第4話


意外と先輩との話に時間がかかった。

この学校の休み時間は20分で、話に15分と少し使っていしまったからあとは5分弱しかない。

先輩との話で終わりだったのならギリギリ授業までに教室に帰れたかもしれないが、あいにくまだ教室に帰れそうもなかった。

初日から授業に出席できないということは避けたかったがしょうがない。

苦渋の決断をしながら再び画面を操作し、STARTを押した。


「隠れるのがあまり得意じゃないようですが、そろそろ出てきたらどうですか」


オレがこのカフェテリアに来た時からずっと後ろに隠れている生徒に向かって声をかけた。


少しの間、出るか出ないか迷っていたようだが、オレがずっと隠れている方を見ていると、あきらめたように出てきた。


「ばれてたのならしょうがねぇーな。なぁお前、いつから分かってたんだ。」


「ついさっき偶然気づきました。あなたは?」


「普通ならお前から名乗れって言いたいところだが、お前のことはすでに調査積みだからな。俺は、3年Aクラスの藤堂健だ。」


見たことがないと思っていたが、名前も聞いたことがない。

しかも3年か。

それにしても今日は他学年とよく話すな。

多分同学年の生徒よりも話してるんじゃないか。

そう思いながら、藤堂健と名乗る生徒をもう一度眺めてみる。

体格はしっかりしていて、身長は190㎝近くある。

動物に例えるなら


「熊だな。」


「あぁ、なんだと。」


思わぬところで口に出してしまった。

お陰で野生動物のような目で見られてしまった。

やはり、熊というのは間違っていなかったようだ。

まだ、熊だと言ったことに怒っているようでにらんでくるがここは強引に話を進める。


「いえ、こちらの話です。何でもありません。とにかく、3年の藤堂先輩ですね。

これからよろしくお願いします。それで藤堂先輩、隠れていましたけど狙いはどっちなんですか?春奈さんの方ですか?それとも僕の方ですか?」


藤堂先輩もそれが分かったようで、にらみを利かしながらも疑問に思ったことを口に出す。


「春奈さん?」


「春奈さんというのは渡良瀬生徒会長のことです。」


「そうか。なら、が狙っているのは生徒会長の方だ。だがもしお前が生徒会長側につくというのならお前も狙う対象になるだろうよ。」


「では、僕はさっき生徒会長側につくと言ってしまいましたのであなた達とは敵になってしまいますね。残念です。」


先ほどの春奈さんとの話を藤堂先輩も聞いていたはずだから、僕があっち側につくと知っているはずだ。

だが、一つ気になるのは藤堂先輩は生徒会長を狙っているのはだといったことだ。その言葉が本当なら藤堂先輩は生徒会長に敵対する何らかの派閥のようなものに属しているのかもしれない。その派閥の勢力によっては、相手に回すと厄介になる。

出来ればこの学校内の勢力構成を知ってからどこにつくか判断した方がよかったかもしれない。


「いやぁ、そうとも限らない。さっきのあれは俺を含めなければ2人だけの口約束。お前がこちら側につくならあれを聞かなかったことにしてやる。」


「では、まず録音したものを消去してください。それが残ってしまっていると、藤堂先輩を信じ切ることはできません。あ、それとこの会話の録音も消してくださいね。」


「ちっ、全部お見通しってことかよ。……わーぁたよ。消してやる。」


普通はここで録音を無条件で消したりしない。不利になるだけだからだ。

無条件で消してくれるということは、オレが自分側につくとわかっているからか、それとも録音はもう誰かに送ったか。

前者なら、自分がオレを引き入れるだけの条件を持っているという相当な自信があるということ。

こちらならば、藤堂先輩はそこそこ信用できる人物だと判断してもよいかもしれない。

後者なら、この話の最初からオレをはめようとしている。

いや、最初からばれたときはだますことを前提で盗み聞きしていたのかもしれない。

もし、藤堂先輩が後者なら信用は到底できない。

味方になるなんて不可能だろう。

だからまず、藤堂先輩が前者か後者のどちらなのかを調べる必要がある。


「消してもらったところ悪いのですが、すみませんが藤堂先輩側にはつけません。」


「ちょ、おい。せっかく消したんだ。条件くらい聞いて行けよ。」


「その条件というのは気になりますが、今の僕は生徒会長側についてしまっているので。……藤堂先輩と春奈さんは敵同士なのですよね。」


「お前。後々、俺たちと組んどかなかったこと後悔しても知らないぞ。」


そのあとも色々言われたが、断り続けていたらすぐに去っていった。

時計を見ると、もう授業が始まって5分経っている。

まだ始まってすぐだったので教室に戻って授業に参加することにした。




◇◇◇◇



HRの後は、一般科目の授業があり、昼休みになった。

教室の中には半数くらいが残っていて、持参のお弁当を食べていた。

オレは、昼食をどうするのかは愛華に任せようと思っていたので確認を取ろうと思い前を見た。

しかし、愛華は席にいなかった。

念のため教室を見まわしてみたが、やはりどこにもいない。

もしかしたら、友達とどこかに食べに行ったのかもしれない。

そういえば、さっきの休み時間の時にやたらと愛華に親しそうにしている奴がいた。

もうそいつで確定だろう。


冷静に批評をしてはいるが、内心では少し焦っていたりもする。

何しろ、学校では普通、昼食をどうするのか知らないのだ。

お弁当を持参出来たらよかったが、ぐちぐち言っていても仕方がない。

今更作りに帰ることなど不可能だ。


しょうがない。

昨日の帰り際に見つけた、すし屋にでも行くか。




学校から数分歩いたところにすし屋はあった。

入るとかなりの客がいた。

そのためか、5分ほど待たされたが昼休みは1時間あるので食べるのに時間をかけなければ十分に間に合う。


そう思って食べ始めたが、少しすると隣に同じ高校の生徒が座った。

おお、我ながら良い選択をした。

適当に選んだ店だったが、ちゃんと普通の高校生が来ている。

この1年間で、一般人の好みというのを理解してきたのかもしれない。


食べ終わって、席をはずそうと思ったが、先ほどから隣の生徒がチラチラ見てくる。

本人は必至で隠そうとしているのは分かるが、こっちからしてみればまるわかりだ。

見てくるということは何か言いたいことがあるのではないかと思ったので、少しの間スマホを触りながら待っていたが、結局何も話しかけず出て行ってしまった。

あんなにあからさまだと思い違いだとも思わないのだが、話しかけるほどでもなかったのかもしれない。

少し時間を無駄にしたなと思って店から出ると、先ほど隣にいた生徒がいた。


「お前が茅野真治だな。話がある。」


何か言いたいことがあるとは思っていたが、それならなぜ店内で話しかけてこなかったのだろう。

そのせいで時間を無駄にしたので、個人的にはこれ以上時間を使いたくない。


「なんですか、一方的に。それとすいません。今、少し急いでるので話はまた今度にしてください。では。」


そう少し強めに言ってその場から去った。

そのあとは、後をつけてきていたようだが、さすがに教室の中までは来なかった。



◇◇◇◇



午後の授業が始まる5分前には、全員が席についていた。

それを見て、何やら分厚い書類を持っている先生が口を開いた。


「皆さんには席についてもらったところ申し訳ありませんが、午後の授業はありません。ですが、序列上位15位以上の者は、重要な書類を渡しますので残っておいてください。」


先生は15人以外の全員が教室内にいなくなるまで待って、再び口を開いた。


「今日残ってもらったのは、今朝生徒会長が言っていたペアを発表するためです。実際に会う機会は自分で設けてください。では、それぞれのペアに関する書類を渡します。すべての注意点は書類内に書かれていますが、最も注意していただきたい点としては、流出が禁止である点と再発行ができない点ですね。また、書類には……」


先生は、書類を一人一人の机の上に置きながら、注意点と書類の説明をしていく。

この書類は、双方に渡されているらしい。

最後に、オレの机の上にも例の書類が置かれた。

初めのページには、ペアの情報が載ってあった。

名前の他にも様々な情報が載っていたが、とりあえず基本的な情報だけ見ていく。


氏名 五十嵐沙羅いがらしさら

学力 D

身体能力 S

判断能力 C


身体能力という評価項目があるが、それはおそらく入学試験のときに測ったものだろう。判断能力はいつ測ったのかわからないが、どこかで測っていたのだろう。

さらに見ていくと、学力の評価は5つの元データを合算したものだということが分かった。ついでに、その元データも確認しておく。


国語 C

数学 D

社会 C

理科 D

英語 B


どうやら文系が得意らしい。


次のページをめくると、自分の評価も載ってあった。

自分の評価が載っているのが少し不思議に思ったが同じ書類が双方に渡されるのなら当然と言えば当然だと思い直した。

しかし、改めて自分の評価を見ると身体能力だけが以上に低かった。愛華に合わせればすべてが良い評価になるというのは間違っていたようだ。


氏名 茅野真治かじのしんじ

学力 S

身体能力 C

判断能力 A


国語 S

数学 S

社会 S

理科 S

英語 S



書類を一通り読み終えるとちょうど先生の説明も終盤に差し掛かっていた。


「以上で説明は終わりです。書類に不備がないと判断出来次第、教室を出るようにしてください。」


説明が終わると授業はもうなかったので、愛華が読み終わるのを待って2人で家に帰った。



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