61.合格記念パーティ

 悠月たちと合流して、2人には先に部屋に行ってもらった。


「さすがに寒い中来てくれた2人に長い時間おでんを待たせるのは嫌ですね」

「そうだな。シチューとかにするか?」

「いいですね、蓮也くんにも手伝ってもらいますからね?」

「そのつもりだから大丈夫」

「うまく出来たら褒めてあげます」

「やめてくれ」


 この頃何故かよく褒めたがるが、どちらかと言えば蓮也が褒めてあげたい方だ。遥香に褒められてしまうと、きっと嬉しさよりも恥ずかしさが勝ってしまう。

 蓮也の持つかごの中には、多くの材料が入っている。少しばかり重くなってきたのを見兼ねたのか、遥香はもう一つかごを取ってきて、そちらに入れだした。


「大丈夫だぞ?」

「駄目です。あなたはすぐにそういうこと言うので信用なりません」

「ほんとに持てるんだけどな」

「そう言って無理してたことが何度もありました。もう騙されません。もう2年近くあなたといるんですよ」

「……そっか。じゃあ無理するのはやめとく」


 あまりムキになることでもない。それに、遥香がそこまで言ってくれたのが素直に嬉しかったのでここは譲っておく。


「……こうしてると、なんか夫婦みたいですね」

「そ、そうだな」


 最近は遥香が準備していることが多かったので、こうして2人で買い物をすることもなかった。それに、これまでは一方的に蓮也が荷物を持っていただけだ。


「結婚ですか……うぅ……」

「恥ずかしがるなら想像するなよ」

「遠くない未来の事かなって……」

「……まあ、もう少しだけ待って欲しい」

「いつまでも待ちますよ」


 それにはいろんな準備と、あとは相当の覚悟がいるのだ。というか、蓮也としてはもうこれがプロポーズでも構わない。


「でも、ちゃんとしたいな」

「なにをです?」

「プロポーズ」

「ああ、それはしてくださいよ。楽しみにしてますから」

「お義父さんの説得とか大丈夫か……?」

「知りません。振り切ってでもやりますよ」

「まあ、そのときはそのときだな」


 未だに遥香の父への態度はあまり変わらないが、『私たちのことを一応は想っていたそうですので』と、この前手袋を編んでいた。あまり家族間のやりとりに首を突っ込むものでは無いが、結果的にうまく回ったので良かったと思っている。

 会計を済ませ、バッグに商品を詰める。蓮也の方に重いものを入れていると、遥香があまり面白くなさそうに蓮也を見ていた。


「そっち持ちますから」

「やめとけ、めちゃくちゃ重いから」

「わかってるなら半分くらい分けてくださいよ」

「これでもお前の彼氏なんだ、これくらいはかっこつけさせてくれ」

「……いつも、かっこいいよ」

「お、おう。そっか、ありがとう。でも話が違う」

「どうやら諦めてくれないようなので荷物は任せます」

「そうしとけ」


 蓮也は重い方の荷物と、ついでに遥香の鞄を持って帰ることにした。







「おかえ……いや、荷物の量」

「なんか悪いな」

「いつもとそんなに変わらないから大丈夫だ」

「蓮也くん、手洗いうがい」

「ああ、ごめん」

「この時期はしっかりしましょう。インフルエンザにでもなったら面倒です。看病はしますけど」

「……風邪ひこうかな」

「やめてください」


 「風邪なんてひかれたら、ずっと一緒にいれないじゃないですか……」と小声で聞こえてきて、なんともやりづらい気分になる。それを悠月たちに悟られないように、遥香の頭を少し強めに撫でる。


「あぅ、髪が……」

「ごめん、くしゃくしゃになった」

「いいですよ、直してくれるなら」


 くしゃくしゃになった頭を差し出す遥香は少し子どもっぽく見えて、なんとも可愛らしい。手ぐしで戻し、手洗いうがいをする。


「手伝ってもらいますからね、とは言いましたがやることはそんなにないんですよね」

「まあ、何かあったら言ってくれ」

「あ、あります。ありますよ、やることなら」

「なんだ?」

「……私の隣にいてください」

「いるけど」

「最初からそのつもりだったんですね……」


 万が一遥香が怪我をした時にすぐに対処できるように、たとえ手伝うことがなくても邪魔にならない位置で見守るつもりではあった。


「もうちょっと近くで。いつもの距離でお願いします」

「いいけど、今日はどうした?」

「なんでしょう、自分でもよくわからないんですが……近くにいて欲しいんですよね」

「そっか、わかった」


 可愛らしいことを言ってくれる遥香の頭を撫でようとして、既に作業を始めてることに気づく。手元が狂ってしまうと危ないので蓮也がその手をそっと戻すと、遥香の方から少し頭を近づけてくる。


「大丈夫です」

「おう……なんかえらく積極的だな?」

「なんでしょうね……迷惑なら言ってください」

「そんなことは全然ない」


 蓮也は迷惑だなんて思わないが、後ろのふたりはどうなのかはわからなかった。






 結局ほとんど手伝うことなく、ただ遥香の頭を撫でていたら出来てしまった。


「召し上がれ」

「一応聞くけど、過度に砂糖とか入ってないよね?」

「はい? そんなミスはしてないと思いますけど……」

「いやもうあんだけイチャついてたんなら多少甘くても納得いくわ」

「だから、イチャついてませんって」


 先程の議論がまた始まりそうになったので、遥香を止めて蓮也は4人分の水を準備する。


「「いただきます」」

「はい。あ、蓮也くん、持ちますよ」

「助かる」

「ふふっ、蓮也くんも早く食べましょう」

「そうする」


 蓮也と遥香も食卓につき、シチューに口をつける。


「美味い」

「よかったです。悠月ちゃん、砂糖とか大丈夫でした?」

「ん、大丈夫」

「それならよかった。我ながらなかなかうまく出来たと思います」

「ほんと月宮ってすげーよな」

「そうですか? 悠月ちゃんや蓮也くんも凄いところがたくさんありますけど」

「俺は入れてくれないんだな」

「あ……えっと、ごめんなさい……」


 しゅんとして謝る遥香にあたふたと慌てる翔斗を、蓮也と悠月は笑いながら見守るのだった。

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