18 捜査続行②
主人の神田正雄も女将の神田久子も、供述に不審な点はなく、ウソはついていないようだった。
「あの、刑事さん、私の携帯どこにあるのか探したいので、スタッフルームまで来ていただいてもいいですか?」
神田正雄は自分で携帯を追跡すると言うのだ。私たちはスタッフルームへ行き、パソコンの画面を見せられた。
「見ていてください。GPSを追跡しました。私の携帯、この旅館内にありますね」
表示された地図上の幽玄荘に目印がついていた。
「ご主人、GPSって、ここまで狭い範囲で追跡できるんですか」
「ええ、携帯に元からあるGPSではなくて、ストラップにですね、別売りのGPSを取り付けてありますので。私、釣りが趣味でして。以前、釣りに行った先で、携帯を置き忘れて失くしたことがありましてね。それ以来、別売りのGPSを付けてあるんですよ」
「へーえ、なるほどー」
「この電波追跡装置の『追っかけ君』は、携帯に近づくとランプの点灯が速くなるんですよ。なのでもっと狭い範囲までわかりますよ」
パソコン画面で、アップされた旅館内部の客室が円で囲まれている。
「香崎、磯田、行くぞ、調べよう。ご主人もその装置を持って、来てください」
私たちはまず一階の客室を調べることにした。
一階16号室で、電波追跡装置『追っかけ君』の点灯が速くなった。三人で部屋の中を探したが、携帯は見つからなかった。神田正雄が『追っかけ君』を天井に近づけてみると、若干点灯が速くなった。
「二階だな、行くぞ」
私たちは映画研究会のメンバーに事情を説明し、全員部屋から出て廊下に待機してもらった。16号室の真上辺りになる、24、25、26号室から調べることにした。メンバーは部屋でホラー映画を見て、発行する会報にまとめる作業があるため、非常に迷惑だというので、早く済ませるために私たちは三手に分かれた。係長は先に神田正雄を連れて24号室へ入った。京子は25号室へ、私は26号室へ入った。
私はまず探しやすいところを一通り見ていた。
「キャーーーーーーッ!!!」
突然、京子の悲鳴が聞こえてきた。私は急いで隣の25号室へ走った。京子は部屋から飛び出してきた。
「大丈夫ですか!」
「押入れの中に! 誰かいるー!!」
心配するメンバーに、京子は震えながら訴えた。
メンバーが数名、部屋の中へ駆け込んだ。私も係長も同じく。メンバーが押入れを開けて、こちらを見て首を横に振った。
「磯田、誰もいないぞ」
「京子、怖がりすぎよ。言ったでしょ、怖い怖いと思うから、何でもないものが怖く見えるって」
「違う、絶対に誰かいたの! 押入れの隙間からこっちを見てたのよー!」
「すみません、みなさん、お騒がせしました」
私がメンバーの皆さんに謝っていると、神田正雄が、『追っかけ君』の点灯が速くなっているのに気づいた。
「あっ、ここですよ。この部屋ですよ。どこかにありますよ」
「おう、これだ!」
係長が押入れの中から携帯電話を見つけた。
「ああはい、それですよ、私の携帯」
「何でこんなところにあるんだよ」
訝しげな顔で係長がこちらを見た。私はメンバーの表情を見回した。特に誰も怪しいとは思わなかった。
「おかしい、おかしいわよ。確かに誰かがいたのよーー! 押入れの隙間からこっちを見てたのよーー!」
「京子、落ち着いて」
係長が押入れの中を調べていた。天井や壁を叩いて、隠し扉がないか確認しているようだった。しかし、何も異常はなかった。
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