70.友人と引越しと盛大な誤解と

「わざわざ悪いな、手伝ってもらって」

「別にいいって。にしても同棲とは、付き合うまであんだけ長かった二人からは考えられないなぁ」

「うっせ。天宮も悪いな」

「ん。つってもあんまあてにしないでね。残ってるのは重いのばっかだし、女子ふたりは見学しとく」

「えっ、んじゃそれ俺と蓮也だけ……」

「わかった。俺も遥香に怪我して欲しくないしな」

「えっ」


 驚いたように目を開く翔斗と、楽しそうに笑う遥香。

 いつの間にか翔斗と遥香もそれなりに仲良くはなっていて、だいたい2年ほど、一緒に過ごしてきた時間は長いから当たり前だけど、遥香も翔斗の前でよく笑うようになった。


「けど、なんかムカつくな」

「殺気を感じるから帰っていいか?」

「気の所為でしょ。ほらさっさとしなよ。応援したげるから」

「あくまで手伝う気はないんだな……」


 翔斗の悲鳴を聞きながら、蓮也は遥香の部屋へ向かう。

 移動させるものはベッドとクローゼット、机だ。玄関のスペース的に崩せるところまでは崩したのだが、それでもなんだかんだ重い。

 とはいえ、男子二人の力なら問題なく運ぶことは出来るので、別に翔斗の悲鳴も心からのものでは無いだろう。

 動き出したら早いもので、なんだかんが悠月が手伝ってくれたのもあり、作業自体は順調に進んだ。


「天宮、そこの下危ないから変わる」

「あ、マジ? ごめん、サンキュ」

「……なんか、蓮也も変わったよな」

「ん? そうか?」

「元から人には優しかったけど、なんつーか、守るようになったなって」

「守る、か」


 そう言われればそうかもしれない。

 遥香と出会って、時間を共にして、傍にいて。いつの間にか蓮也は遥香を守りたいとも思っていた。


「変わりましたよ、蓮也くんは。興味無いなんて言ってた女の子に惚れこんでます」

「それは変わったな、うん」

「ふふっ、かくいう私も変わりましたがね。仲良くなれたらなとは思いましたけど、こんなに好きになるとは思ってませんでしたし」

「惚気は他所でやりなって。いや、部外者はあたしらなんだけどさ」


 翔斗と悠月に呆れたような顔をされたので、大人しく作業を再開する。その隣で遥香はにこにこ、否にやにやしていて、非常にやりづらい。

 しばらく黙って運んだり分解したりを繰り返していると、突然悠月が口を開いた。


「ふたりが同棲してまずしたいことってなんなの?」

「添い寝、ですかね」

「やめてくれ、理性的にいさせてくれ」

「意気地無し」

「いやいい、もういい。結城は? なんかないの?」

「いやまあ、特にはないな。別に何か変わるわけでもないし」

「ま、そっか。にしても添い寝って。ペットじゃあるまいし」

「抱いてならいい」

「ああ、なるほど。あれは私も気持ちよかったので、是非ともお願いしたいものです。次はちゃんとベッドで」

「だ、抱く? 気持ちいい?」


 翔斗が何故か動揺して、その数秒後に悠月も顔を赤くする。

 2人の行動が理解出来ずに遥香と顔を見合わせて、そして理解した瞬間に顔を逸らした。


「語弊! 誤解しかない!」

「してませんからね!?」


 私は別にいつでも構わないんですが、なんて声は全く聞こえていないフリをして、遥香が2人の誤解を解こうとしているのを見守る。


「いや、びっくりしたけどなんか、別にそんな驚くことでもねーわ。なんかもう今更ってか。早すぎる気はするけど」

「ん。お幸せに」

「違いますから違いますから違いますから……」

「愛し合ったんだね」

「違いますからぁ!?」


 聞く耳を持たない二人に弁解を続ける遥香は、半泣きである。

 恐らく本気で勘違いをしているわけではないはずなので黙って見守っていたが、さすがに可哀想なのでそっと抱き寄せて背中を叩いてみる。


「よしよし」

「いや、あの……誤解を……」

「冗談だけど」

「さすがに蓮也がそこまで出来ると思ってないしな」

「おい」

「……本気で焦ったので次したら怒ります」


 ほっと安堵の息を漏らして、遥香はそのまま蓮也に預ける。翔斗と悠月が黙ってニヤついているが、遥香はそれに気づいてないのか、安心しきった笑みを浮かべている。

 やがて2人の視線に気づいたらしく、遥香は蓮也を突き飛ばして離れる。


「あ、ごめんなさい!」

「いやいいけど……日に日に遥香がポンコツになっていくな」

「なっ! 誰のせいだと思ってるんですか!?」

「これに関しては結城も悪いけど、八割近くは遥香自身のせいでしょ」

「同感」

「うぅ……! も、もう再開しますよ! 早く!」


 恥ずかしがっている遥香の照れ隠しを聞いて、蓮也たち三人は笑いながら作業を再開した。

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