

「そうですね。そして、熊田はその衣類を旅館の裏側の川へ投げ捨てました。しかし、衣類は崖の木に引っかかった。おかげで、警察が発見することができました」

「おう、なるほど、それで衣類がコーヒー臭かったんだな」

「続いて8時8分に、熊田は再びショートメールを送ります。内容は、『ごめんなさい、吉村さん。今日はやっぱり無理かも。吹雪の日に車の中で一人全裸って、素敵よね。また今度お礼します』」

 全員が顔をしかめた。

「……変態ですね」

 女将の神田久子がつぶやいた。

「じゃあ、ナナミっていうのは、熊田さんがそのふりをしてメールを送ったので、実際には存在しない女性なんですね」

 神田正雄が言った。

「ええ、そうなりますね」

「あーっ、良かったー。昔ひっかけた女で『ななみ』っていうコンパニオンがいるんですよ。私はもう、もしかしたらそいつが関係してるんじゃないかと思っ……て……」

 顔から苦悶の色が消えた神田正雄が思わず心情を吐露してしまった途端、女将の神田久子が鬼の形相で睨み返した。

「……」

 神田正雄は顔面蒼白で無言状態だった。その彼を見て、係長と京子が必死に笑いをこらえていた。

「話を続けます。それから、熊田は吉村に電話をしました。先ほど私がお話ししたように、『自分はすでに恐怖の動画を編集した。日付が変わる前に動画を編集しろ、さもないと呪い殺されるぞ』という旨を伝えたはずです。吉村は酒に酔っていて焦ったでしょう。自分も旅館に入ってホラー映画研究会にビデオデッキを借りて動画を編集したかったでしょうが、でも、できませんでした。なぜなら、吉村は全裸で、服を持っていかれ、旅館に入ることができなかったからです。仕方なしに、吉村は自宅へ帰ることにしました。先ほどお話ししたように、その途中で、ビデオテープがベータ版だということに気づき、旅館へ引き返しました。おそらく、駐車場まで来て、吉村は熊田に電話したはずです。『ビデオテープがベータ版だ、VHSのテープはどこだ』と。熊田は、『今露天風呂に入ってるから対応できない』というようなことを伝えたのでしょう。それを聞いて、吉村は旅館の裏側まで車で移動したのです」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る