カラスが泣く


「…っぐ!!」

 夜龍ナイトドラゴンこと沢田のお母さんにその場で治療してもらってる。沢田もそうだったがこの人も地力を扱う。

 俺はこの人を不信感を抱いて嫌っているが、海外の事情は全く知らないのでその点だけは気になっている。


「男のくせにうろたえるな… 取れたぞ」

 爪を尖らせたことにビックリしてしまった。腹に腕を突っ込んだと思ったら… 腹から小型の機械を抜き取ってくれる。


「ハァ… ありがとう」

「礼を言うのはこっちの方さ。ホントに色々と迷惑をかけた…」

「見てたのか…?」

「ああ、ワゴンに連れ去られる間際に出ようかと思ったけど…」

「過ぎたことでグダグダ責め立てるつもりはない。…あれで良かったんかな?」

「…倫理的なこと言えば間違ってるかもしれない。でも外れた人間に倫理もクソもない。あいつが来世に期待したんだ。それを叶えてやるのは間違ってるとは思わない」

「あんた…」

 涙をこぼしだす母親。俺は意外だったので戸惑った。合理的で冷徹な女だと思って来たんだが…


「『私は辛い』って…『死にたい』って言う人間は死なせてやりたいし叶えてやりたい。でもね…血を分けた自分の子は違うね…」

「…」

「意地でも…ぐっ、死なせたくない。死なせてから言うのは遅すぎる話だけど…」

「…俺を前にして言わないでくれよ。俺も悪いみたいじゃないか… 俺が何したって」

 俺まで涙出てきた… いたぶられて死を待つだけの運命を歩ませたくなかっただけで…依頼受けただけだってのに。


「す、すまない… つい… もうダメだな、強いだけじゃ。こんなんで現場立った日には、悪党どもに食い殺されそうだ」

「…いや、俺も悪い。逃げ癖が付いたもんで…」

 涙を拭って沢田の遺体を見た。…来世でまた会おうや。そんだけだ…



「あとはこちらでやっておくわ… どのくらい欲しい? 後にまとめて手紙でも…」

 死体の転がってる現場でそういうこと細かな話をしてきたのでキレてしまう。


「…要らねぇよ。糞喰らえだ」

 俺はやりたくもねぇ仕事で金は貰わない。それよりも…


「ちゃんと菊の花買って、供養もちゃんと済ませろ。俺の報酬でそれくらい人並みにしてやれ」

「…ふふ。分かったわ」

 すっごいかわいらしい笑顔を見せた。若いころに会いたかったぜ奥さん。


「静江の話をしてあげる…」 

「…!!」

 忘れていたことを急にぶっこんで来た。俺は一呼吸入れた。


「静江とひと悶着あったんでしょう? 隼人くん」

「なんでアンタが知ってんだ?」

 額に汗を浮かべながら話を聞く。


「殺し屋家業してた頃の名残か、未だに情報は全てを見通す主義でね? ホントにヤバい情報知り得ても私、…強すぎるから殺せないのよ…」

「…そうか。他に情報はないのか? そういや空想世界がどうとか…」

「…コードネーム“マリン” 静江は四天王の一人として回っていたらしいわね」

「四天王…?」

「最近は仲間内の仕事を職務怠慢で信頼されてなかったとか聞くわ。抜けて今も穴埋めができてないらしいし…」

「空想世界ってのは何なんだ…そもそも」

「よく知らないけど、いろんな町で悪さして金を獲たり土地を奪ったり… 方向性が分からないからみんなよく分かってない。警察もよく分かってないようだし… あ、あとね…」

 彼女は不気味に笑って間をおいて…


「あの静江の遺体はフェイク…」

 そう言った。フェイク? じゃあアレは一体…


「え…どういう…」

「私最近、…天鳳区てんほうく高島町たかしまちょうであの子の気を感じ取ったの… 間違いない、しかし衰えちゃいないわね…」

「天鳳区・高島…?」

 俺の家のある区だ。んで高島町には気品の良い店が並んでるんでカッコつけて最近よく行ってる。


「そしてあなたと… 今月辺りに一度接触してるみたいね? 気が付かなかったの?」

「…会ってんのか? 今月…?」

 誰だ… 20は仕事をこなしたがそれらしい人物は… 美樹、瑠奈ちゃん以外に地力を感じられる奴なんていなかった… 

 どんな達人でも完全に消すことはできない。それをまったく感じられないとなると… いや待て、そもそもあの静江って女… 地力を感じられなかった。


「…ま、そういう感じ。私は情報屋でも何でもないからその程度のお話しかできないけど…」

「…ありがとう。そんなビッグニュース聞けるなんてラッキーだ」

「幸生の為に涙流してくれる素敵なあなただから話したのよ。私の力が欲しいなら呼んでね? 何かに疲れたら…おいで? 未亡人の私が癒してあげる」

「…そんな日は来ねぇ」

 俺は沢田由紀に一瞥くれて、その現場を後にする…



 ======川崎隼人が知ることのない物語=======


 隼人と夜龍ナイトドラゴンこと沢田春子の会話から数日後のことだった。


「…春子。ずいぶんじゃない? 私のことベラベラと… 彼を刺激させないでよ」

 墓石の前で祈る春子の背後に一人の…女性。口元を包帯で覆い、貴婦人みたいな黒いハットに黒のサングラス、服は礼服…


「静江…何十年ぶりかの再開ね。…あら、整形でもしたの? 彼ってのは隼人くん?」

 その女に一瞥くべることなく、目をつむって祈ったまま相手に話しかける。近寄ってくる懐かしき匂いに、あらかじめ持ち合わせた言葉で対応。


「まぁ色々とね… ちなみに言うと空想世界も抜けたわ」

「お土産とかそういうのはいいわ。喪中だから」

「ふふ… 私も喪中よ。そしてまた惜しい人を亡くす…」


 ナイフと刀で真剣勝負… しのぎを削っている。 一瞬の殺気を感じ取った春子が胸元に忍ばせたナイフを取り出し応戦した。


「…やっぱアンタすごいわ春子。普通、私の殺気感じ取ったら引いちゃうのにあなたは…」

「何て言うのかな… 生粋の負けず嫌い? 人間的に負けたくないって言うか遺伝子レベルでね」

 この戦いは和泉国に波乱を呼ぶ。


◇◇◇


「現場に一名の…」

 政府に爪跡を残した。新たな力… つまり動かせる駒の確保を急がせるほどに凄まじいほどの被害が及んだ。天災レベルの…


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