強者はわびしさだけを残して
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「D1から流れるエネルギー的には…」
パソコンのデータはアタイの知識をはるかに凌駕する。当然っちゃ当然か… 研究所に訪れてビックリ。科学の進歩、一年でも遅れればついていけない世界なのだと。
求めていたものは海中から掘り起こしていたされていた。
絶望を与えられ続けた覚醒者に蓄積する負のエネルギーが地力に結び付くようで結晶になるらしい。ただ完全なる
ここまでの経緯にたどり着いたものはあたいが知る限り一人だけ… その彼が与えてくれた情報があたいの知識ってわけ。
隼人には『時間がかかる』だの『莫大なエネルギーが…』だの嘘ぶっこいちゃったんだ。
嫌われたくなかったから… こんな不気味な石集める私を。これは
後は適当に研究員たちが独占してる情報をくすねてトンズラここうかっていう時だった…
「探し物は見つかったかい? 嶋野美樹ちゃん…」
「…へぇ。まさかこの島を襲った張本人自ら乗り込んでくるとはねぇ…」
10年前、殺戮ショーの引き金を引いた男。自称・
海から部隊を引っ張て来てこの島を散々引っ掻き回した張本人。
「今日は誰を引っ張ってきたんだ? ジッコか? それともマリン? …アンタ以外に扱いづらいデスペラードか?」
「ジッコやマリンにも会いたかったのか… そりゃ済まないことをした。手が空いてるのはあのキチガイしかいなくてな…」
ぽわっと、しみじみとした顔をした。茶でも沸かしてんのかってくらいに落ち着いてる。ムカつくったらありゃしないねぇ…
「何懐かしいそうな顔してやがる!! お前らの面なんて見たいわけないだろう!!」
アタイは気に入らないことをすぐに言う質で、口が悪いなんて言われちゃいるけど思ったことなので本音ばかりだ。
「今思えば、アレが空想世界の始まりだった。
「その目的が、この石だってのか? 何処から仕入れた情報だか知らないが、アンタはこの島を嗅ぎつけてきたのだって
「ああ…その当時はな。今は方向性が分からくなってるよ。俺も
何が方向性だ!! 散々アタイらから奪ってきたって言うのに…
「じゃ、何で来た? 大幹部なんだろ?お前は…」
「立場的に来ざるを得なかったんだ。責任の所在を明らかにするためにもな… ただ懐かしいぜ。十年ぶりにお前の顔を拝めた。誰か愛する人の一人でもできたのか…?」
「お前の方は、大分ふっくらしたな…」
人質になった時、散々話を聞かれたっけ… まだ幼気な少女にクスリ盛って金に換えようとする輩に一喝してたな『商品の何たるかをテメェらの身体に教えてやろうか?』って。
そういう経緯もあって子供だったアタイは、コイツとは色々話し込んでしまったんだ、人の裏表を知らなかったから…
あんなことする大悪党だと思わなかったんだ… 素の部分は。
「こんなにも自分を偽って自分を守って暮らせてるのはアンタのおかげさ。感謝しきれねぇな。どんなに内心憎んでても笑っていられる」
「…俺はと言えば、悪かったと思ってんだ」
「あ? …何を今さら!!」
淋しさとか一抹の不安とかいろんな負の感情を滲ませながら江夏は言う。何を今さらふざけたことを…
「…それでいい。お前さんは俺を殺す気で来なきゃ死ぬからなァ…」
…なんだそれ… とてつもないほどの不安を覚える。アタイが変だってのか?穴がぽっかりと。
これじゃまるで… そんな不安を掻き消すように地力を体外で変換させて一本の槍を作った。
「
これじゃまるで…アタイが悪党じゃないか。 何なんだよどいつもこいつもアタイを揺るがせて…
「そりゃあ楽しそうだ。…俺を震え上がらせてみろよ!! もう怖いもんなんか何もねぇ!!」
「何を今さらなァッ…!! 父ちゃも母ちゃも村のみんなも殺されて… お前はあたいの中の悪党像だったんだ。ケツの毛むしり取られたかの様にか細い声で弱きでいるんじゃねぇ!! 閻魔と連日パーリー決め込んで… 地獄で
アタイは奴に狙いを定めて… 下腹部に槍を突き刺した。あろうことか奴は身構えることも交わすこともしない仁王立ち…
「はぐ…」
口から血を吐く江夏。ハッキリ言って無抵抗の人間を刺したんだ、アタイは…
「泣き喚けよッ!! 踊り狂えよッ!! 今度はお前の番だってのに…」
あれ… 涙が出てきて… 拭っても拭っても止まらない。差し込んだ槍をねじって電気ショックを与えて…
「ぐわあああああ…!! ぐ、気のすむままにやれ…ぐぐぐ…!!」
「てめぇッ!! 何なんだよ最後の最後に…!! 改心してもお前が行くのは地獄だ!!」
「なんでかな… ここにいたのがお前さんじゃなかったら…俺も
「…!! そんなん聞きたかねぇ!!」
更にねじ込んだ。ぐりぐりぐりぐりねじ込んだ。
「ふぎゃああッ!! …ぐはっ…もういいさ、遊園地づくりの歓楽王の節目はお前に預ける。速く命を陥落させてくれよ」
クソが… こいつそういや、人質だったときもアタイの前おどけて見せたっけ。くだらねぇギャグで… 見た目と精神年齢が合ってなかったな。
喋り方といい、話の内容といい…
「クソッ!! なんであんときのことが…」
思い出すのは誘拐された私を励ます目の前のコイツの顔ばかり… ほんの少しの優しさ…あのひとときだけなのに。
憎い相手に再び優しさを振りかざされて、戸惑ってる… バカかよ… ストレス性の心的障害とも言える。でも原因は分かってるんだ…
――優しかったあの人みたい、だから…
「…もう死んでくれな? …
私なりの限界… ボリュームを最大にした。まるであの人《・・・》を殺すような気持ちで…
「ふっはははあッ!! ほとばしるぜッ!! ありがとな、とどめを刺してくれて…」
…アタイはアンタを殺して自由を手に入れるために戦ったまでさ。口に出すことなく伝えることなく… 奴の心音を確認してその場を後にした。
結局、
~~~場面戻り、飛鳥とデスペラード… 対峙する二人を地に腰付けて見てる。男だってのに情けねぇったらありゃしない。
ただ、そう思う気力もない。体が痛いのなんのって…
「お嬢ちゃん、趣味じゃないけど殺しがいありそうな目つきをしてるね。恐怖に怯える様をみたいなぁ」
でかい体が彼女目がけてあたり構わず飛び込んだ。そんな男に弓を向けて…
「
「はぐ!!」
飛鳥の放った一本の矢は分散しデスペラードの身体を
俺も知らない。あんな力持ってたなんて…
「飛鳥ァッ!!」
そんな彼女の攻撃に怯むことなく飛鳥のもとへ向かうデスペラード。叫びながらも全身全霊で叫べていない事に気づいた。
「
彼女を信じてるから。とんでもなく強いってことを… 知ってたから。
彼女はデスペラードの拳を
「ぐぁあああああああ!! いて!! いてぇえええ!!」
痛がってるデスペラードを横目にその人形を回収した。簡単に説明すると飛鳥以外に触れた者の身体をコントロールすると言ったものだ。
藁人形とリンクし連動する悪魔のような力もセンスと相性さえ合えば
「ぐ…!! 藁人形殴ったら俺が殴られたような痛みが…」
「データは確保しました。あなたの生き死には私が管理します」
「このアマぁあッ、ぐ… この俺に何をしたぁッ!!?」
再び大地に手を突っ込んで… 俺に一打与えた土との合体技をする気だ。
拳に土を纏い再び飛びかかってくる男を前にして、涼しげな顔で…
「あなたの負けです。潔く散ってください」
「はふ!?」
藁人形の首を引きちぎった。同時に男の首が身体を離れ宙を舞った。硬かろうが強かろうが彼女にとって生き物の命を奪うことは容易い。
首の離れた体は地面に倒れ込み、飛鳥の持っていた藁人形は粉のように空気を舞った。終わったんだ…
「…は、隼人さん」
泣き顔が横たわってる俺に近づいてくる。俺は
――パンッ… その顔を今持てる力のすべてで引っ叩いた。…なんでこんなところに来たんだと。
「こんな危ねぇとこ来るんじゃねぇよ!!」
「…!!」
飛鳥の白い頬が赤く腫れた。キッ…と睨みを聞かせた彼女が倒れ込む俺の顔面をぶん殴った。
「ぐはっ!!」
「あなたの言い分なんて聞きたくありません!!」
倒れ込む俺を見下すかのように上から言う彼女。さっきのデスペラードの一撃で、身体がだるくて立つのが辛い。
「お、おま… グ―はなしだろ… なんでこんなところに来たんだッ!!」
「死にそうだったくせに… 嬉しかったんでしょ? 私の援護」
「うるせぇッ!! 今そう言うこと言ってんじゃねぇッ!!」
無茶苦茶なのは俺だと分かってる。こいつの方が強い。それは分かってる。…でもそれを認めたら彼女が戦場にいることが当たり前になる。
「そうやって大きな声で私を黙らそうとする… どうせカッコつけの説教じみた言葉なんて重みないです、私より弱いくせに!!」
正直ムッとした。分かってはいた。コイツのすごさ。でもこいつは17のガキ。そんな子にこんな場所…
「弱かろうと俺にだって意地があるんだよッ!! お前らを守るのは俺だってお前らを危ない目には合わせたくねぇんだ!! うぶっ!!!」
パンッ!! 今度は飛鳥にビンタされた。もう俺って何なんだよ…
「そんな意地捨ててしまえ!! 弱いくせに…弱い弱い弱いっ!! 川崎隼人は弱い!! でもあなたが死んだらあなたの守った者達は崩壊しますよ?」
俺の下に再び歩み寄り俺の体を手繰り寄せて抱きしめてきた。俺は抵抗などしないし、出来そうにない…
「私の大事な家族ですから… もう一人で抱え込まないでくださいっ!!」
彼女は涙ながらに語る。迷惑かけていたんだな、俺のことで… 弓道も日々のトレーニングも俺たちの暮らしを守るためにやってたって言われても信用しちまう。
サバサバしててもみんなの子と気遣ってる。もう子供じゃないんだな…
「泣くな…わ、わかったよ。本当に困ったら真っ先にお前に相談する。約束する。だからもう少しだけカッコつけさせろや…」
「…はいっ」
声を弾ませて彼女は返事した。なんか久しぶりに飛鳥と会話した気がする… 気取らずに有り体でいられた。
「…本当に困ったらってとこにはツッコまないのか?」
「私は…進歩を感じただけ十分ですから。それにあなたは弱いって、本音を包み隠さず言えたし。今まで言いたかったのに隼人さん真っ直ぐに私たちのことを第一に考えてくれるから言い出せなかったんですよ?」
女の子に弱いって… それも自分より弱いって言われて立つ瀬がない… でも家族の気持ちを鑑みてやれなかった俺はこの程度じゃ言われ足りない。
「やっと… あなたと家族になれた気がします」
…そんなに重いテーマだったのか、自分を頼ってくれない俺の存在って。俺は彼女を守りたい一心だったってのに… 少しすれ違うだけで比例したように関係は大きく離れて行ってしまうんだって気づかされたよ。
「…まぁ俺としてもその一言で少し荷が下りたわ。サンキューな」
話を聞きながら俺をおぶろうとする飛鳥。おいおいこの年で介護されてんの? マジかよ…
「ちょ、待てよ。女におぶられたら…」
「本当に困ったらどうなんですか? そんなプライドは身の丈をわきまえてから持ってくださいっ!!」
…あーぁ この先の接し方に困る。もうこいつに偉そうなこと言えそうにない… そういや… ふと思い出したことを彼女に話す。
「…お前、学校は」
「今日は学校の記念日で休みです。私のこと、もっと関心持ってください」
「わ、悪い… ってか朝出てったよね?」
「朝方に外出しましたが、制服を着ていましたか?」
「…言われてみれば制服を着ていなかったような…」
「今のままじゃ辛いです」
「え?」
「何でもありません」
…温かい背中を感じながらホッとしたのか、少し話したところで俺は気絶するように眠った。
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