25 事件解明②

「まずは、熊田による吉村殺害計画からお話ししましょう。熊田は、吉村を酒で酔わせて、車を運転させて、殺そうと計画していたのです」

「おう、香崎、でもどうやって?」

「はい、当日の夜は道にかなり雪が積もってましたし、しかも吹雪でした。幽玄荘から街までの道を、酔っぱらって車を運転して行くのはかなり危険です。高速道路のランプまで13キロあります、その間、道路の左側にはガードレールはありません。道の下は川です」

「確かに、危険よねー」

「ええ。熊田は、事件の夜、吉村にかなりの量の酒を飲ませていたはずです」

「おう、そういや、二人の部屋にビールの空き缶がたくさん転がってたな」

「熊田は、この旅館に来て、ホラー映画研究会も旅館を利用しているのを知りました。おそらく、その時に『現実に存在した恐怖の動画』を殺害計画に利用するのを思いついたはずです。幸い、この旅館には各部屋にビデオデッキが設置されています。熊田は、ホラー映画研究会の方が宿泊している二階の部屋を物色していたと思われます。熊田は『現実に存在した恐怖の動画』に登場する恐怖のビデオを、この幽玄荘で見つけました」

「いやいや、香崎、そんな物、現実には存在しないだろう」

「そうよー、小春」

「いえ、存在するんです。皆さん、現在取り掛かっている会報ですが、『現実に存在した恐怖の動画』に関するものですよね。それで、映画に登場する恐怖のビデオをサンプルとして実際につくったのではないですか?」

「はい、つくりました。実際にビデオテープで、本物そっくりに」

 私がホラー映画研究会の方々に尋ねると、沖引がそう言った。

「おそらくですが、熊田はそれを盗んだのです。後にまた戻したはずですが」

「刑事さん、そのビデオでしたら、さっきまで私たち、見てました。でも盗まれたかどうか……」

 今村知子が言った。

「いやでも、当日の昼過ぎに、ビデオが見当たらないって誰か言ってたよな」

 沖引が言うと、数名のメンバーが頷いた。

「おそらく、その時、すでに熊田がビデオテープを盗んでいたと思われます。そして、熊田は、それが『現実に存在した恐怖の動画』に出てくる恐怖のビデオそっくりだと知り、吉村に見せた。夜になって、熊田は、吉村に電話をしています。その時に、こういうことを伝えたはずです。『自分はホラー映画研究会の協力で、もう動画を編集し終えた。次はお前だ、日付が変わる前に、動画を編集しろ。さもないと呪い殺されるぞ』と。そして、焦った吉村は車に乗り、自宅へと急いだ」

「待って、小春。そんなに簡単に、恐怖のビデオテープが実在するって信じるの?」

「ええ、信じる人もいるわよ。だって、鏡に映った自分に驚いて悲鳴を上げる人もいるじゃない。怖い怖いと思っていたら、何でもないものが幽霊に見えてくる、でしょ?」

 京子は自分のことを言われて、バツの悪い顔をした。

「えー、でも、なぜ、露天風呂と旅館裏で殺されていたのですか?」

 主人の神田正雄が不思議そうに尋ねた。

「あ、いえ、吉村は途中で引き返してきたのです。なぜなら、彼の持っていたビデオテープは、VHSではなくてベータだったからです。熊田は盗んだことがバレにくいビデオテープを盗み、それを吉村に渡していました。吉村は映像関係の仕事をしていました。しかし、彼の自宅にはベータ版のビデオテープを再生するデッキはありませんでした。吉村はプロですから、途中でビデオテープがベータだということに気づいたんです。だから、旅館へ引き返してきたのです。それが9時少し前だったはずです。その時刻に吉村が熊田に電話しています。おそらく、『ビデオがベータ版にすり替わってる、本物のVHS版のビデオテープはどこだ?』というような会話があったと考えられます」

「おう、なるほど」

「一方で、熊田は盗んだことがバレにくいビデオテープを盗んでいました。今、そのテープは鑑識に回されています。皆さんの所持品から盗まれているはずです」

「あっ! きっと俺のだ! 全20巻の内、第9話目だけなくなってるんだ。誰かが借りていったんだと思ってたけど、きっとそのベータ版のテープ、俺のです」

 ホラー映画研究会のメンバーが言った。

「テープの内容は、戦争のドキュメンタリーものだということですが――」

「はい、そうです。やっぱそれ俺のだ。盗まれてたのか……」

「酒に酔った吉村が、深夜0時までに動画を編集しなければ老婆に呪い殺されてしまうという状況下に置かれ、吹雪の中、車で自宅へ帰って行った。自宅まではおよそ2時間ほどかかります。吉村はかなり焦っていたでしょう。熊田にしてみれば、計画通りうまくいっていたはずでした。しかし吉村が旅館へ戻ってくることは想定外でした」

「はあ、そういう理由でまたここまで戻ってきたのですか。しかし、なぜ、着ぐるみを着て亡くなったり、全裸で亡くなったりしたのでしょうか?」

 神田正雄が尋ねた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る