22 捜査続行⑥

 私たちは、この時点で、沖引が最も怪しいと睨んでいた。

 時計を見たら昼だったので、昼休憩を取ることにした。私と京子は駐車場のパトカーまでカップラーメンを取りに行った。

「ねえ小春、どう思う? やっぱり、沖引さんかな」

「今のところ、沖引さんが最も犯人の可能性が高いかもね。あれ?」

「小春、どうしたの?」

 私は旅館横にある街灯が昼間なのにチカチカと点滅してるのに気づいた。

「あれ? こんなに明るいのに光ってる。何でかな、小春?」

 ちょうど駐車場の掃除をしている森田一子が近寄って来た。

「ああ、あの街灯ね。去年からずっと点滅しててね。電球を換えようと思うんだけど、高すぎて、脚立を使っても届かないのよ。あそこの横に車を止めるのはいつも木村さんなんですよ。お客様駐車場ではないし、わざわざ電球を取り換えなくてもいいとご主人がおっしゃるんで、交換せずにそのままにしてあるんです。ただ、電圧を上げてあるので、他の街灯よりは明るく光るはずですよ。だから昼間でもほら、チカチカ点灯しているのがわかるでしょ」

「でも、森田さん、夜でも点滅してるんですよねー? 私だったら怖くて叫びそうー」


 昼食を終えて、一息入れてから、私たちは捜査会議を始めた。全員一致で沖引を取り調べるべきだという結論に至った。そこへ、係長に連絡が来た。高木先輩からだった。

「おう、高木か。うん、うん、そうか。ご苦労、一応、病院の江島のほうも頼むぞ」

 係長はホワイトボードに書き始めた。

「聞き込みによると、熊田は最近行きつけの飲み屋で酔って、他の常連客に対して、殺したい奴がいると言っていたようだ。なんでも、仕事を任せている奴が辞めたいと言い出して、熊田がそれを断ったら、警察にばらしてやると言われたので、熊田はそいつのことを殺してやると言いふらしていたらしい」

「仕事仲間ですかねー、係長?」

「吉村のことでしょうか?」

「まだ何とも言えないな。それと、神田正雄の携帯電話からは誰の指紋も発見されなかった。沖引が丁寧に拭いてくれたおかげだ、まったく」

 また係長の電話が鳴った。今度は嶋村先輩からだった。

「おう、嶋村かご苦労。おう、うんうん、そんなこと別にどうでもいいだろうが。うん、うん、ああわかった。ご苦労」

「係長、どうでもいいことって何ですかー?」

「おう、熊田の携帯にレンタル屋から連絡が来てな、レンタル中のDVDを返却してほしいそうだ。人気の新作だから早く返してほしいらしい」

「ふーん」

「そんなことはどうでもいいんだ。県警の報告書によると、江島健は以前、オレオレ詐欺の被害に遭った。その時、モヒカン刈りの男に金を渡している」

「受け子がモヒカン刈りですか? そんな目立つ頭で……」

「ああ、江島は、もしそのモヒカン刈りの男に出会ったら、猟銃で撃ち殺してやりたいと、過激なことを言っていたということだ。なので、県警は猟銃免許の取り消しも考えたようだ」

「じゃあー、江島さんがやっぱり、熊田を撃ったのかなあ?」

「江島さんがオレオレ詐欺の加害者である熊田と吉村を見つけた、そして殺すために二人が宿泊している幽玄荘に来た。そして――」

「えー、小春、それって単純すぎない?」

「そうね、京子。それだとご主人の携帯から吉村にショートメールを送ったことの意味が分からないわね」

「どうもうまく繋がらないな」

 係長は首をかしげていた。

 私はこれまでのことを頭の中で整理整頓して考えてみた。

「熊の着ぐるみ、旅館の裏側、猟銃、猟友会ハンター、オレオレ詐欺、心霊スポット、不倫、浮気……」

「おう、香崎、何かわかりそうか?」

「コーヒーが売り切れてた、車がガタガタ動き出す、街灯が点滅、うーん。熊田が吉村を殺そうとしていた、江島はオレオレ詐欺の犯人を殺そうとしていた、うーん」

「小春、ぶつぶつつぶやいてるけど、大丈夫」

 私はこの時、頭の中でいろんなことが一本の線で繋がりそうだった。

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