第113話「勝負の決着」

「人は殺さない、その記憶を殺す!」


 男前なセリフを叫びながら、俺を記憶喪失に追い込もうと、鋭角な喧嘩パンチを次々と繰り出してくる下着姿のエレオノラ。

 やっかいな『炎の鎧』補正はもう無いのは救いだが、こっちも寝ようと思ってたから『ミスリルの鎧』を脱いでるわけで、素の体力勝負となると微妙な勝負だ。


 なんとか、殴りかかってきたパンチを受け止めたはいいものの、エレオノラも歴戦の騎士だけあってちゃんと鍛えてるんだよな。

 久しぶりの強い力のぶつかり合いに骨がきしんだ、勇者補正がなかったら秒殺されてるところだ。


 エレオノラは、腕の力は強いし、腹筋のあたりも良い締まり方をしている。

 そのわりには、ちゃんと胸もお尻も女性らしい張りがあって素晴らしい身体つきだ。さすがルイーズを目標にして騎士道に励んでるだけのことはある、中身はともかく肉体だけはお姉さん好きの俺の好みとはいえる。


「グググッ……本気ガチかよ」

「勇者! せっかく穏便なやり方で済ませてやろうと思ったのに、やっぱり私たちはこうなる運命だったようね!」


 いかん、浮気がーとかそんなこと言ってる場合じゃない。邪なことを考えてるうちに押されている。

 エレオノラは、なんかライバル風のセリフを発して、全力で潰しにかかってきてるし、集中しなければ勝てないぞ。


「エレオノラ、男の力に勝てると思っているのか!」

「私が、どんだけ鍛えたと思ってるのよ。腕力でも負けるものか!」


「貴様がどれほど鍛えようと! ……なんてなっ」

「きゃぁ!」


 上から抑えこむように全力で押しまくった後に、すっと身体の力を抜いて上体をそらしたら、そのまま自分の勢いでエレオノラはベッドに飛び込んでいった。

 倒れこんだ先が、壁や床じゃなかったとは幸運なやつだ。まあ、さすがに城主の姫に怪我させてはまずいので、幸運だったのは俺かも知れんが。


「単純だな、まるで成長していない」

「あんたって、なんでいっつもそうなのよ!」


 俺は体術の知識は漫画で読んだぐらいのものしかない。実戦は学校でやった柔道の受け身を知ってる程度だから、体術勝負ならしっかり修行すれば勝てるかもしれないのに。エレオノラは、あくまでも力押し一本で闘おうとする。

 そこら辺の融通の利かなさが姫騎士エレオノラなんだが、前の戦争の去り際にちょっと成長したみたいな空気を出してたのはなんだったんだ。


「なんだ、もうやらないのか」

「うううっ」


 エレオノラは、俺の天蓋付きベッドに、吹き飛ばされた姿勢のまま、掛け布団を手でよじって、ストレスを溜めているうめき声を上げていたので怖くなる。

 そのパワーを溜めてから、一気に爆発させる感じは、即刻やめて欲しい。いまは対処できてるけど、そのうちなんかでミスってぶっ殺されそうな気がする。


「まあ待て、エレオノラ、とりあえず落ち着け」

「じゃあ勝負してよ!」


 さすが情緒不安定には定評がある姫騎士、会話になってない。

 こりゃ、もう合わせないと終わらない流れだな、毎回こうなんだが誰か何とかしてくれ。


「わかったよ、勝負すればいいんだろ」

「じゃあ、来なさい」


 ベッドの壁の方に向いて座り込むエレオノラは、なぜか正座だ。

 この世界って西洋ベースなのに座禅とか正座とか、微妙に混じってるな。


 どこでこういう風習が発生したんだ、やっぱり時折現れては歴史に介入している異世界人の影響なのだろうか。

 そんなことを考えてボケっと見てたら、ビクビクッとエレオノラの肩が震えた。


「あんたなにしてるのよ、私一人でバカみたいじゃない!」

「ああ、ごめん」


 俺はもうどうしようもないので、ベッドに登ると、ご要望通り脇腹をくすぐった。

 姫騎士の身体が、ベッドの上で盛大に飛び跳ねた。それはいいが、悲鳴まで上げやがった。


「ひゃぁぁああ!」

「あっ、えっ?」


 くすぐったいだろうから騒ぐのはしかたないけど、反応激しすぎるだろう。あんまり叫ばないで欲しい。いくらランクト城の壁でも、防音処理はされてはないだろう。

 この状況で人に来られると、俺はいろいろとマズいんだ。


「なな、なにをいきなり触ってんのよ。びっくりするじゃない!」

「えー、いやどっちだよ」


 くすぐれと言ったり、いきなり触るなと言ったり、どうすればいいんだよ。わかんないよ。

 いやエレオノラの言ってることが、わかった試しがないけども!


「触るときは、触るって言ってよバカ!」

「そういうことか。じゃあ、触る。エレオノラ、触るぞ」


 言われたままに、脇腹をくすぐってやる。

 エレオノラは覚悟ができてるらしく、今度は身を捩るだけで悲鳴は我慢した。しかし、前より耐性が弱まってないか。


「ふふっ、アハハッ、その程度なの。前はもっとすごかったわよ」

「うーんまあ、じゃあこんなかんじか」


「ふはっ、こんな程度じゃ全然、うふっ、蚊が刺す程度にも感じないわよ」

「そうか……」


 なんか冷めてきたな。

 急にバカらしくなってきた。俺はひとんちの城で、人様の娘に何やってんだって感じだ。


「どうしたのよ」


 突然手を止めた俺に、エレオノラは振り向いた。

 俺の目を覗きこむ、彼女のサファイアのような碧い瞳が大きく見開いている。距離感が近すぎるので、思わずのけぞってしまった。


「なんていうかさ、気分が乗らないんだよ。くすぐり勝負は、そもそも俺が始めたような気がするから申し訳ないけど、これどうしたら終わるんだよ。俺がもう無理って降参したらいいの?」

「久しぶりの真剣勝負なのに、あんた何失礼なことを言い出してるのよ。私がどんな覚悟でここに来たかわかってるの?」


「いや、だってなあ、冷静に考えるとこのシチュエーション。ちょっとあり得ないと言うか」

「そうか、そうなのね。ブッ……ブラ紐が邪魔でくすぐれないっていうのね、なんて卑劣な要求をしてくるのよ」


「いや、お前そんなこと言ってないだろ……」

「外しなさい」


 エレオノラが、背中を俺にグイッと押し付けてくる。

 いきなりわけわかんないよ。


「えっと」

「外せばいいじゃない、下着が邪魔なら、そのいやらしい手でホックを取ってみたら……」


「エレオノラ?」


 何言ってんの、つうかお前はバカなの?

 ブラ外したらマズいだろ。そもそも、外す意味がわからん。なんでそういう発想になった。


「なに、それとも女のブラのホック一つ外す勇気がないわけ。ハッ、勇者が聞いて呆れるわね。臆病者に名前を変えたら?」

「いやいやいやいや……」


 いや、そんな安っぽい挑発をされても、ぜんぜんそんな話じゃないし。

 ブラ外しは、どう考えてもアウトゾーンだろ。くすぐってるのをセーフとするのもかなり微妙だが、くすぐり勝負は俺が始めたことだからしょうがないにしても。


「クッ……そういうこと。そういうことなのね、貴方はなんて卑劣な男なの。外さないことで、私自ら外すように仕向けてるのね。私にこそ、『ブラを外す勇気なんてないだろう』って言いたいのね。私は負けない、そんな辱めに負けるもんですか」

「いやいや、待て待て」


 プチンと、エレオノラは一人で盛り上がって、ブラ紐を自分で外してしまう。

 あー、お前は、バカなのか?


「さあ、くすぐりなさいよ。そのいやらしい手で、全身をくすぐり倒せばいいじゃない。いいこと、騎士の誇りはこんなことで打ち砕かれたりはしないのよ!」

「はぁ……、わかったよ。絶対に前を向くなよ」


 ゴネてみても、自体は悪化するだけなことがわかったし。

 どうせ最後までくすぐらないと終わらないんだろうから、しかたなく付き合うことにした。満足するまでくすぐれば終わるんだろ。


「なんてことを、くっ……私に前を向く勇気がないって言いたいのね」

「いやいやいやいや! アホか!」


 どうしてそんな解釈をする。

 下手なことを言ってしまった。


「卑劣な勇者め、覚えてなさいよ、騎士の誇りはこんなことではくじけない!」

「いやいや、お前バカッ! 何を丸出しでアホか!」


 エレオノラは、おもいっきり前を向いてきた。目尻には、悔し涙が浮かんでいる。こいつはネタとかじゃなく、本気で俺のつぶやきを挑発に取って、勝手に盛り上がって自分を辱めているのだ。いろんな意味でヤバい人だった。

 まあ、おわん型の形の良いバストね、とか言ってる場合じゃない。


「さあ、くすぐりなさいよ」

「お前、くすぐるとかそういう問題じゃなくなってるだろ」


 俺はさすがに、視線をそらした。

 紳士だからとかそういう問題じゃない。直視したら、後でなんて言われるかわかんない。俺のことを目の敵にしてるエレオノラに弱みを握られるなど、最悪の事態だ。


 そうか、そういうことか。

 それなら分かるぞ。


「なんでくすぐらないのよ」

「お前アレだろ、あとで乱暴されたとか脅して、俺の弱みを握るつもりだろ。騙されないぞ!」


 エレオノラめ、意外にも狡猾だったんだな。


「はぁ、私は誇り高き騎士よ。そんなあんたみたいな卑怯なことしないわよ」

「どうだか、自分のベッドルームでお前を裸に剥いてるこの状況は、男の俺に不利だからな。みんなお前の言い分を信じるだろ」


「クッ……なんてことなの。つまり、貴方はこう言いたいのね。私が自分の意志で、ここで裸になってることを証明しろと」

「そうだな、そうしてもらわないと、俺もこれ以上は続けられない」


 変な話になったが、美人局に引っかかるわけにはいかない。

 俺も家族が居る身なんでな。


「じゃあ、一筆書くわよ」

「えっ……」


 エレオノラは俺の部屋の机に向かうと、サラサラと羽ペンで書き記した。

 ちらっと見てしまったが、大きなオッパイが丸出しのまま揺れている。自分から脱いだのに、羞恥と怒りに目を血走らせて机に向かっているのだから怖い。


「どう、これでいいわよね。ちょっと、いい加減こっちを向きなさいよ」

「そっちを向けって、ああもうわかったよ」


 俺は、エレオノラの裸体をなるべく見ないように、羊皮紙をひったくった。

 羊皮紙には『私は自ら裸になり、佐渡タケルの寝床に入りました』と書いてあってエレオノラの署名がある。


「これで文句ないわよね、私はもともと人を陥れるような卑劣な真似はしないけど」

「これでは足りない」


「なんで!」

「そうだな、『裸を見られるのも、触られるのも、自分から望みました』と書き加えてもらおうか。そうしないと安心できない」


「グッ……なんて卑劣な」

「当然の要求だ」


 エレオノラは言われた通りに書く。

 なんだか、面白くなってきた。


「書いたわよ、これでいいわよね」

「まあいいだろう、そうだついでに『おっぱいも揉んでもらいたいです』と書き足してもらおうか」


「なっ、なんて破廉恥なことを」

「破廉恥なことを望むのはお前なんだよ、くすぐってるうちに胸に触れてしまうかもしれない。それであとから脅されても困るからな」


 なるほど、エレオノラはこうハメればいいわけだな。

 この羊皮紙は、取っておけばあとでエレオノラを脅すのに使える。公表するぞとでも言えば、うるさく言わなくなるだろう。


「ううっ……しかたないわね」

「よし、ちゃんと書いたようだな」


 書くだけで、羞恥に頬を真っ赤にしている。あまりに恥ずかしいのか、顔どころか肩まで紅潮していた。

 さすがに胸まで赤くなるってことはなく、艶やかな色合いをしている。


 うーん胸もいいが、お腹が素晴らしいな。ほっそりとしていて、真ん中にスッと三本のラインがあるのが美しい。

 確かに、エレオノラの肉体美は一度見てみたいと思っていたから、こんな機会があるとは思わなかった。これは決してエッチな欲望ではなくて、美術的な意味での知的好奇心だ。


 ランクト城の一番の美術品は、鍛えあげられた姫騎士の肢体かもしれない。

 どんな彫刻も、血の通った人間の肉体美には適わない。筋肉イズビューティフルだ。


「女の子の身体を、何をジロジロ見てるのよ。恥を知りなさい!」

「お前が望んだんだろ、見てくださいってちゃんとここに書いてある」


 俺が羊皮紙を示して見せると、エレオノラは悔しそうに歯噛みした。


「くっ、こんなことしてただで済むと思わないでね」

「どうするって言うんだ、お前は脅すような卑劣な真似はしないんだったよな」


 俺は、エレオノラのシャープなラインのお腹に触れる。

 うーん程よい硬さが良い、腹筋女子素晴らしいな。


「バチが当たるわよ、結婚してるくせに」

「バチがねえ、アーサマは知ってるけどこんなことでバチを当てる女神様ではないと思うけどな」


 わからないけど、バチを当てるならまずリアからだろうと思う。アーサマに怒られたらそう抗弁するつもりだ。

 俺は、飽きもせずエレオノラの形の良い腹筋をさすっている。なんという滑らかな触り心地だ、暖かくて弾力があって指に吸い付くようでたまらない。


「そんなことしても、ぜんぜんくすぐったくない……くすぐったくないんだけど、真面目にやりなさいよ」

「おや、俺は真面目にやってるつもりなのに、お腹はくすぐったくないのか」


 俺はもうくすぐりとか関係なく、自分の欲望にしたがって、腹筋を触ってるだけだけどな。

 散々わけのわからんワガママに翻弄させられたんだから、これぐらいの役得があってもいいだろう。


「ねえ、なんかくすぐったくはないんだけど、なんか。ねえさすがに、お腹はもうやめない?」

「なんだよ、くすぐったくなってきたんじゃないのか」


 俺は撫でやすいように、エレオノラの身体をベッドに押し倒して、ただ延々と下腹部を撫で続けた。

 もちろんいやらしい場所ではない、腹筋が楽しめるヘソの周りから臍下丹田のあたり。もちろん、パンティーで覆い隠されている部分には一切触れていない。


 なんだろうな、お腹を撫でてると楽しくなってくるんだよ。

 俺も大概マニアックだよな。これなら筋肉を堪能しているだけで、浮気してるわけじゃないから良いと思う。


「ううんくすぐったいのとは違うんだけど、なんだろこれゾワゾワする。なんかわかんないけど、すごく変な感じが来ちゃう予感がする」

「そうなのか、俺もエレオノラの腹筋触ってると、恍惚としてくるよ」


 本当にいい感触なんだよな、エレオノラのお腹。

 腹筋は割れかけで実用的な筋肉はあるんだけど、硬さの中にも程よい柔らかさが残るというか、なんとも言えない感動的な手触りがある。


「あっ、ああっ、ちょっと待って。ヤダ怖い、なんかほんとに変な感じになってきたぁ、お腹がへんっ!」

「なんだよ、くすぐったいんじゃないのか。どっちにしろ、我慢勝負なんだからエレオノラが降参なら降参でいいぞ」


 延々と撫でさすっていたら、腹筋が強く熱を持ってきた。

 あんまり肌をこすると辛いのかと思って、本当に軽く産毛を撫でる程度にしてみたのだが、それだけしか触れてないのに余計に反応は強くなり、ビクッビクッとお腹の筋肉が怖くなるぐらいに収縮している。


「いや、降参はいやだけど。ああっ!」

「どうした」


「ダメッ、イヤッ、お腹がヒクヒクするの止まんない! タケル助けて、ああ、うそ、やだぁぁお願い! イヤァッ、ヒグッ、ヒッアァヤア!」

「おい、エレオノラ……」


 ぷっつりと線が切れてしまったみたいに、身体の緊張が抜けてダランと俺に身体を預けてきた。

 頬を真っ赤にそめて、息を荒げているが、口は半開きでヨダレが垂れかけている、瞳は光を失って意識を喪失しているようだ。

 信じられないが、腹を撫でてるだけで気絶したのか。


 エレオノラはもしかすると、撫でられたりくすぐられると、感極まって気絶してしまう特殊性癖でもあるのだろうか。とんでもない弱点だなこれ、姫騎士が強いのにすぐ負けてしまう理由がわかった気がする。

 彼女の額に玉の汗が浮かび、金糸のような前髪が額に張り付いている。全身にも、びっしょりと汗をかいてしまっている。


 さすがに、このまま放置というわけにはいかない。

 幸いなことに、部屋には汲み置きの水も、柔らかいタオルもたっぷりと用意されているので、顔を拭いて綺麗にしてやった。


「身体も拭いてやるか」


 エレオノラの肌は、戦場を駆け巡ってる騎士の癖に白磁のように滑らかな光沢があった。『炎の鎧』で完全防備されているから、その部分は焼けないのだろう。赤ちゃんみたいな綺麗な肌で、鍛えあげられたシャープな筋肉とのコントラストがやけに艶かしい。

 触れていいという許可も貰っていることだし、俺は躊躇うことなく肩から脇にかけて拭いてから、柔らかく盛り上がった部分も濡らして絞ったタオルで汗を拭いて、別のタオルで乾拭きしてやる。


 盛り上がりの桃色に色づいた部分も入念に拭いてやる。その突起の大きさから、やっぱりこいつ興奮してやがったんだなと思ってしまう。

 いや、そう断定するのはエレオノラが可愛そうか、変なことしたからただの生理的な反応なのかもしれない。いまだ女体は神秘である。


「さて、下をどうするかなんだけど。さすがにマズいよな」


 問題の部分を除いて、足の先まできっちりと拭いてしまうと、いやらしい意味ではなくパンツも脱がして拭いてしまいたい気になるが、そこまでの許可はもらってない。

 綺麗になったエレオノラは、穏やかな寝息をたてはじめた、赤ちゃんみたいに無防備だ。


「おい、エレオノラ。起きないとパンティー脱がしちゃうぞ」


 頬を軽く叩いてみたが、やっぱり起きない。

 まあ、冗談だけどね。さすがに脱がしはしない。


「タケルは一体何をやっておるのじゃ」


 声がして振り向くと、大きな枕を抱えたオラクルちゃんが、呆れた表情をして立っていた。


「えっと……オラクル、さん。どうしてここに?」

「隣の部屋からワーキャー女の悲鳴が聞こえたら、様子を見に来るのは当たり前じゃろ」


「えっと、これは浮気ではないですよ」


 触る許可は取ってあると羊皮紙を掲げようとしたが、妻に対して浮気の言い訳には何の効力もないことに気がついた。

 むしろ証書が浮気を証明してしまう、なんという罠だ。謀ったな、エレオノラ!


「ワシは別にタケルを咎めとりゃせん。ワシはそこに寝てる厄介そうな爆炎小娘と違って、悋気りんきをコントロールできない女ではないからの。しかし、タケルの精気をカスタマイズしている関係上、新しい女が増えるなら増えるで、一言断ってくれんと困るのじゃ」

「いや、増えないから」


 本当かなあという目で見られて、フッと笑われる。

 冗談のつもりだったが、明らかにパンツ脱がそうとしてた現場を見られて、信じてくれるほうがおかしいんだけどね。


「それで、なんでそこの爆炎小娘は、感極まって寝ておるのじゃ。事後ってわけではないようじゃが」

「いや、お腹撫でただけなんだよ。あとは身体を拭いてただけで」


 オラクルはベッドに登ると「ふーん」といった顔で、普通にレースのついたパンティーをペロンと脱がすと、「漏らしとるな」と笑った。


「いや、それ大変じゃねえか。ひとんちのベッドの上だぞ!」

「大丈夫じゃ、ほれみてみろ。パンティーのクロッチ部に、吸収性の高い綿布をかましておる。これはなかなかいいアイディアじゃ。目立たないオムツみたいなものじゃの」


 どれどれと、俺も覗く。


「これはもしかすると、パンティーライナーってやつかな。俺の故郷にもあるわ。この世界の繊維技術で、若干プリミティブにしろこういうのを工夫して作ってるんだな。さすがランクト公国の技術は、って俺は何普通に股ぐら覗きこんでるんだよ!」

「なんじゃ、今頃。タケルは女の股ぐらい、もう腐るほど見とるじゃろうに」


 珍しがるものじゃないとか、そういう問題じゃねーんだよ!

 まあ意外とエレオノラは、アンダーヘアーがライオンキングだったので、本当に大事な部分はうっすらとしか目に入らなかった。


 どっちにしろ、差し障りがありすぎる。


「オラクル、スマンけどメイドを呼んでエレオノラの下着を替えさせるように言ってくれないか」

「そうじゃな、漏らしたままじゃ気持ち悪いじゃろうし」


 今頃思いつくとか俺もどうかしているが、メイドに処理してもらえばよかったんだ。

 その日は、エレオノラをそのまま俺の部屋に寝かせて、オラクルちゃんの部屋で一緒に寝ることにした。

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