第285話「遊技場を作ろう」
二晩続けて四人の妻と、妻候補を相手し続けた俺はそのままダウン。
ベッドから起き上がれずオラケルの診断を受けていた。
「タケル、これはまたたいそう精気を使ったようじゃの。いくらタケルでも、二晩続けては持たんじゃろ。ここはやはり、これの出番じゃないかの?」
オラクルが取り出したのは、哺乳瓶だった。
乳白色の液体が入っているが、明らかにミルクではない。妙にドロリとしている。
「これ、中身はもしかすると精力剤か?」
「そうじゃ。リアの
リアの母乳を飲むのも抵抗があるが、それ以上に薬の力は使いたくなかった。
だが、このまま寝込んでいるわけにもいかないし、ここは大人しく飲んでおこう。
「味は美味いんだよな……」
身体に栄養が染み渡るようだ。
しかしこの、無理やり元気を補充されるような感覚はほんとに慣れない。
「ちゃんと成分を調べてみたが、身体に悪いものが入っとるわけじゃないんじゃぞ。タケルの体質に合わせてるんじゃから、むしろ身体には良いはずじゃぞ」
「ほんとかよ、こういうのは絶対後で副作用とかがあるのがパターンだろ?」
「ワシが作るものを信用せんか」
「信用してないわけじゃない。ありがたいけどさ……」
お陰で元気いっぱいで起き上がれた。
「ふふ、礼ならちょうどほれ、ここにベッドがあるじゃろ」
「精気を吸わせろってことか?」
含み笑いしてオラクルが、身体を擦り寄せてくる。
「よく考えてみれば、ワシがタケルの精気を回復させて吸えば、無限機関が生まれそうじゃな」
「なんか精気製造の道具にされてる感じがするんだが?」
何を考えてるのか知らんが無茶をするのは止めてくれよ。
「気のせいじゃ気のせい、ほらワシにも早くタケルの美味しいミルクを飲ませてくれなのじゃ」
「オラクル下品!」
まあ、そんな感じで俺の日常は過ぎていく。
妻達にすっかり翻弄されてしまっているようだが、これ以上押し切られないようにしないと。
もちろん、家族の相手は大事だ。
夫の勤めを果たすことも大事だろう。
しかし、このまま後宮にいるとこんな調子でどんどんと嫁が増えていきそうなのが怖い。
なんでも、先の戦争のご褒美といえば、俺が誰の告白でも受けるという噂が立っているそうで。
城の通路などですれ違うメイド達が俺を見る目が、なんか怖い。
この流れはマズイぞ。
そもそも事の発端は、先の戦争で願いを聞くなどと言ってしまったからだ。
では、願いを叶えるのを止める?
いやいや、そうではなくこっちから積極的に叶えに行く!
頼まれていた
俺自らが積極的に出向いて、片付けて行くことにしよう。
このまま城にいると、嫁が無尽蔵に増えそうな気がするって理由もあるが、そろそろ家にじっとしているのも飽きてきた。
「ちょっといいかな?」
俺は、新しい後宮の建設に出入りしている大工ギルドの親方に声をかけた。
「なんですか、王様」
「ちょっと新しい遊び道具を作るのを手伝って欲しいんだが」
「ほう、遊び道具ですかい。こりゃ面白そうだ」
俺が設計図を見せると、親方は興味深そうに見て、材料を集めに走った。
※※※
「王将閣下。保養所なら飲み屋でもあれば十分かと思うのですが」
俺が兵士の保養のために作る遊技場の話をすると、義勇兵達からそんな疑問が出た。
「いや、夜の店は別に街まで繰り出せばいいんだから、今でも不自由してないだろう。義勇兵には女子もいる。男女が分け隔てなく一緒に楽しめるレクリエーションがあったほうが良くないか?」
「それは、そうかもですな」「あたし達は、そっちのほうが嬉しいです!」
「だよな。そこで、こんなものを作ってみた!」
俺が城に出入りしてる大工達に作ってもらったビリヤード台と、ボーリングのボールとピン一式を運ばせる。
とりあえず試作品を一セットずつだ。
「なんなんですか、この台は?」「こっちのデカイ玉にピンはなに?」
「まあ一から説明するので待て、こっちの台はビリヤードというものだ。こうして、台の上の丸い玉をついて穴に落とすのだ」
俺がキューでビリヤードの白い玉をついて①の玉を落としてやると、歓声が上がった。
「なんだこれは、上の穴から落ちた玉が下の穴からでてきたぞ!」
兵士達はそれだけ子供のように目を輝かせて「すげー!」と感動している。
みんな娯楽に飢えているのだ。
これほど小気味よい反応を見せてくれると、作った俺も気分がよい。
「凄いだろ。そこが苦労したところだ」
「ではまず、私が代表してやらせていただきますね」
義勇兵団の副団長。優男のアランがさっとキューを取って、玉を穴に向かって打ち落とした。
さすが、適応が早い。一度見ただけで覚えたか。
「王将閣下、これでいいですかね?」
「アラン副団長、かっこいい!」
さっそく玉を落としたアランに部下が歓声を上げる。
「うーん動きはそれでいいんだが、ゲームのルールがあるからそれではダメなんだ」
「なるほど、ルールがあるのですね」
「キューで玉を打つのは合ってるけど、数字の付いてる玉を直接落としちゃダメなんだよ。俺がやってみせるから、よく見てろ」
俺は、白い玉を打って②の玉を落とした。
「白い玉を打つのですか?」
「そうだ、打つのは白い玉だ。白い玉を打って他の玉を当てて、①の玉から順番に落としていって⑨を落とした奴の勝ちだ。順番の数字の玉を落とせなかったり、白い玉を穴に落としてしまったら次のプレイヤーに交代だからな」
「なるほど、奥深いゲームですね」
アランが感心したように言う。
次は自分達の番だと、兵士達がビリヤード台に寄り集まってきた。
「俺もやってみるぜ、ありゃ?」
「白いの落としちまった。これ思ったより難しいなあ」
「玉の反射を考えるのがコツだから、よーく考えて自分達で工夫してやってみろ」
あれこれ説明するより、遊びながら覚えたほうがいいだろう。
下手なりにみんなプレイに没頭している。ビリヤードのほうは盛り上がって来た。
「じゃあ次は、ボーリングの説明だな」
「このデカイ玉も、玉に当てて落とすんですかい、王将閣下?」
女砲兵長のジーニーは、ボーリングのデカイ玉に興味を持ったらしく、食いついてきた。
「いや、違う。こっちのボーリングは、このピンをこうやって三角形に十個並べて、投げて弾き飛ばすだけだ」
「これはわかりやすくてあたし向きですね。王将、私からやってでいいですか?」
「おうやってみろ」
ジーニーがさっと投げると、一気に十本のピンが弾き飛んだ。
「これはストライクだ。一番高い点数だぞ!」
「ハハッ、大砲の弾を当てるのに比べたら簡単すぎますね」
「おーし、ジーニーができたんなら……俺もやっていいすか!」
ちょっと抜けてる総団長のマルスがやってきた。
「大丈夫かな、まあピンを立ててやるからやってみろ」
「よーし! これでぇぇ! どうだぁぁ!」
無駄に肩に力の入っているマルスが全力で投げたボーリングの玉は、ピンをかすめもせず明後日の方向に転がっていった。
「ガーターだな」
「ガーターってなんすか?」
「本来は横に溝を作ってそこのに落ちることになるんだが、まだ作ってないけどまあ要はゼロ点だ」
「ハハハハッ、マルス総団長へったくそ!」「ゼロ点だー!」
「お前らうるせえ。このゲームは難しいんだぞ。お前らもやってみろって!」
「しょうがない。じゃあ、いっちょ隊長にお手本みせてやりますよ」「次、俺ねー!」
部下達が投げると、みんなちゃんとピンに玉を当てられた。
ジーニーのようにストライクを出す兵士もいる。
俺は、スコアボードの付け方も教えてやる。
とりあえずマルス総団長は、ガーダーからだからな。
「ちくしょう、お前らすぐピンを並べろ。次は、俺だってストライクだぞ!」
マルスは今度は細心の注意を払って玉を投げた。
おっ、これは良いコースだと思いきや……また途中からくるっと向きを変えて玉は明後日の方向に転がっていった。
「またガーターだ。お前、逆にすごいな」
今のはある意味ミラクルだぞ。
なんでお前の玉だけ変化球なんだよ。
「王将、笑うならまだしも、褒めるのはやめてくださいよ。心に響きます……」
「いや、ボーリングの玉すらピンに当てられなくて、よくあの戦争を生き抜いたなと思って、まあいいや貸してみろ」
マルスの玉を借りて俺も投げると、やっぱりストライクだった。
やっぱり玉じゃなくて、マルスの腕がおかしいのか。
ジーニーの言うとおりだ。
ボーリングは、長らく戦闘経験を積んで精密射撃を毎回やっている俺からしたら簡単すぎるゲームだ。
マルス達が遊ぶのにはいいが、コントロールのいい砲兵達にとってはちょっと簡単すぎる。
他のゲームも、もっと考えて作るといいかもしれないな。
「うはは、隊長またガーダー! 一本ぐらい当ててくださいよ!」
「うるせえよ。なあいまのノーカンで頼む! もう一回、もう一回だけ投げさせてくれぇぇ!」
相変わらずマルスの奴は下手くそだったが、こういう奴が一人はいたほうがゲームが盛り上がるんだよなあ。
マルスは本当に何やらせてもダメな男なのだが、そのダメっぷりがひょうきんで、みんなが喜ぶのでそれ自体が立派なレクリエーションになっている。
毎回思うが、ほんとに得難い人材だなこいつ。
そう思って後ろで笑ってると、マルスが俺の前にやってきた。
「なんだ、もう遊ばないのか?」
「そうじゃなくて、あの……俺達のために、王将閣下自らが考えてくださってありがとうございます」
そんなに改まって頭を下げられると、なんかこっ恥ずかしいぞ。
「いや、この前の戦争に志願してくれたお前らへのささやかなご褒美だから気にしないでくれ」
「俺達のことをここまで考えてくれる王は、勇者様しかいませんよ。おい、お前らもちゃんとお礼言っとけ!」
マルスがそう叫ぶと、みんなが声を揃えて「ありがとうございます!」とお礼を言ってくれた。
こんな物でそんなに喜んでくれるなら作ってよかった。
※※※
「王様、王様、今の見ましたか。私、一気に⑤と⑥の玉を連続で落としたんですけどこれありですか?」
「それはありだぞって、いつの間に現れたベレニス!」
いつの間にか、俺の護衛騎士であるベレニスとクレマンティーヌが、ビリヤードに興じる義勇兵達に混じって遊んでいる。
お前ら義勇兵団じゃなくて、近衛騎士団所属だろ。
「王様を探しに来たんですよ。義勇兵の兵舎にいるって聞いたから」「私達は王様の護衛騎士なのですから、勝手に出歩かれては困ります」
「それは悪かった。こちらでの仕事は一通り終わったから護衛は必要ないぞ」
「なんだ用事は終わったんですか?」「それは、ちょうどタイミングがよかったですね」
「えっ、なんだ。二人はもしかして俺に何か用があってやってきたのか?」
「はい、実は後宮に警備上の問題が発生しました」「ジル近衛師団長とマリナ近衛騎士団長より、至急王様をお連れせよとの厳命を受けております!」
警備上の問題って、なんか前にそんなパターンあったぞ。
あれだろ、この前の
手口が見え透いてる。
俺は、絶対に行かないぞ。
「うむ、では二人に命じる。俺抜きで警備の話を進めてるように伝えてくれ。結果は後で報告してくれればいいから」
「ダメでーす」「ほら、王様。いつまでも遊んでないで参りましょう。大事な王様のお仕事ですよ」
いや、お前らも楽しそうに遊んでたよね。
行きたくないって言ってるだろ、なんで護衛騎士が王将の命令を聞かないんだよ!
俺は、ベレニスとクレマンティーヌに両方からガッチリと腕を掴まれて連行されることになった。
ああ、せっかく理由を付けて逃げてきたのにまた後宮に逆戻りとか。これ本当に嫌な予感しかしないぞぉ!
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