身体が叫びたがってる
西門区・清永… 活気だっている夜の街を徘徊していた俺に『…あ、あの… 私どうですか?』と声かけてきた女。
写真で見た顔のまんま…こんなすぐにビンゴって自分が怖い。俺はスナックにてほろ酔い気分だったのに覚めちまった。
まぁいい…報酬はたんまり、時給換算したら日本一じゃないか? …いや、それはないか。上には上がいる。
話を聞くためにレストランでも寄ろうかと思ってたのだが、彼女が『しばらくお風呂に入れてないからホテルに行きたい』と恥ずかしがりながらも積極的なことを言う。
(【猛毒スナイプズ五月号】-やれる町ベスト10-より川島記者『女子大生は清永に来やすいよね。おじさんって存在はイリーガルだけど援交に労基法当てはめるならめっちゃホワイト。ついついサービス精神から過激な行為に走りがちなのよ』)
そばにあったホテル・大切(←と書いてプレシャス)に入った…何をだ? 時間をか?
ラブホって言うより宇宙… 暗いけど足元明るく…見上げると屋内なのに星がキラキラ…なロビーを抜け部屋へ。
ロビーには人がいなくて困ったけど、前に来たことがあると言う
なんでも、部屋の鍵は自販機で買うという無人システムらしい。
形式上20歳以上がなんたら書いてあるけど、鍵の隣にはビールも売ってる… 大丈夫か? 日本。飛鳥もこういう感じなのかなと思うと、ちょっと悲しくなった。
彼女がシャワー浴びさせてる間、ベッドに座って待ってる。話聞くだけなんだけどなんか俺がもてなされるみたいで緊張するな… いや、断じて何もせんぞ…?
岩橋
恥ずかしがりやで先頭に立つような子ではなかったと… お父さん、ホントに向き合ってたの?と思った。
「えと… 浴び終わりました」
身体にタオルを巻いて座っている俺に言う円。
「服着ろ…」
豊満なボディライン… 最近の女の子ってみんなこんななのか? 俺は硬派を装って言う。
「え… 私じゃいやですかぁ?」
と俺の横に座る彼女。甘えた声出して誘ってくる。
「…別にプレーしに来たわけじゃない。さっきも言っただろ? 親父さんが俺に依頼してきたんだ」
「…別にどうでもいいですよ。元・父のことなんて」
「どうでもいいって、俺がどうでも良くねぇよ。…もうどのくらいになるんだ? こういうのって…」
「こういうの?」
「いや、だからその… エンコー、を…」
「二回目です」
「へ?」
俺は思わずベタ過ぎる反応するくらい反応した。んなバカな…
「私すっごいエッチに興味あったんですけど、女子高だったし出会いもなかったから経験なかったんです。一昨日初めて…」
「はは… ロスト後なのね… 友達もやってたりするの?」
「はい。私は奥手だったからその手の話はしなかったですけど… 清永にだってに同級生の紹介ですよ」
「へ、へぇ…」
俺は飛鳥が心配になっていた。身体売って家族を支える金作った日にゃ、涙の川が出来そうだ。
「…私、お母さんと喧嘩しちゃって… お父さんがあんなだからおかしくなちゃって、精神科に通院してる日々なんです。すごい過保護になっちゃってて。それが嫌で家飛び出して後輩の家にお邪魔したんです。その際にお金も稼げてエッチも出来るここを紹介してもらって」
「…まぁ、なんつーか… 身体売るなんて良くないぞ。恋人や彼氏がそんなこと知ったら失神ものさ」
好きなことやって金も手に入れて… 響きはいい。けど…
「えー? お兄さんもお母さんみたいにそういうこと言うの? …じゃあ私、お兄さんタイプだから恋人になってエッチしよ? 今度はカッコいい人としてみたいって思ったから声かけたの。前の人はタイプじゃないからとっても楽しみぃ♡」
この猫かぶりのビッチめ‼ 急に元気になりやがって…
「私、一昨日初めてエッチしたけどびっくりしちゃった。あんなにおっきな声出して恥ずかしいけど気持ちよくなって… 頭スースーしてて新しい自分になれた気がしたの。最初は怖かったけど相手のオジサンが色んな事してきて…初めてのこといっぱい、とっても幸せで… 羞恥心とかもうどうでもよくなっちゃった♡ あんなに気持ちいなら、もっとはやくに知りたかったなぁ…」
恍惚な表情を浮かべて言う彼女に、俺は冷静に向き直って問いただす。
「…頭がスースーってのは?」
「気持ちよくなるおクスリを飲んだの。お尻にも塗り薬入れられてとっても幸せだったぁ。ねぇ…お兄さんエッチしようよっ♡」
「…ふぅ」
俺はタバコに火をつけて一呼吸…
「言いたかないけど、今のお前に魅力はないよ?マジで…」
一気に冷めたみたいな顔で俺を睨む彼女。本当に今の感じじゃ勃ちそうにない。
「…ハァ? 何それ、ホテルまで来て…」
「親父さんと一緒じゃないか、だらしなく楽しんでお母さん傷つけて」
円はその言葉に反応してか立ち上がってドンドンと地団駄を踏みだす。
「あ、アンタに私の何が分かるのっ? 大人はすぐそうやって上から… 私は誰からも望まれて…」
パンッ… 右手で彼女の左の頬を叩く。思わず手が出てしまった… 聞きたくなかったんだ言葉の続きを。
…何で今どきの若い子はすぐそう言うこと言うのかね? 単純だ、戦時中に生まれてないから。
「簡単にそんなこと言うな。望まれてようが、なかろうがな…生きていかなきゃいけないんだよ!!」
…ダッセー。過去の弱い自分を思い出して、自分を叱るように女の子に手を上げて説教くさいし…
「う、う、うぇえええんっ!!」
こ、子供かっ。びぃびぃ泣いてる。なんだか罪悪感しかない…
「わ、悪いっ!! ついスイッチ入ってしまった…」
と謝ったけど泣き止むまで時間がかかった。
「許してくれよ…。帰ろう?」
布団にくるまってる円をさすりながら必死に説得する。こんなタジタジになったのは久しぶりだ…
「じゃあ私とエッチして?」
布団が防音効果を発揮して聞き取りにくいはずなのにはっきり聞こえた。ホントに二回目かよ。
「なんでそうなる…」
「…ほっぺが痛むから」
「あのなぁ…」
難しい子供相手の保育園の先生のようにため息。親御さんって結構大変だなって思った。
「私、ビンタなんて初めて喰らいました…」
布団から出てベッドの真ん中にちょこんと座る円。潮らしくしてる彼女は魅力的だ。
「わ、悪かったよ…」
ちょっと親父さんの顔が浮かんだが俺に怒鳴りつけてくる… わけないな、あのひ弱じゃ。
「でもなんか嬉しかった…」
思い出して笑う彼女。あどけない笑顔にやられそうになった。
「え?」
彼女は俺に居直って俺の膝に手を当てる。アレ… 行ったことないけど風俗嬢みたいだ…
「付き合ってください、私と…」
急にかっわいい顔して告白? 目元潤ませながら迫られたら世のオジサンたち放っておかないぞ…
「…名前も知らない暴力男に惹かれるな馬鹿っ」
と、げんこつ。理性保つので必死。『イタっ』と嘘臭く痛がって頭に手を当てた途端、バスタオルが
「お、おっおいっ」
まるでチェリーボーイみたいに彼女を見ないように頭を反対に回して両手を振って…
そうでもしないと… おかしくなりそうだ。
「…えへへ。私、愛のあるセックスしてみたいです。お兄さん、お名前を聞かせてくれますか?」
社長令嬢あるまじき発言だな。胸も尻も隠さないで…
「何を言いだすんだっ… お、俺は川崎隼人。君は…円ちゃんだったね。どわっ!!」
再び彼女に目をやるとバスタオルをつけるどころか畳んで床に置いてるところだし… ベタベタにビックリしてしまった。
「あははっ 硬派っぽくカッコつけて『どわっ』って…ははは」
「…頼むから、服着てくれ」
再びソッポを向く俺… やばい恥ずかしい。見抜かれてるし年下にからかわれてやがる…。へこむ俺に背中からむにゅっと抱きしめられる。
「…隼人さん。今すぐしたいの。このままじゃ違う誰かに買われちゃう… 私あれから変なの、身体。助けて…」
迫ってきた背中越しに感じる胸の感触と甘い匂いに頭がおかしくないそうだ…
「おい…や、やめ…」
やばい、やばい… 白目むきそうなくらいクラクラな頭でぼーっと。熱帯夜でもないのに身体が熱い。熱い…
「あはっ、もしかして童貞ですかぁ? それなら先輩のアタシが… きゃッ…」
一瞬おびえた顔してたな。振り返ってすぐに見える彼女の胸をわしづかみにして… そこで俺は飛んだ、理性と記憶が…ない。
◇◇◇
「…マジか。いやマジか…」
早朝5時、すっぽんぽんで眠る俺の横にすっぽんぽんな円が俺の腕を絡めて眠っている。手で目元を覆って頭に抱えた。
「お、お、オーマイグッドネスッ!! くそ!!」
あー、ガックシきた… 俺の声を聞いてか彼女も目を開けた。…またやってしまったのか、俺…
「おはよういございます。すんごいんですね… もうライオンみたいに私のおっぱい
「やめやめやめッ!! ったく俺のバカぁッ!!」
ベッドに頭ガンガンぶつけるも痛くはない。でも疲れるけど何も考えなくていいし楽…
「え…? …どうしたんですか?」
若干引いてる円を引かせないように必死に落ち着きを取り戻した。
「俺さ… 誘惑されて高ぶっちゃうと、どうにもタガが外れて身体を貪っちゃうらしいんよね。俺の意思が介入することなく… あのマジ言い訳になっちまうけど昨日のは手違いだ…すまん…」
スゲーこと言ってるって自分でも分かってる。でもマジに病気なもので…
ここ一年の話… 俺は(って言うか俺の身体は)おいたを犯してしまっている。
薬やってるんじゃないかって思われるかもしれないが、過度の性的興奮に対して歯止めが利かなくなる。俺に言い寄ってきた女を漏れなく抱いてきた…ようだ。気づいたら朝で、裸の女が横に… って状況が五回あった。
強姦とか犯罪まがいのことを記憶にはないけどやってるのかもしれない… そんな事、家族に言えるはずもなく今に至る。
マジでどうなっちゃうんだろうって思うけど、この症状をどこに相談するよ? 恥ずかしくてできねぇ…
それにもしかしたら覚醒者としての一連の出来事… 生理現象の一種なのかもしれない。
【覚醒者】… 人とは違う造りで、でも人であって…
だとしたら見せる
「…じゃあ魅力感じてくれたんだ。えへへ…」
「え?」
コイツが底なしの笑顔とポジティブさを見せるから、俺もまた引いた。
「私のこと魅力ないって…」
気にしてたのか… もう少し状況を見て言葉を選ぼうと思った。
「いや、そんなのハッタリだよ? いや、正確にはあの時点では君の魅力よりイラつきが勝ってたからあってるけど」
「じゃあ、今なら私と付き合ってくれますか? 恋人同士なら貪ったって気に病むことないでしょ?さあ、どんどん来てください」
「いや…その」
「何です? バツの悪そうに…」
お前は男かってくらいプライベートをズケズケと直進するなって思いながら俺は隠し事を漏らした。
「俺さぁ… …彼女いるんだよな。ほんと
覚えてないしなんつう言い草だ。やり捨てポイかよ。でもこの流れはマズい…
「別にいいですよ、いると思ってたし。私はセフレでも二号でも… 思いっきり私を求めてくれるなら…」
コイツはコイツで俺のやんわり拒否を完全にスルー。なんでそんなこと平気でいてるのか…なんていう権利、俺には絶対ない。
「いや… そうじゃなくて…」
俺が悪いのは分かってるけど疲れるし重い。だから付き合いにまでは発展せずワンナイトラブで済ませるんだな、ナンポ師共は… 気持ち少しわかる俺が嫌だ。
しばらくは『こんなのおかしいよ…? いや俺もやっといて、おかしなこと言ってるとは思うけど』とか同じようなこと言ってははねのけられた。議論は平行線をたどっていたが決着の時が来た。
「この関係を続けてくれないなら家に帰りません。良いんですか?」
ガキが年上を脅しやがって…
「…じゃあ身体を求める以外の扱いがどうであっても泣くなよ? ガキができようが、つわりで苦しもうが俺の知ったこっちゃ…」
ひどいこと言ってる。でもこの終わらないふざけた会話達にうんざりした…
言ってること無茶苦茶なのは分かってるけど、追い詰められて言葉と考えが連携取れてないから口が先行してしまう。
要は思ってもないことを言ってしまった。
「いいよ…? この愛だけで私、生きていける」
なんつーことだよ。とんでもなくサイテーで酷く糞っ垂れな俺をお前は求めるのかよ。
愛無きセックスの果ては望まれない子供だけだ。そして俺はそんなん大嫌い。
…なのにいざ同じ立場になったら嫌いだった大人たちと同じようなことをしてしまいそうになる。
その都度立ち止まるけど俺は真っ直ぐ進めているのだろうか…
「一か月に一回は私を抱いて。それだけしか求めないから」
「…」
女ってのは一度大人への扉を解放すると駆け足で上がって行ってしまう
。俺は身体ばっかの成長で足踏み状態な毎日だ。今さら他人と比較してがっかり、今まさに思春期を迎えてるのかもしれない。
なんで割り切った関係の都合のいい女になれちまうんだよ… 俺が同じ立場なら絶対嫌だ。
一番の座を欲されたら欲されたで俺はどうすればいいのか分かんないけど。
◇◇◇
「へぇ… お父さん、あそこで働いているんだ…」
帰りの電車に揺られながら肩をくっつけて二人。どうやら父親の勤め先も知らないでたまたまあそこで根を張ろうとしてたらしい。
そんな馬鹿な、見せつけるために若しくは意識的にあの町に行ったんだろ?…そう考える俺は醜いのでその醜い考えを早々に捨て去った。
「親父さんが俺たちの関係知ったらどうなるんだろうな…」
なんで俺って深く考えもせずにそんなこと言っちまうんだろうかと口に出してすぐに思った。
寝ボケてんのか… 脳への伝達が遅延して影響を及ぼすのだと考えよう…。じゃなきゃ馬鹿すぎてもたないわ。
「多分、何も言えないよ。前に私が浮気のことを切り出したら黙り込んじゃって… 自分の言葉がブーメランのように自分に刺さるから慎重になりすぎて軽々しく物事が言えなくなったんだよ」
…俺がこいつに説教じみた真似してたのがフラッシュバックして恥ずかしすぎる…
親父さんを軽蔑しときながら俺も俺でだらしない… ホント今思えば、ブーメランな一日だったよ。…車内で円と連絡先を交換した。
きっとしなかったら彼女は狂ってしまう。俺は絶対真っ当な人間じゃないけど、彼女を一人にするより真っ直ぐ導けると思った。
◇◇◇
喜楽駅手前の市原駅。俺は依頼通りお袋さんのところまで円を届ける。
彼女は『わざわざいいよ』なんて言うけれど念のため。仕事はきっちりこなすタイプだしこなさなきゃ気持ち悪いってのもある。
「ありがとっ! 私に愛をくれて」
そう言って家に入って行った。親父さんには一報入れたがお袋さんにはいれなくていいだろう。
帰り際、彼女との別れ際の言葉を思い出す。あんな可愛かったんだって。よくは分からないが人は愛を受けた分、人に愛を振りまけるんだなって思った。
その反面、飛鳥にだって愛情を注いでるのに振りまいてくれないのは何でだろう、と思った。
…家に着くと鬼の表情の飛鳥が迎え入れてくれた。愛情とは無縁の…
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