5
火鉢の屋敷、外の稽古場。
周一と華燐、二人が向かい合って立っていた。
遠く距離を置いて、赤華音と撥がその様子を見守っていた。
来週に控えている色校戦のため二人最後の調整を行っている。
周一と華燐は模擬戦をしていた。
激しい戦闘の後だろう、服は汚れていて、傷が少し目立つ。
地面は溶け、めくれあがってるいる部分もある。
周一は華燐に声を掛ける。
「調子はどうだ?」
「ばっちりよ。あとは本番で力を出すだけ」
自身に満ちた言葉で返ってくる。
華燐の凛とした表情は変わらない。
「そうか。これ以上は止めよう、来週に支障が出るかもしれない」
「うん、終わりにしましょう」
展開していた魔術を解除する。
俺の胴体を巻いていた三本の輪が消えて、華燐の真紅に輝いていた脚も元の姿に戻った。
約一ヵ月、毎週火鉢の屋敷で華燐と修行をした。
修行の結果を言うと、華燐の方は修行の効果が出た。
今まで華燐は自身の魔術を意識的に、注意を払って行わないと発動しなかったらしい。
他の魔術を併用して魔術を使うことが苦手だったがそれを克服した。
魔力の操作が一段と上手くなったため、自身の魔術を応用して変化させることが出来るようになった。
真紅に輝く脚、彼女は
その距離的な問題を魔術を応用することによって克服した。
有効範囲はどこまでか詳しく分からないが、遠距離で放てる魔術が出来るようになった。
魔術の構築については、本人曰く速くなったらしい。
以前より気を向けなくても、魔術を展開出来るみたいだ。
羨ましい。
一方、俺はというと国内戦の時とさほど変わっていない。
強化魔術に色がのせれるようになって以降、目覚ましい変化はない。
何というか、ぴたりと成長が止まった。
相変わらず、普通の魔術では遠距離の相手に何も出来ない。
強化魔術に色をのせるか研魔で完成した状態にしないと、遠距離では使えない。
強化魔術の色のせも円環の魔術が色濃く引き継ぐため、条件に該当しないと強く反応しない。
強力な魔術には違いないが、円を飛ばした後、タイミングよく相手がその円に触れる必要がある。
目が慣れていない、初見では強力に使えるが、慣れてしまえば避けるのは容易い。
この修行で俺の強化魔術の欠点が分かった。
その円が触れるタイミングでなんと極めて小さな魔術を挟んでくる。
抜群の戦闘センス。
地味な修行が嫌いな癖に、模擬戦の集中力はまさに段違い。
模擬戦を追うごとに強くなる。
今みたいに研魔が終わって万全の状態で戦えば問題なく戦える。
しかし、研磨が終わらない短期決戦に持ち込まれると何もできない。
修行後半の期間は、何度も地面を転がされた。
そして、堅狼を倒した魔術を再現しようとしたが、出来なかった。
やはり何も覚えていなかった。
やった方法も手順も何も覚えていない。
再度、残っていた国内戦の映像を見たが、それが映像に残っていない。
ただ透明な何かが堅狼が作り上げる魔術をねじ伏せ、地面に特徴的な跡だけが残っている。
肝心のどうやって倒したのかも、俺自身相変わらずヒントになる事は分からなかった。
当面の課題は二つ。
研魔を早く終わらせること。
俺自身理解していない魔術の解明。
深く深く考え込んでいる俺に華燐が話しかける。
「周一、立ち止まってどうしたの?」
「何でもない」
「ふうん、変なの」
華燐が不思議そうな表情を作ったが、すぐに表情が変わった。
「修行一緒にやってくれて、ありがとうね
おかげで強くなったわ」
その表情は少し顔を赤くしている。
「どういたしまして。世話になってるからな、当然の事だ」
俺は笑顔で答える。
そう言って、赤華音さんと撥さんのもとへ二人で歩いていく。
こっちに向かってくる二人をみて、赤華音が撥に話を始める。
「よかったわ」
「何がです?」
撥は視線を赤華音に向けるが、赤華音は二人の方を見ている。
「華燐が楽しそうに魔術に向き合えて」
赤華音はそれを尊い眼差しで見つめていた。
「本当にそうですね」
撥は密かな感想を抱いていた。
お嬢様が再び魔術を志すようになったのは、間違いなく周一との出会い楽しそうに魔術の修行をするようになった。
一年ほど魔術から離れていた時期もあった。
この出会いがなければ、魔術師にはならなかっただろう。
周一には感謝してる。
撥は再び目線を二人に戻して、静かにその様子を見ていた。
***
次の週の金曜日、夜。
周一と志津河がすむとあるマンション。
周一の部屋に志津河が来ていた。
二人は向かいに座って一緒に晩御飯を食べている。
ちょうど晩御飯を食べ終わったところ、志津河が俺に話を掛けてきた。
「いよいよ明日だね、緊張してる?」
「いや、大丈夫だ」
緊張はしていない。
俺の近くにいて、今もこうして支えてくれる。
俺にとっては今も変わらず憧れの存在。
「当日会えるか分からないから、今日来た
はい、何時ものやつ」
そう言って、握り拳を俺の前に突き出す。
俺もその拳に合わせるように、ゆっくり握り拳を作ってそれに合わせて触れる。
高校入試以来のゲン担ぎ。
志津河は笑顔で言う。
「うん、頑張って!」
「おう!」
俺も笑顔で答える。
***
同じ日の夜、火鉢の屋敷。
華燐は自身の部屋で、周一との修行の日々を振り返っていた。
今、出来ることはした。
後はその力を出すだけ。
自分の両脚に手で優しく触れる。
油断しては駄目。
新人戦の時みたいに、様子見なんてしない。
あの時の事を周一に聞いたらわざと時間を稼いでいたと言われた。
何か変だと思ったら、準備させる時間を相手に上げていた。
様子見をするのは魔術の戦いにおいて当たり前だと思ってたけど、その考えをうまく利用された。
細かい事は苦手だからせめて、戦い方は丁寧にすることを意識していた。
でも、そんな考えは必要ない。
新しく、遠距離で戦えるように魔術も改良した。
母のように圧倒的な力なんて、今はまだ遠く及ばない。
私が目指す戦い方は固まった。
圧倒的な力を持って相手をぶち抜くこと。
新人戦を経験して改めて思った、戦いで負けるのは嫌だ。
時には魔術に負けること、逃げることもあるだろう。
きっと私の魔術でぶち抜く事の出来ない魔術だって世の中には沢山ある。
それでも戦いでは負けない、絶対に勝つ、いやぶち抜いてやる。
万が一、負けていいって思うのは自分、母、そして彼だけ。
明日は勝つ。
――いくよ、
***
色校戦当日。
場所は赤色高校にある、競技場で行われる。
新人戦とは違い、観客席には大勢の人が集まっている。
観戦は色校に通う学生が優遇されるが、一般の人でも観戦することが出来る。
生で戦いを見れる貴重な戦であり、全国にも放送される。
観客席で目立つのは色。
赤い服を着ている人、黄色いズボンを着ている人、青い帽子を付けてる人。
付けている服は他にも様々だが、特にこの三色が目立つ。
観客席には、青色、黄色、赤色と各一団が固まっている。
それぞれが応援する色の服装を目立たせる。
色校戦と言われるゆえん。
競技場は歓喜に包まれている。
そこに年は関係ない。
ここにいるすべての人がこの戦いを心待ちにしている。
今回の一戦で最も注目されているのが第二戦。
一戦目が注目されいないわけじゃない。
本来なら一番注目される一戦。
色を持つ一族による戦い。
赤色高校一年、
二戦目が特殊なだけ。
この戦いは世間で学生最強を決める戦いと呼ばれている。
何と言っても国内戦を生き抜いた二人の魔術師による戦いが早くも実現した。
青色高校四年、
競技場には、戦う魔術師達が現れる。
開会式の準備が始まる。
普段とは違い豪華な紅いドレスを着た赤華音。
両脇に華燐と周一が並んで歩いている。
蒼い落ち着いたドレスを着た若い女性。
その女性と並ぶように、
そして、黄色い袴を着た、年寄の男性。
その男性と一緒に
観客席にいる人たちは、競技場に向けて声を上げる。
競技場から観客席を見ると、四つの一団に綺麗に分かれていた。
赤色の一団、青色の一団、黄色の一団、そして色がばらばらの一団。
各色の一団は、自分たちが応援する魔術師達に声援を向ける。
そこに否定的な声はない、競技場に熱狂的な声が響き渡る。
実際に立ち寄って感じる独特の空気感、緊張感と躍動感。
目だけでは伝わらない音、そして体で感じる一体感、内から湧き上がる期待と興奮。
そんな熱気に満ちた空間がそこにはあった。
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