第221話「島の動物を食い尽くせ」

「おー、掛かってる掛かってる」


 俺達がアンティル島に帰還してからすぐに、食料確保のため、山狩りが開始された。

 囲い網の罠にかかっている獲物は、アンティル黒イノシシだ。


「ブォオオオ!」


 黒々とした巨大イノシシが、エンジンの駆動音みたいな雄叫びを上げている。

 周辺地域からマスケット銃の発砲音で驚かして、谷に張り巡らされた大型の囲い罠に追い込んだのだ。


 群れで行動する動物らしく、囲い罠がすし詰め状態。

 一匹が騒ぎだすと、ブォオオオブォオオオと、ブォオオオの大合唱である。


 黒イノシシにとっては追い立てられる鉄砲の音も、張り巡らせた網の囲い罠も初めての経験だったらしく、大混乱に陥っている。

 そうして、身動き取れなくなっているイノシシの群れを、バーランド達が弓や長い槍を使って、やすやすと一網打尽にしていく。


「悪いな……」

「ブギィィ!」


 深々と腹に突き刺さる槍。断末魔を上げて、倒れるイノシシ。

 生き物を殺生すれば、可哀想だなと思う。だが、図体がでかい分、食いでがあって美味しそうだなとも思う。


「バーランド、こういうのは家畜化してないのか?」

「アビスパニアの動物は、ほとんど魔獣です。極端に狂暴であったり臆病であったりするので、家畜化には成功しておりません」


 こちらでも狩りはするらしく、手慣れた様子で血抜きして、几帳面にナイフでイノシシの黒皮を剥いでいるバーランドは答える。

 黒イノシシの皮は、ほとんど毛が生えてない代わりに丈夫で柔軟性に富む。革鎧などの材料に使われている。


 きちんと血抜きすれば、肉質は柔らかく美味であるとか。

 俺もだいぶこの手の狩りに慣れたが、結局のところ野生動物特有の肉の臭みの原因は血なのだ。


 解体された黒イノシシは、なかなか良い肉質をしている。

 料理するときにさらに塩水で揉んで、肉からしっかり血を抜くといいかもしれないな。


 現地の地理に詳しいアビスパニアの兵士が案内役となり、山狩りはスムーズに進んでいる。

 ライル先生考案の凶悪な落とし穴の罠なども炸裂しているので、そのうちにこの周辺の動物は狩り尽くされることであろう。


 もちろん動物だけではなく、食べられる植物も根こそぎにしていく。

 とんでもない環境破壊なのだが、当面の飢えを凌ぐには、しかたがない処置だ。


 環境の再生は、農業が上手く回りだしてから考えることにしよう。

 いまはともかく食えるものを探そう。


「あと、この辺りで捕れる動物とかはいないか?」

「島の南の湿原には、クロコダイルがおりますが」


「クロコダイルって、ワニか……」


 あれ一応、食べられるんだよな。

 一度旅行に行った時に、民族博物館で食べたことがある。


 意外に美味しかった記憶はある。

 ルイーズとか喜々として狩りそうだが、調理法がいまいちわからない。


 あとワニの肉とか出したら、爬虫類人レプティリアンのハーフであるララちゃんはどう思うかなというのもある。

 その点、俺達も哺乳類の動物の肉どころか、人型モンスターの肉まで食いまくってるのでぜんぜん平気なのかもしれないが。


「クロコダイルはかなり狂暴な動物でして、黒イノシシと違い人を喰います。南の湿地帯は危ないので、現地の民も近づきません」

「狩りに行ったら、犠牲がでるかもしれんな。まあ、いまはいいや」


 この島は熱帯に属するので、人が近づかない湿原もジャングル化しているだろう。

 黒イノシシを狩り尽くして、本当に困ったら行くしかないが。


     ※※※


「ごしゅじんさま、あっちに銅と鉄と、こっちには硫黄があったよー」

「おー、ロールご苦労だった。ほら、ご褒美だ」


 狩ってきた肉と皮を大量に携えて、港街に戻ってきた俺に、ロールが手を広げて説明する。

 俺はポケットから、オレンジの砂糖菓子取り出して、ロールに与える。


 久しぶりに大役を与えられて躍起になったロールは、鉱物資源を探して近くの野山や洞穴を駆けずり回っていたのだ。

 土に汚れた頬を、砂糖菓子で膨らませて、モグモグと食べている。


 また泥だらけになってと。

 俺は溜息をついて、手ぬぐいでロールの顔を拭いてやった。


「んぐんぐ、ごしゅじんさま。おかし、おいしい」

「そうかよかったな、ロール。慌てて食べるなよ。よくやってくれた」


 疲れた身体に、柑橘類のビタミンと糖分は薬だろう。

 潮風でパサパサになったロールの赤銅色の髪を、よしよしと撫でてやる。また風呂に入れて綺麗にしてやらないとな。


「あとね、あとね、ごしゅじんさま。もっと硝石もつくりたいから、ふんにょうもあつめてほしい」

「お前食べてるときに、そんなこと言うなよ」


 必要があるのは分かるけども、食べてるときに、うんこの話はない。

 思わず笑ってしまった。ロールはいつまでも子供だから、面白くて仕方がない。


「あー、お兄様またロールさんだけ特別扱い!」


 書類束を抱えたシェリーがやってきて騒ぎ出した。


「いや、そんなことはないぞ」

「だって一人だけお菓子あげてたじゃないですか。ねー、ヴィオラさん」


 シェリーと一緒に来たヴィオラも、複雑そうな顔をしている。


「……ずるいと思います」

「ヴィオラも言うようになったな」


 こっちに駆けて来たシェリーとヴィオラに囲まれる。

 どうもこの子らの勢いに負けそうだ。


 昔は本当にちびっ子だったのに。

 二人とも、この三年ぐらいで背丈が大きくなったもんだ。もう一端のレディーである。


「お兄様、見てください、アバーナの港の整備計画書ですよ。同時に、アンティル島全体の統合計画を立案しました。整備された港とアンティルへの街道を基点に、インフラストラクチャーで島全体の活性化を進めます!」

「ご主人様、布が足りないというので、私は綿花と洋麻ケナフを植えました。これで四ヶ月後には、船に使う布やロープなども生産できます!」


 二人いっぺんに言われてもわからないよ。

 まあ、とにかく頑張ったんだな。


「お前らにもご褒美をやろうと思ってたんだよ。ほらちゃんとあるから大丈夫だ」


 えこひいきしてると思われては困るので、俺は自分がおやつに食べる分まで二人に分けてあげてしまった。

 砂糖菓子ぐらいは、船に帰ればたくさんあるからいいんだけどね。手持ちがあってよかった。


 美味しそうにオレンジの砂糖菓子を齧っているのを見ると、二人もまだ子供だなとホッとする。

 そこに、ララちゃんもやってきた。


「あっ、ララちゃんもいたのか」


 しまった、ポケットを漁っても、もう何もない。


「タケルさん、私はいいよ。ご褒美貰えるようなこと、何にもしてないし……」

「いや、街に戻ったらララちゃんにも、特別に美味しいお菓子を作ってやるから待っててくれ」


 ララちゃんは大人ぶって遠慮しているが、俺の奴隷少女達よりずっと子供なのだ。

 ロール達よりも小さい子が我慢しているというのはよくない。


 働いてないとか関係ない。子供は、無条件で大人に優しくされるべきなのだ。

 あとで、ララちゃんには特別に、もっと良い物を作ってやろう。


「いつの間にか、新しい子までいる!」

「……あの子、すごくキャラが濃い。また埋もれてちゃう」


「これは、もう奴隷少女同士で争ってる場合ではありません。ロールさんも来てください作戦会議ですよ。第二部では遅れを取りましたが、第三部の終わりまでにはなんとか滑りこまないといけません」

「……婚期を逃しちゃう」


 まだ仕事があるのにと嫌がるロールを捕まえて、奴隷少女達が円陣を組んでなんかゴチャゴチャとやっている。

 なんだ第二部とか第三部って……メタネタは止めろ。


「あいつら、何やってるんだ」

「タケルさん、お菓子期待してるね」


「おう。ジャガイモがあるからな、久しぶりに腕を振るうことにしよう」


 ジャガイモといえば、あれですよ。


     ※※※


 ライル先生とシェリーがやってきてからというもの、アバーナ港街の再建が急ピッチで進んでいる。

 街の建物の修復は瞬く間に完了し、いまは宿舎の増築と、港湾設備の整備・拡充が同時進行で行われている。


 二人は、都市行政の専門家オーソリティーでもある。

 もともと、労働力だけはたくさんあるので、あと必要だったのは専門知識だけだったようだ。


 アビス大陸でも神聖魔法以外の魔法は使える。

 中級魔術師のライル先生は、カアラほど強い魔法力はないが、工作などに使える魔力の調整に掛けては右に出るものはない。


 自身は魔力が使えないものの、魔法の力も併用した土木工事の段取りに関しては、シェリーが得意だ。

 官僚団一個大隊に匹敵する内政チートの二人でかかれば、小さい街一つの再建など容易い。


 とりあえず、井戸からポンプで汲み上げて、飲水の問題の応急処置が完了しているが、将来的には上水道の整備を進めるそうだ。

 しばらくすれば、兵士達も洞窟暮らしから解放されるであろう。


 そこら辺、極めて大雑把に適当にやってたカアラは、内政力の差を見せつけられて、端っこでしょげ返っている。

 どんだけカアラが魔術の天才でも、内政勝負でライル先生に勝とうというのが無理である。


「ほら、カアラ。暇なら手伝ってくれよ。そこの皿をテーブルに並べてやってくれ」

「はい……」


 アバーナの酒場の厨房を借りて、獲ってきた黒イノシシの肉などを調理しているのだが、俺達と将軍の連中の夕飯を作るだけでも手が足りない。

 ロールを誘ったら、いつの間にかコンビで料理長のコレットも付いてきたんだが、これが大正解だった。


 俺の教える料理を作り慣れているコレットは、新しい食材を作った料理でも手際よく調理してくれる。

 フライパンで炒め揚げした黒イノシシの肉が、ジュージュー美味しそうな音を立てている。


「ご主人様、黒イノシシのカツ揚がりました」

「よし、どんどん出してやってくれ。みんな慣れない農作業で腹減らしてるだろうからな!」


 パン粉にまぶした黒イノシシの肉を揚げてる油は、ヒマワリの種から搾油したものだ。

 どうも、北アビス大陸ではヒマワリがたくさん採れるらしく、タモンズ達が船に食用の種をたくさん積んでいたのだ。


 本当はトンカツにしたかったのだが、大量に作るとちょっと油が足りなくなりそうだったのでカツレツにしてみた。

 こちらでもヒマワリが栽培できれば、そのうち油に困らなくなるだろう。


「ヒマワリの油で肉を揚げる料理は、初めて口にします」


 俺が出してやったカツレツを美味しそうに頬張って、魔軍の海将ダモンズはそんなことを言っている。


「ダモンズのところは、ヒマワリの種が採れるのに、ヒマワリ油は使わないのか?」

「基本的には、種は炒って食べるものです。油を絞れることは知ってますが、料理用に使ったりはしません。王将閣下のなされる創意工夫には頭が下がります」


「そんな大したもんでもないだろう」

「いや、ご謙遜。料理一つ取っても、手間をかけるだけでこれほど美味しくなるとは思いませなんだ。料理といえば、焼くか炒るしか知らぬ我らでは、やはり勝てぬ相手でしたな」


 カツレツを半分ほど食べて、国に残してきた妻や子供にも食べたせてやりたいと、ダモンズはポツリと口にした。

 頭に水牛の角が生えている強面の魔族将軍なのに、ダモンズの言うことはいちいち所帯じみてるんだよな。


「そういえば、ダモンズの家族はどこに住んでいる。ダモンズだけではなく、俺に味方してくれた魔族の家族を守るという約束を俺は忘れてないぞ」

「王将閣下……お気遣いかたじけなく。我が家族は、タンムズ州の都、タンムズ・スクエアにおります」


 アビス大陸の地図で言うと、アビス大陸の北東に位置する大きな港街だ。

 俺の元の世界で言うと、ニューヨークあたりのポイントである。


 州都と言うぐらいだし、地理的に見ても大都市であろうとは思われる。

 かなり遠方になるが、なんとか助けてやりたい。


「タケル殿、それではタンムズ・スクエアに密使を送って、先にダモンズ殿のご家族を避難させましょう。敵に人質を取られては面白くない」


 俺達の話を聞いていたのか、隣のテーブルで上品にカツレツを切り分けていたライル先生がそう言う。


「さすがライル先生。ダモンズ達の協力は必要ですからね!」

「ええ……半年後に、そのタンムズ・スクエアを強襲する計画ですから、どうせ現地調査も必要でしたしね」


「えっ、なぜタンムズ・スクエアを? アビスパニアの旧領を取り返すのが先ではないのか?」


 逆側のテーブルで、物珍しげにフライドポテトをフォークで突いていたバーランドが立ち上がった。

 作戦会議は、せめて食事が終わってからにしようよ。


「そうですね。バーランド殿のおっしゃるとおりです。アビスパニアの反攻が始まれば、旧領であるダアル、バアル、リンモンの三州を先に取り返すのが順序だと……敵もそう思うでしょう」

「シレジエ王国の軍師殿は、だから敵の意表を突くとおっしゃりたいのか?」


 バーランドは、納得いかないという顔をしている。

 そりゃ、バーランド達からすれば、魔軍に奪われた自分達の土地を取り返すのが先だと思うだろう。


「考えてみてください。アビス大陸は広大です。大陸の南部に兵を送って、領土を取り返せるとして何年……いや何十年かかるんですか?」

「それは……」


「それに、こちらの戦力のほとんどは海軍なんですよ。大陸奥深くに、兵を進ませるなど愚行もいいところでしょう」

「では、シレジエの軍師殿は、タンムズ・スクエアを強襲すれば魔軍に勝てるとおっしゃるのか?」


 怪訝そうな顔のバーランドに、フォークを向けてライル先生は勝てると言ってのける。


「勝てますね。ご説明しましょう、この地図を見てください」

「先生、まだ食事の途中……」


 食べかけのカツレツの皿がのけられて、テーブルにアビス大陸の地図が敷かれる。

 あー、作戦会議が始まっちゃったよ。


「タンムズ・スクエアを強襲する目的は、すなわちここに結集する魔軍の海上戦力を叩くことです。これに成功すれば、こちらは制海権を握れます。ここまではいいですね?」


 ダモンズも、バーランドも頷く。


「あとはローレンス川を遡って大陸奥深くの大湖に入り、湖岸にあるニスロク州にある魔国の首都ローレンタイトを一気に強襲します。魔軍の本拠地を落とせばこの戦は終わりです。その後も散発的な抵抗はあるでしょうが、制海権と首都を失った魔国はバラバラに分裂し、新しい占領地を維持する力はなくなるでしょう。アビスパニアの旧領も、自ずと戻ってきますよ」

「なんと……」


 バーランドは、空いた口が塞がらなくなった。

 ダモンズが代わって口を挟む。


「たしかに……ローレンス川の河川は大きく、あの黒い大船でも通れるだろうとは言ったが!」

「はい、ダモンズ殿の話を聞いて立てた策ですので、事前に入念な現地調査は必要になりますね。そのための密偵です」


 またライル先生は、悪い顔をしている。

 むしろ、ダモンズ達の家族を救い出すのは、ついでに違いないと俺は見てて思った。


「……軍師殿。それで、その作戦は、何年でやるおつもりか?」

「そうですね。半年後にスタートですから、今から一年以内には魔都ローレンタイトを落としてますよ」


「一年と申されたか!」

「これは海路を利用した強襲作戦ですから、時間をかけていては成功しません。やるなら相手が油断している隙を突いて、対策を打つ暇も与えずに、電撃的に攻め落とす必要があります。そのためにシレジエ王国も大艦隊を派遣するのです。アビスのかたがたにも、覚悟を決めていただきたい」


「とても信じられん。いや、私の発想が古いのか。あの船の速度と力ならば、あるいは……」

「簡単に言ってくれる。私にも、もはや大胆を通り越して無謀な作戦としか思えんが……」


 ダモンズと、バーランドは。お互いに顔を見合わせて情けない顔をしている。


「先生まだ先の話ですし、御飯を食べてしまいましょうよ」

「そうでしたね。兵を率いる将のかたがたには、覚悟を決めていただかないといけないので先にお話ししましたが、まだ内密にお願いします」


 ライル先生が地図をしまって、食事に戻ったのでホッとする。

 やれやれ、せっかくの料理が冷めてしまうからね。


「先生、いまは先の戦争の話より、食料の確保が最優先ですよ。そういえば、大海竜の肉の備蓄がだいぶ減ってきたなあ」

「王将! 大海竜なら、まだこのあたりにまだ居るだろうからおらぁが、行って肉を取ってきてやろうか。陸の連中には負けられねえからな」


 ドレイク提督は義足をカツカツ鳴らしながら、ガハハと笑って大海竜退治を請け負って見せる。

 この前から連戦連勝で、五百隻も船団をなぎ倒し、憎き大海竜まで打倒したのだ。


 そのせいでドレイクは、どうも気が大きくなっている。

 このままだと、今度はアビスの海で海賊業をやりだすとか言い出しかねない。


「いや待てドレイク。ダモンズは、あの大海竜を操ることができるんだ。こちらの戦力に使えるかもしれないから、殺さないで置いたほうがいい」

「そうかい、それでもいいけどよ。どうも漁師の真似事をしてるだけでは、おらぁ退屈でなあ……」


 ドレイクには、黒杉軍船で地引き網を引っ張って、魚を獲ってきてもらっているのだ。

 こっちも、かなり重要な食料源となっている。しばらくは、大人しく食料確保に専念して貰うつもりだ。


「王将閣下、私が大海竜を操れるのはこの大魔王イフリールの身体より剥ぎ取られた赤竜の鱗があるからです。もし、私の裏切りが露見すれば、使えなくなるでしょう」


 そういうダモンズに、ライル先生がポツリと言った。


「それなら、アンティル島を順調に占領しつつあると、報告の使者を送ればいいんじゃないですか?」

「軍師殿は、私に大魔王イフリールを騙せとおっしゃるのか!」


 ありゃ、また作戦会議が始まってしまった。


「ダモンズ殿、毒を食らわば皿までといいます。中途半端はいけません。貴方は、タケル殿に賭けたのでしょう。少なくとも、ご家族がタンムズ・スクエアから安全な場所に逃れるまで、大魔王とやらに裏切りが知られないようにしたほうがいいのでは?」

「家族のためか……うーむ」


 まるで家族を人質に取るような悪い説得の仕方をするライル先生は、相変わらずだった。

 まだ悩んでいるダモンズだが、そのうち先生の口車に乗せられて言われるままに動くようになるだろう。


「やれやれだねえ……」


 みんな久しぶりの戦争イベントだから、張り切り過ぎてるような気もする。

 静かに食事に戻っているライル先生だが、あの楽しげな口元の緩み方。おそらくもっと何か企んでいる。


 ダモンズの使う大海竜も、タンムズ・スクエア攻略の駒に使える……あたりかな?

 ライル先生は、衝撃的な策謀をみんなにぶちまけてみせたようにみせて、まだ考えてることの半分も話していないだろう。


 長い付き合いになると、なんとなく分かるんだよな。

 まあ、俺はいつもどおり、俺のやることをやるだけだ。


 食事も行き渡ったし、厨房に戻った俺はおやつを作ろうと薄くスライスしたジャガイモを揚げ始めた。

 ポテトチップスである。


 さっと塩を振れば、完成。


 一枚味見してみるが、ヒマワリ油が良かったのか、カラッと揚がっていて美味しい。

 ちょっと厚切りだが、お手製だとこんなもんだよな。


「おーいララちゃん。これが言ってたお菓子だよ。ポテトチップスっていうんだ」


 ララちゃんは、俺が差し出したポテトチップスの皿から一枚取って食べると、ニコッと微笑んだ。


「……とても、美味しい」

「そりゃ良かった」


「あー、お兄様、ララさんだけ特別扱い!」

「はいはい、シェリー。お前らの分もすぐ作るから待ってろよ」


「ご主人様、作り方見てて分かりましたから、あとは私が作りますよ」

「あーそうか、じゃあコレット頼む」


 結局、一番役に立つのは、地味に子供達のお母さん役をやってくれるコレットのような気もする。

 そんなこんなで仕事のあとは、山盛りのポテトチップスを食べながら、みんなとゆっくりくつろぐことにした。

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