愛泣き時代
ドッと疲れた一日だった… リビングで家族と飯を食って一番風呂の中で思った。
結婚… したらこの関係はどうなるんだろ… とか考える余裕ない。
今は時の流れに身を任せて…
午後八時、眠すぎて布団に入って… ピロリンッ メールの着信音が聞こえたような気がしたが、あまりの眠さに無視してしまった。
半ば気絶のように意識が遠のいていく…
◇◇◇
…リリリ…ディリリリリリ…
電気つけっぱなしで寝ていた俺を起こしたのは着信音だった。時計は午前二時…深夜に。寝ぼけていたので不信感も無しに出てしまった。
「…はい、もぃもし…」
やべ、寝起きで思ってたより低い声を出したな…怖がられてなきゃいいなと思った。
誰からか着信元を見ることなくスマホを耳元に当てる。
「は…はやとさん!! たすけ…っ」
小声で、小さな声で… 聞き覚えのある声に俺は目が覚めた。
「ん? …ま、
———ツーツーツー 携帯は切られた。
「おい…っ、おいッ!!」
切れたことに気づかず叫んでる。どうしよう、まずい… 助けようにも居場所が…
「待て待て待て… えーっとこういう時は… よし!!」
寝起きで頭がこんがらがりながらも、この後の行動を順序立てした。
…俺は自分の部屋を出て、隣の愛の部屋をノックした。
「愛、頼む緊急事態だ… オイ、いと…」
ガチャっ!! ドアが開かれた。愛はパソコンに向かっていて、開けてくれたのは来訪者を感知し開けるようプログラミングされたロボットの腕だった。
「やっと僕の出番? …人探しか何か?」
肝心なときに俺の心を読むのが愛。発明家の彼を頼ったのだ。
安否の確認が出来る機械を貸してくれと彼に頼んだ。
「…なるほど。それならこれ使って? 受信・発信先を割り出せるから」
と手渡された小さな機械。ケータイのプラグに差し込むと起動した。円に電話をかけて呼び出すも出ない。
もしかしたら『彼女は息を殺して潜んでいるかもしれない』と思って
「繋がんねぇ…」
「大丈夫、あと五秒で…」
イラつく俺を愛がなだめる。『僕はすごいよ。だから大丈夫だよ』…と。なんだそりゃ… まぁでも、ちょっと落ち着いたかな。そう思った矢先…
『ピ――ッ キャッチしました』と受信機から機械音が流れた…
「…おい!!」
「音声が流れるからメモして、隼人!!」
「ーー和泉国・
機械の声を受け取った俺は紙にメモした。それをネットで検索かけて青ざめてしまった。
…円の父親が営む『元気印物産』の入ったビルだったのだ。
ざわざわと体が冷えあがったのが分かる。誘拐か? 何が目的だ?
「出かけてくる!!」
と言った俺を『待って』と引き留めてきた愛。引き出しから道具を引っ張り出して俺に手渡した。
「…これ持ってって」
再び出されたのはやわらかな鍵… 型のグミっぽい物だった。回す手元の部分はプラスチックだけど、鍵刺す部分がグミみたいにグニャグニャしてる…
「何だこれ…」
「紗耶香ちゃんの
「あいつがピッキングの常習みたいに言うな… なるほど、ボタン一つで… これは使える」
鍵の部分がスライムのように形を変えることが出来るのだ。
「こりゃ便利だ、サンキュー!!」
と男の友情物語のような熱いグッドポーズを愛に向けた。
『いってらっしゃい』と
待ってろよ、
玄関で靴を履こうとする俺の背後から気配を感じたので、振り返ってみたら…
「ヒャッ…!!」
…後ろに人がいたので、思わず女みたいな声を上げてしまった。誰かと思えばパジャマ姿の飛鳥だった。
「何時だと思ってるんですか? 今二時ですよ…?」
「ちょ、…ちょっと用事…」
「…人からSOSを受けて応援に駆けつけるって顔してますね」
相変わらずこの子は…ピンポイントで当てやがって。
「そうだよ、文句あっか?」
フンッと鼻息散らしふんぞり返ったように堂々と。
「なんで他人に振りまく愛は持ち合わせてるのに…」
「あ?? 言いたいことがあるなら言えよ。一刻を争うんだから…」
「私を連れてって下さい。あなたの力になれます。お願いします…」
「…!!」
堂々と彼女は俺に言った。確かにコイツの助けを借りれるなら借りたい。しかし…
「もういい加減にしろ!! お前のわがままに付き合ってらんねぇんだよ。もう行くからな」
とドアノブに手をかける俺の腕が動かなくなった。手首が回せないのだ…
飛鳥は俺の背後で左手で自分の右手首を掴んでいる。
「…連れてってください」
よく分かんないが飛鳥の妨害工作だな…とイライラを募らせながら思った。そしてそれはすぐに噴火した。
「何かあったら、俺はお前を許さねぇからな!!」
と背後の飛鳥を睨んで凄んで見せたら彼女が怯えてひるんだ。俺の体は解放されドアノブを回すことに成功した。
「待って!! 私、あなたをう…」
後ろから飛鳥が叫んでたけど振り返ることせず外に出た。
聞きたくないから急いで…
街を駆ける。
夜の高速を駆け抜けて清永
◇◇◇
…っょい、わっしょい…
「…なんだ?」
元気印物産が入ったビルに向かう途中、西門区岩田。
深夜3時にも関わらずお祭りのような掛け声があった。霊的なものかと思い不気味だった。
清永までバイクなら五分くらいのとこである。もうすぐ…
午前三時七分、オクトレイビル前にバイクを止め中に入ろうと試みるもシャッターで入口は封鎖され、人の気配はない。
ビルの周辺を回るも形跡はない。ビルの右側… 倉庫搬入口、同ビルに同じく入る食堂用の人通りの少ない道路を前にした入口。
鍵穴もある。愛にもらった鍵の先端、やらかい部分をツッコんでプラスチック部分の回すとこについたボタンを押すとガッ…と音が鳴る。
グミが硬化して
ガチャっと開けて… 俺は一階に目もくれることなく上へ。
社長室のある五階へ階段を駆け上がる。一階も辿り着いた五階も真っ暗。
誰の気配も感じない。がらんどう… 細胞レベルでここじゃないと感じ取る。
「まどか―ッ!! どこだッ!!」
いないと分かっても潜んでいるかもしれないと呼びかける。反応はない。社長室のドアを開けた時…
ガチャン!! ヴヴヴぃいい… 電気が付いた音だ。
暗がりのビルに何者かが光を差し入れたのだ。
突如点灯した蛍光灯で五階が光で満たされる…同時に今まで暗闇で見えなかったものまで見えた。相手からも俺が見えた。
「そこで何をやってる!!」
社長室にいた俺のもとに真っ先にやってきた警備員。
こんなとこで捕まるわけにはいかないと俺は警備員の頭上を飛び越えビルを下る。階段を下ってビルからの脱出に成功した。
「クソッ… どこにいるんだ。ここじゃないとなると… クソ!!」
とりあえずバイクにまたがって西口の方へ… 焦りから独り言が多くなってしまう。
駅の傍らに止めて円を探すも
何件も何件もラブホや飲み屋を回っても何の情報も得られず腕時計に目をやると時刻は午前五時半… 始発は動き出し、反対に店は閉まり出した。
社会は俺たちを置いて動きだそうとした頃だった。
「あんちゃん、血まみれじゃねぇか… 大丈夫か?」
朝帰りのおっさんが寝っ転がってるおっさんに言うって構図。普通は何じゃこりゃと不気味がるだろうがこの街は違う。
そんなもん日常茶飯事だから…
「ヒック… う…あぁ。おっさんが若い子連れてたぶらかしてたからヒューヒューと煽ってたらこの様よ。怖いもんねぇ…」
暗闇を照らす一筋の光のように手繰って…確証はないがこの会話のもとに駆け寄った。
「おい!! そいつはどこに行ったんだ?」
デカい俺が近づいてきたもんだから『おぉっ』と声挙げて驚いた寝っ転がってたオッサン。
「な、なんだよてめぇ…」
体をたじろかせて言うオッサン。無理もない、こんな大の大男が全速力で近寄ってきたんだから…
「
「い…いや、東口へ行ける専用通路を通って…」
東口…? 競合会社やはぐれモンが金や権利を巡って元気印物産に挑戦状でも叩きつけてきたってのか?
手土産に
でも血の匂いはしなかったし…
「…兄ちゃん。悪いことは言わねぇよ。あいつらは追わないほうがいい」
酔っ払い顔のオッサンが唐突にビシッと真顔で言う。
「え? あいつ、…ら?」
「ああ、この街で幅利かせてるチーマー集団だ。最近はヤクザともつるんでていい噂は聞かない」
「そうか…。これは礼だ。結構詳しいんだな…」
胸ポケットに入れてある、金の入った封筒に連絡先を書いて差し出した。
「お、こんなくれんのか…? ああ、この街でライターをやってる。…こういうもんだ」
名刺を受け取った。東出周作。猛毒スナイプズの記者ッ?
「あんた、も…」
うどくスナイプズの記者か? と言いかけて止めた。そんなこと聞いてる場合じゃない。
「東出…さんか。その集団は今どこで
「当事者に関しては東の方に向かったのを見たきりでな… 奴らのたまり場なら岩田町に出没してると聞くが…」
「…!!」
岩田町のワードを聞いた瞬間、ピースがハマったかのように反応して東出さんほったらかしで走り出してバイクにまたがった。
エンジンをかけてバイクを東出さんのそばに寄せ、言い足りなかった言葉を残した。
「そうか、詳しく聞きたいんだが時間なくてな。…後日、その話をくわしく伺わせてくれるか?」
「…ああ。金が貰えるならドンと来いってもんだ」
俺は礼を言うと再びバイクにまたがり街を離れる。東口には向かわずに…
◇◇◇
西門区岩田町… 清永から岩田まではビルがポツポツと建っているがバリバリのオフィス街とは呼べない。
大きな道路の側方にはコンビニやスーパー、レストランにマンションにビルなどが見える。
朝六時にもなると会社に向かうスーツ姿の人が見え始める。
俺はバイクを走らせる… 先ほどの若者たちの祭りがあるかのように感じ取ったビル前まで来た時のこと。
「うわぁああああっ 死体だ!!」
おじさんの悲鳴が聞こえた。声の下に近ずくと血まみれで、はだけた制服の少女の姿があった。
それは俺が探してた女、俺に助けを呼んだ女。
…その血まみれの体に近づく俺を横目に第一発見者のおじさんはは緊急ダイヤルを押して警察を呼び寄せた。
俺は仰向けの血まみれの身体を引き寄せて…強く抱きしめた。
「
彼女の血まみれの頭を胸に抱いて何度も何度も名前を叫んだ…
頭がこんがらがらがってる。ひどく疲れた。
感情のまま… 俺は声も出さんとあふれる涙を彼女の右肩の部分で拭う…まるでこのことを想定して用意したかのようにドバドバと涙。周りなんて気にすることなく…
そんな俺の姿を見ておじさんが何かを叫んでいたが覚えてない…
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