真紅に輝く脚

1

 日本のとあるマンションの一室。

 朝の日差しが目に入る。

 めちゃくちゃ眠い、寝れることならもう一度寝たいと思いながら、時計の時間を見た。

 朝の7時。

 俺、輪洞りんどう 周一しゅういちはベッドから体を起こして、そこを出た。

 見た目は黒髪で、成人一般男性の平均身長より少し高めの男。

 二度寝をしたいっていう欲を抑えて俺は洗面台に向かい朝の支度を始める。

 洗面台のある部屋に入って、魔力を流して部屋のスイッチを付ける。

 暗かった部屋は明るくなった。

 さらに魔力を流して洗面台の蛇口を捻った。

 その水で俺は顔を洗う。

 まだ冬の名残があるのか水は少し冷たい。


 俺の周りはたくさんの物で溢れている。

 洗面台を見れば鏡、蛇口、洗濯機、ドライヤー。

 キッチンには、コンロ、冷蔵庫。

 俺の部屋にはベッドに時計、テレビ、窓もカーテンもある。

 魔力を源に動く物、それを使って出来た物。

 今紹介した物が全部じゃないけど、比較的そこまでたくさんの物はないと思っている。

 あるのは生活に必要な物と柑橘類の香りがするアロマキャンドル。

 趣味と言えば趣味だし、他の人が見れば男なのに変な趣味かもしれない。

 俺にとっては日常を思い出す大切な物。

 ありとあらゆる物が魔力を元にして出来た物たち。

 そんな物たちは俺達の日常生活を便利にする。


 俺は洗った顔をタオルで拭いて、キッチンに向かい冷蔵庫を開ける。

 取り出した容器には麦茶が入っている。

 台所にある乾いたコップに麦茶を注いで、一杯飲んだ。

 冷たい麦茶が乾いた喉を潤してくれる。

 容器を冷蔵庫に戻す。

 コップはまた使うから洗わない。

 洗うのは一日の最後か、あいつに任せている。


 その支度中、師匠の言葉を思い出していた。

「もう一度言うけど故郷の学校に戻って、魔術師になってほしい。すごい深刻そうな顔してるけど、手続きとかお金とかそういうのはまかせてよ。あと、日常をサポートする要員も一人ついくから安心して五年間楽しんできて。それじゃあ気を付けて」

 聞いたときは頭が真っ白になって、その場からしばらく動けなかった。

 でも今はこうして日本にいる。

 師匠のところにいつ戻れるだろうか。

 そう思いながら、俺は朝ご飯の準備をする。


 冷凍庫には、ラップにくるまれた拳くらいの大きさに整えられたおにぎりが入っている。

 茶碗一杯分の量。

 パンも好きだけど、大体はご飯。

 冷凍庫にはたくさんのおにぎりが詰まっている。


 ご飯を容器に移してレンジで解凍を始める。

 レンジの機械音が俺の部屋中にゆっくり響き渡る。

 俺の朝の支度はどんどん進んでいく。


 朝ご飯が終わり、外に出る支度が終ったタイミングで、部屋のインターホンが鳴った。

 もうそんな時間かと思いながら、玄関に向かってドアを開ける。

 目の前には女の子。

 身長は俺の肩くらいある。

 髪色は黒色だが光の角度によってほんのかすかに青く見える。

 俺はその女の子に日常が始まる挨拶をする。

「おはよう、準備できたよ」

「おはようー、じゃあ行こう」

 かわいい顔と元気な声が返ってくる。

 彼女の名前は波止場はとば 志津河しずか

 同級生で俺の日常のサポートをしてくれる相棒。

 今から向かう先は魔術師の卵が集まる高校。

 赤色高校。


 赤色高校は日本が認定した、魔術師になれる高校の一つ。

 受験資格は、その年に中学を卒業した人のみ。

 魔術の才能、魔力の才能を見出された学生達が通う場所。


 魔術について五年間専門的に学ぶ。

 二年生までは魔術の基礎を中心に学び、三年生になると希望の進路への勉強に切り替わる。実戦科、運営科、理論科に分かれる。

 どの科を選んでも卒業すると同時に魔術師の資格を得ることができる。

 魔術師の資格は非常に需要がある。

 魔術で戦うことに着目されがちだが、魔術師の仕事はそれだけではない。

 魔術が根強く浸透しているこの世界で魔術師はとても重要な役割を担っている。

 生活において魔術と魔力は必要不可欠。

 蛇口をひねれば水が出る、スイッチを付ければ灯りがつく、見たい聞きたい情報はすぐに知れる。

 今でこそ、生活に直接触れる部分は魔力の大小に関わらず、誰でも出来るようになった。

 しかし、その生活を実現するには、あまりにも巨大な仕組みが必要だった。

 魔術に才能がない者が、いくら束になっても巨大な仕組みを動かすことは出来ない。

 唯一この資格を持った魔術師達によって動かすことが出来る。

 資格を持つ魔術師達が魔術という基盤を生産、管理しているおかげで、人々に豊かな生活を提供している。

 そんな魔術師達の社会的地位は非常に高い。


 日本で魔術師の資格を取れる高校は全国で四つ。

 それぞれ、関東は赤、東北は青、関西は緑、九州は黄。

 その高校の運営は日本に存在する名家と言われる魔術に秀でた家が主に管理をしている。

 赤の火鉢ひばち

 青の水鋏すいきょう

 緑の風鍔かぜつば

 黄の土鏐つちこがね

 国から色を付けれらた魔術師の一族。


 この四名家や世界中の魔術師達が目標にしている大会がある。

 評議会が開催する展示会で「魔宝師まほうし」になること。

 世界に何十億といる人たちの中でたった12人にしか与えられない最強の称号。

 誰しも皆、一度は一番というのに憧れる。

 それは魔術師も例外ではない。


 俺ももちろん魔宝師を目指している。

 でも、俺は魔宝師よりも先にやりたい事がある。

 魔術師の資格を取って、師匠の所に戻ること。

 俺は真ん中くらいの成績で赤色高校に入学することが出来た。

 無事に師匠のいいつけ通り魔術師の資格はとれたも同然。

 あとは時間がおしい。

 5年間という長いようで短い期間。

 何事も最初が肝心。

 この高校には独自の取り組みで魔術師になれるチャンスがある。

 俺はそれに参加して魔術師になる。

 魔術師になれれば俺は師匠に恩返しができる。

 俺が魔術で出来る恩返し。

 俺がやりたい事。


 それは師匠と一緒に展示会に参加して、師匠を魔宝師にすること。

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