第281話「つかの間の日常」
「生き返りますー」
そうどこか機械的にリアの声真似でつぶやいているのは、中庭の露天風呂に浸かっている混沌母神様だ。
この露天風呂は、カアラが小一時間で後宮の中庭に作成した。
どうも風呂が気に入ったらしく、いつまでも風呂に入っていた混沌母神様だったのだが、そうなると他の人が入れないので中庭を掘って適当に風呂を作り誘導したらスポンと入ってくれた。
こうすると触手は大人しくなったので、当面の心配はなくなった。やれやれである。
「とりあえず、これでよしだな」
「あとでちゃんとしたお風呂にいたしますね」
カアラ達にとって、この触手お姉さんは創造神なのだ。
神のおわしますところとしては、綺麗な神殿にしたいらしくオラクルが迷宮から大理石を運ぶと言っていた。
後宮の庭に大理石風呂ができるのは景観的にどうなんだろうと思ったが、庭の休憩所が転移魔法陣になっているので今さらである。
後宮のテラスの近くでは、まだ一歳児のコイルとオラケルが飛行魔法の訓練をしていた。
暇になったカアラが、二人に請われて魔法指導を始めたのだ。
とりあえず庭で攻撃魔法の練習をされてはかなわないので、王都の郊外に魔法練習場を用意させたのだが、そこまで移動するのに飛行魔法が使えたら便利だ。
「やった、飛べました!」
「うう……うまくできない」
成長が早いオラケルは、コイルよりも身体つきはしっかりしている。
それなのに、魔法の才能では弟のコイルのほうが上という可哀想なことになってる。
「うん、コイルはよくやったな。オラケルも、その歳で地面から浮けたんだからすごいぞ」
「おとうさん、コイルみたいにうまくできないよお」
やっぱりまだ赤子だ。
泣きじゃくっているので、慌てて慰めてやる。
「いや、焦るなオラケル。俺なんか魔法一切使えないんだぞ。お前のほうが凄いし、すぐ飛べるようになるからな」
「そうですよ、オラケル様は国父様と伝説の不死王オラクル様の尊い血筋を引いておられるのです。将来は、大魔王になられる才能がおありなのです!」
カアラも慰めてるつもりみたいだけど、それちょっとプレッシャーかけすぎじゃないのか。
まだ一歳児だぞ。
「お父様。私は、向こうまで飛んできますね」
「あー、コイル待ってよ!」
ちょっと教えただけでスイスイ飛べるようになってしまったコイルは、空に飛び上がってしまう。
少し浮かんでるだけのオラケルは、必死に追いかけようとするが無理だった。
「カアラ、放っとくと危なそうなので子供達を見ててやってくれ」
「はい、かしこまりました」
カアラは、オラケルを大事そうに抱えるとコイルを追っかけて飛んでいった。
「やれやれだな」
「まったくです。自分の子の方は放ったらかしですから、悪いお母さんでちゅねー」
シャロンが、カアラの子、カアルを抱いて子供部屋からやってきた。
昨日、庭を魔法訓練で破壊されたので、魔法を使っているカアラ達をそれとなく監視していたのだろう。
「カアラはカアラでなんか放っとくと危なそうだから、シャロンが見てやってくれるか」
「はい、ごしゅ……いえ旦那様。後宮は私の管轄ですので、ちゃんと見ておきます」
「頼むよ」
あと、いい加減シャロンもご主人様呼ばわりするのやめよう。
この前の戦闘で、奴隷少女銃士隊を率いて戦ったので昔の癖が戻っちゃったんだな。
「自分の子も大事にしてくれるといいんだけどな」
俺はシャロンから、カアルを受け取って抱き上げる。
「だー」
ふふ、笑った。
可愛らしい子供だよな。
「カアラさん、あれで授乳にはこまめに来てくれますから可愛がってないことはないですよ」
「そうなのか、それならいいんだけど」
そこに、ふらっと赤子がバサバサと飛んできた。
続いて、母親のアレとダレダ女王がやってくる。
「おい、アレ。赤ん坊が普通に飛んでるんだけど?」
「勇者はなんで不思議そうな顔をしてるのダ。この子らは、まだ足が立たぬから飛ぶしかないのダ」
いや、普通産まれたてすぐの赤子は空を飛ばないだろ。
一歳児で飛行魔法を覚えたコイル達も相当だが、
「シャロン、この岩は壊してもいいのだったナ?」
「ええ、邪魔だから処分しようと思ってますけど」
「じゃあ、二人ともやってもいいのダ」
「きゃー」「きゃしゃー」
アレがそう言うが早いか、アレレはドカドカっとコイルが落とした隕石を爪で削り始め。
ウッカリは、ガリガリと鋭い牙で、岩をかじり始めた。
巨大な隕石が、中央部分から見る見る削られて粉々になっていく。
「おい、アレ。何やってんだこれ……」
「赤子でも足は立たないが、手は振り回せるのダ。
うーん。産まれて二日目から戦う準備。
バキッと音がなると、アレレとウッカリに左右から削られた隕石が圧し折られて、崩れ落ちた。
ブワッと上がる砂煙。
「またですか!」
庭が余計に破壊されてシャロンが悲鳴を上げる。
「二人とも上手なのネェ」
「きゃー」「きゃしゃーん」
なんかよくわからないが、
産まれたばかりなのに凄まじいパワー。
俺は、この二人の父親をちゃんとやれるんだろうか。
「シャロン、中に入るか」
また庭が散らかったと怒っているシャロンをなだめて、子供部屋の普通の子供達を見て和んでくるかと声をかけると。
とんでもないことを言われた。
「旦那様、ところでこの前の戦のご褒美で、みんなを嫁にするというのは本当なのですか?」
「えっ、みんなって誰?」
「みんなは、みんなですよ。シェリー達の奴隷少女全員と、えっとあとララさんとサラさん……じゃない、今はサラ女伯爵閣下でしたか」
シャロンが、指折り数えて言うのでびっくりしてしまう。
「ええー!」
なんだその話、まったく聞いてないぞ。
「後宮が大増員になりそうなので、後宮会議を開催するために国元からカロリーン公女殿下やエレオノラ公姫殿下やセレスティナ女王陛下を呼び寄せる手筈を整えてるって話を聞きましたよ」
「いつの間に、そんなことになってるんだ」
「手狭になるから、池の畔に後宮を増設するって機材が運び込まれてますけど。そのついでに、この大岩も片付けてもらおうと思ったんですけど、こんなに散らかして……」
「おおい、本当なのか?」
「そこの池の向こう側ですよ」
シャロンが指差す小池に架かる橋の向こう側には、シルエットが昔母親と住んでた外葉離宮が建ってたはずだろ。
まさかあれを取り壊すつもりじゃないだろうな。
話が急展開すぎてついて行けない。
とにかく、俺は現場へと走ったのだった。
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