第268話「精鋭は志願する」
俺の前にはそれを指揮する、義勇軍総団長マルス、参謀長アラン、砲兵長のジーニーの三人が並ぶ。
リスポンの港に迫りくる大魔神の周りからは、常に魔獣が発生している。
その数は時間が経つほどに多くなっており、もう
そこで彼らが、砲台を防衛する任務に着くのだ。
みんな長らく俺と共に戦ってくれた歴戦の義勇兵達ばかり。
それにしても、思ったより数が多いな。
俺は、義勇軍の実務を担当している優男のアランに訊ねる。
「アラン、本当に志願者だけなのか?」
「はい、王将閣下のご指示どおり覚悟と実力のある志願兵だけを募りました。全国から我も我もと志願する物が多くて選抜に苦労したほどです」
「今回は、強大な魔獣を相手にするんだぞ。いくら最新鋭の兵器を揃えたとはいえ……」
俺の懸念に、総団長であるマルスがポンと胸を叩く。
「皆、命の危険は元より覚悟の上で、王将閣下のために命を投げ打つ所存であります!」
相変わらず、大きな声で言う。
ありがたい話だが、マルスはちょっと気負いすぎてるな。
横から、女砲兵長のジーニーが笑って言った。
「アハハ。へっぴり腰のマルスがそこまで言ってるんじゃ、みんな気張らないわけにはいけないわね」
「どういう意味だよ!」
義勇兵達が一斉にドッと笑った。
ジーニーとマルスは同じ村の出身で気安い関係なのだが、兵士にまで笑われているのは相変わらずだ。
「じゃあみんな、マルスを助けてやってくれ」
「王将閣下も、どういう意味ですかぁ!」
みんなまたドッと笑って場が和んだ。
元々俺が治めていたオナ村の村長の息子であったマルスは、声が大きいだけのお調子者で何をやらせてもダメなのだが。
不思議とマルスが指揮すると兵の動きは良くなるのだ。
兵にもバカにされながら慕われてるし、こういう将器もあるのかなと面白くみている。
サラちゃんが一年かけて製造してくれていた、ライフル銃、ショットガン、カノン砲などの最新鋭の武器は多数あるが。
それでも犠牲が出ることが予想されるから、みんなが生き残れるかは心配だ。
その危険にもかかわらず、ユーラ大陸連盟の各国からも艦隊や兵士達が続々と現地入りしている。
大魔神の襲来は悪いことばかりではなかった。
世界の危機を前にして、ユーラ大陸の各国は協調体制を確立して、本当の意味で一つになろうとしている。
これが恐らく最後の大きな戦いとなるだろう。
「皆の命懸けの覚悟は嬉しいが、後方からの援護に徹して、必ず生き残るように……」
俺が義勇兵に最後の訓示をしていると、不意に空から大きな声が響く。
「魔獣隊、ただいま参りました!」
きわどいボンデージアーマーは止めてないらしい。
その後ろには十騎ほどの飛竜騎士を引き連れる、いつぞやの飛竜騎士もいる。
ハイドラが隊長の地位にこだわったので、急遽編成した魔獣隊だが。
先のゲルマニア戦争で減った
「ハイドラご苦労!」
「はい、王将様のために今度こそ大魔神をテイムしてみせます!」
「いや、それは止めたほうがいいんじゃないかな……」
また一緒に触手の中に飲み込まれるのはごめんだぞ。
だが、魔獣を使役できるハイドラの能力は今回一番重要かもしれない。
うまく敵の魔獣をこっちに引き込めれば、それが最高のカウンター攻撃になる。
「とにかく頑張ります」
「おう、あまり無理はするなよ」
なぜか、
おそらく戦争を前にしてテンションが上がってるのだろう。
そこに馬蹄を鳴らして女騎士達が現れた。
先頭で駆けてきたのは、ベレニスとクレマンティーヌだ。
「やっぱり来たのか、っておい!」
「王様ーお久しぶりです」
黒ギャルっぽいドワーフのベレニスが抱きついてくる。
クレマンティーヌも金髪の巻き髪を揺らしながら後からやってくるが、こっちはハイドラを引き剥がしにかかった。
「私達が王様の近衛騎士なんだから、魔族は即刻離れなさい!」
「あら、近衛騎士って王将にくっつくのが仕事なの?」
「屁理屈をこねてないで離れなさい、王様も迷惑されてるでしょ」
「そんな事言われてないし、私の勝手でしょ!」
きわどいボンテージアーマーに身を包んだハイドラは、俺の首に腕を絡めたままで離れない。
それを引き剥がそうとする。
「おいおい、お前ら喧嘩するなよ」
俺が注意するとベレニスも言う。
「クレマンティーヌ喧嘩したちゃダメだよ」
「でも!」
「ハイドラも、ベレニス達も、そろそろ離れてくれるか、動きにくいから……」
俺は、三人を押しのけると騎士団の前に立った。
フルプレートメイルに身を包んだ時代錯誤の女騎士達は五百騎あまり。
騎士団まで連れてきてしまったのかと思ったら、なんと率いていたのは近衛騎士団長のマリナさんだった。
「近衛騎士団長まで来たのか」
「私も居るぞ」
続いて馬から降りて進み出たのは、近衛師団長をやっているジルさんだ。
「二人には、シルエットや子供達のいる王都を守っていて欲しかったのだがな……」
「もちろん、近衛の大部分は王城の守りに残してある。だが義勇兵団が参戦しているのに、近衛軍が参戦しないでは話にならない。私達にも少しは格好を付けさせてくれ」
ジルさんがそういうと、マリナさんも栗色のポニーテールを揺らして頷いた。
二人は、ルイーズの元側近である。
最後の戦いと聞けば、ルイーズとともに戦いたいのだろう
「しょうがない。二人も参陣を許す。騎兵は接敵する一番危ない任務になるから、くれぐれも注意してくれ」
「王命、謹んで受け賜った」
ジルさんとマリナさんは、俺の前に仰々しく跪いた。
ハイドラとギャーギャー騒いでいたベレニスとクレマンティーヌも、それに習って慌てて跪いた。
と、そこに……。
「やっぱり来たか」
シレジエの白百合の紋章が入った青いマントに身を包んだサラちゃん代将が登場。
俺から見ると、七五三ぐらいにしか見えないんだけど。
サラちゃんの横では、副官のミルコくんが
毎回大変だな、ミルコくん。
「陸上部隊の総指揮は当然、この私サラ・アジェネ・ロッドが執るわよー!」
「やっぱりサラちゃんまで出張るのか」
「なんで、これみんな一から十まで私の作った武器でしょー。私が執るの当然じゃない?」
「わかった。任せるよ。任せればいいんだろ」
もう笑うしかない。
武器の製造だけでは暴れ足りないのだろう。
俺としては、サラちゃんには安全な後方にいて欲しかったのだが、ガス抜きも必要なんだろうな。
将軍ならば本陣にいてもらえばいいから危険はないだろう。
そこまで俺が敵を近づけさせなければいい。
「さあ、王将のお許しが出たわよー。みんなサラ代将の命令に従いなさい!」
義勇軍から、「うおぉぉぉおお!」と歓声が上がった。
これで従っちゃうんだから、義勇兵団もちょろいよな。
義勇兵から「おお、伝説の常勝将軍が!」「サラ代将なら安心だ」との声が聞こえてくる。
すごい人気である。
若干十三歳やそこいらの農婦の娘が稀代の名軍師の愛弟子となり、義勇軍の兵長となり、ゲルマニア帝国の飛竜騎士団長の首級を上げ。
果ては、シレジエの勇者である俺の代将として義勇軍を組織して破竹の快進撃で女伯爵にまで登り詰めた。
シンデレラ・ストーリーを歩んできたサラちゃんは、農村出身者が多い義勇軍ではもはやレジェンド指揮官なのだ。
副官にはミルコくんが付いてるし、細かい作戦は前にも一緒に組んでいた参謀長のアラン辺りが補佐するだろうから、任せておいて問題はないだろう。
そういえば、訓示が途中だったな。
「では王将より最後に、みんなに言っておく! この戦いが終わったらなんでも一つ望みを叶えてやろう!」
最後の戦いだから、大盤振る舞いだ。
「なんでもですか!」
「なんでもなの!?」
端で聞いていたクレマンティーヌと、サラちゃんが声をあげる。
二人にそう言われるとなんか怖いので、釘を刺しておこう。
「王将として、俺が出来る範囲でだけどな」
いつぞやの飛竜騎士が進み出て言う。
「それは、
「牧場拡充でも、もちろんいいぞ。
総団長のマルスが大声で言う。
「じゃあ義勇兵の新しい保養所とか!」
「おお、もちろんだ」
みんな口々に願いを言い出して、俺が「良し! 良し!」と言ってやると
それで「わぁぁ」と明るい歓声となった。
「だからな……みんな死ぬなよ。望みを叶えたければ、必ずこの戦いを最後まで生き抜け!」
せっかく新しい時代が来ようとしているのだから、死力を尽くされて本当に死んでもらっては困る。
共に明日を生きるために全力で戦って欲しい。
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