第1話

  2031年4月1日


 『林海学園入学式』


 俺は、見事に『林海学園』に合格して今は愛華と入学式に来ていた。

仁さんと真白さんは用事があってこれないらしい。

まあそれはそうと、仁さんは試験が難しいと言っていたが、正直に言えば拍子抜けにもほどがあった。

あれ程度ならば対策などする必要もなかったのではないかと思える。

はっきり言って、時間の無駄だった。

まあ、今更悔いても仕方がないか。

そう思いながら、騒がしくなってきている周りを見た。


 

 先ほどから隣を何人もの親子が通っていく。そろそろ俺らも入学式に向かわなければならない。

スマホを触っている愛華に声をかけた。


「愛華さん。そろそろ入学式が始まるみたいですよ。会場は体育館みたいです。行きましょう。」


入学式がもうすぐだから、早く体育館に行かなければならない。少し急いで、真治は足早に校門をくぐろうとした。

だが、入学式に向かうのはもう少し先になりそうだ。


「真治君、ちょっと待って。」

愛華が話かけてきたのだ。

本当に急がなければいけない時間なのにどうしたというのだろう。


「真治君には、合格祝いの言葉言ってなかったなと思って。この機会に言っとくよ。

真治君、『林海学園』に合格おめでとう。これから学校でもよろしくね。」


何だそういうことか。

確かに、お互いにこれまでまともに祝いの言葉さえ言っていなかったな。

でも、そうやって改めて言われると、俺が高校というところに入学することに実感が湧いてくる。

初めてのことに俺も少し浮かれているのかもしれない。

ここは俺からも一言返しておこう。


「愛華さんも合格おめでとう。こちらこそよろしくお願いします。」


「ありがとう。じゃあ、入学式行こう。あ、そう言えば私学年主席なんだよねー。」


ああ、知ってた。



 


 

入学式が終わった。

それにしても、愛華が新入生代表挨拶をするなんて正直驚いた。

でも、よく考えれば、入学試験で1位を取ったのだから当然といえば当然か。

まあ、それを見越して俺は2位を取れるように1問だけ間違えておいたのだがな。

そんなことを考えている間に、教室に着いた。


1-A


これが、俺がこれから学ぶことになる教室か。

ちなみに、この学校では、1学年に1クラス50人のクラスが6つあって、成績が高い順にA~Fとなっているらしい。成績の優劣は、初めは入試の成績順だが、それ以降は定期テストの成績順となるみたいだ。定期テストは年に3回、学期末に行われるそうだ。つまり、年に3回クラス替えが行われることになる。

まあ、俺としてはAクラスでもFクラスでもいいんだがな。

 


教室に入ると、もう俺を除いた全員が揃っているようで先生らしき女性もいた。

なので、急いで空いている席に座った。

改めて先生の方を見ると、かなり若く20代前半くらいに見えた。

後で少し話してみるか。

おっと、先生が話始めるようだ。


「全員が席に着いたようですね。改めて入学おめでとうございます。1年Aクラスを担当する高橋といいます。取り敢えず、これから1学期間宜しくお願いしますね。まず初めに、一人一人自己紹介をして頂きます。それでは、序列順にお願いします。」


序列順。

そう。

この学校には、クラスの順位だけではなく個人の順位がある。その個人の順位が序列と呼ばれる。この序列という制度は、名前こそ違うが研究所でもあったから俺でもなじみが深い。


 確か……そう、研究所では、『№』と呼ばれていた。№0~100まであって、№0が一番順位が高かった。皆、その『№』の101人に入るために必至だった。



 俺がそんなことを考えている間に、一つ前の席に座っている愛華が自己紹介を始めていた。

愛華とは、一緒に暮らしているから話す機会も多いと思われるかもしれないが、決してそんなことはない。

仲が悪いというわけではないが、逆にいいというわけでもない、実に微妙な関係だ。

一年前にいきなり家に来たのだから仕方がないと言えば仕方がないのだが…。

とにかく、ほとんど話さないというのは事実だ。

だからかもしれないが、愛華が何を話すのか多少なりとも興味がある。

それと、こんなことを言うと、おかしがられるかもしれないが俺は自己紹介をしたことがない。

まあ、これも仕方がない。

育った環境がそうだったというだけだ。

だから、予め愛華から自己紹介があるかもしれないと聞いた時から愛華の真似をしようと決めていたのだ。


一言一句聞き逃すまい。


そう決意して、愛華の言葉に集中する。


「初めまして。序列1位の九重愛華です。八帝はちてい中学から来ました。宜しくお願いします。」


そうかそうか。そうやって自己紹介すればいいんだな。自己紹介などこれまでしたことがなかったが、この自己紹介で第一印象が決まってしまうであろうことは見てれば分かる。絶対に失敗はできない。



「初めまして。序列2位の茅野真治です。宜しくお願いします。」


ふー。

助かった。

多分これでうまくいったはず。

そう安心して、残りの自己紹介を聞いた。

 




 愛華と俺を除く48人の自己紹介を聞いてみたが、始めの2人が同じ様な自己紹介をしたせいか、どれも俺らと同じような自己紹介ばかりだった。


「はい注目。これで、50人全員の自己紹介が終わりました。最後に、私の自己紹介をしておきたいと思います。」


「では、改めて1年Aクラスを担当する高橋美紀たかはしみきです。生まれは日本ですが、海外の大学に行きました。担当教科は、生物と英語で、今は生物学者として学校には勤務しています。海外留学などの相談なら乗れると思います。これから宜しくお願いします。」


それから、学校の説明を少し受けてから解散になった。


 




 学校が終わった後、他の生徒が帰る中、愛華に声をかけられた。


「真治君、今から一緒に校内を見てまわらない?部活動の見学もできるみたいだし。」


俺も、高校とはどのようなものなのかを知るためにそれは必要だと思っていたのでもちろんOKだ。

愛華の表情をチラッと見た後、

「もちろん、いいですよ。部活動にも興味がありますしね。」

と、立ち上がりながら言った。

前を見ると、愛華はもう教室から出るところだった。

急がないおいてかれるな。

先生に一言挨拶をしておきたかったが、明日にするか。

名残惜しさを残しながら、愛華のもとに急いだ。


廊下に出ると愛華が待っていてくれた。


「じゃあ、取り敢えず歩きながら行き先決めよ。私も、ちょっと話したいことがあるしね。」


……話したいことか。


まあ、話というのには心当たりがあるはあるが。

先ほどの高橋先生の話だろうな。

まあ、愛華がどう思っているのかは、気にはなってたから相談に乗るくらいなら別にいいが。


「はなし、ですか?」


一応、推測があったているか調べるために知らないふりをしたが、どう出るかな。


「うん。真治君もさっきの先生の話、聞いてたでしょ。真治君はあれ、どう思う?」


やっぱりか。

先生の話…ね。

俺は、それをもう一度思い出してみた。



 

 高橋先生は、自己紹介をした後、学校の説明を始めた。


 「それでは最後に、この学校の説明をしておきたいと思います。」


そう言って話されたことは、俺たちがこの学校というものを理解するためにはなくてはならない重要な話だった。


「本校は、完全実力主義の学校です。その為、皆さんが知っている通り序列というものが取り入れられています。そして、これが本校最大の特徴と言っても差し支えありませんが、毎年序列が下位3割の学生は退して頂きます。」


退学という単語が出た瞬間教室内が騒然とした。

これまで、眠気を我慢していた者も、眠気など吹き飛んだ様だった。


なんだ?

そんなにおかしいところがあったか?


俺には、全くおかしなところはなかったと思うのだが、大多数の生徒は違ったらしい。

俺は、このごろ一般的な価値観というものが少しは分かってきたと思っていたのだが、まだまだ不足していたみたいだ。

それを学ぶためにこの学校に来たといえばそれまでだが。

まあ、それは置いといて先生の話には、まだ続きがあるみたいだ。



「まだ話は終わっていません。最後まで聞いていただければ損をするのはあなたたちです。今の話には、続きがあります。それは、退学者の中でも退学を免れる方法があるということです。年度末に序列上位3割の人を対象に退学者候補の生徒の中から退学者としてふさわしくない者を一人ずつ選んでもらい、その結果上位10人となった者は退学を免れます。しかし、その対価として同じ序列上位3割の学生を対象に退学者候補と序列上位5パーセント以外の者の中から退学者としてふさわしい者を一人ずつ選んでもらい、その結果上位10人となった者には退学してもらいます。」


ほう。

そういうことか。

このルールがないのなら成績だけを気にしていてもいいが、序列上位5パーセントの人以外は、このルールがあるから対人関係も気にしないといけないということか。

俺も、今は上位5パーセントに入ってはいるがもしも落ちてしまったときを考えて、対人関係も気にしておかないと「退学者としてふさわしい者」に選ばれかねないな。


「以上が今日話しておくことです。ルールはいくつかありますが、それはその都度話していきたいと思います。これまでで質問はありますか? 

……なさそうですね。では、今日はこれで解散にします。」


先生の締めの一言で弛緩した生徒もいたが、多くの生徒はまだ先生の言葉について考えているみたいだ。

俺も、後者だ。

少し整理しておくか。



〈退学者〉

・序列下位3割の生徒

※序列上位3割の生徒に「退学者としてふさわしくない者」として選ばれた10人は含めない

・序列上位3割の生徒に「退学者としてふさわしくない者」として選ばれた10人

※序列上位3割の生徒は「退学者としてふさわしくない者」として序列上位5パーセントの生徒を選ぶことはできない



 改めて考えると、毎年学年300人の3割の生徒が退学だから、2年生になるときには210人になって、3年になるときには147人になるから、2年で半数以上がこの学校からいなくなるのか。

 それにしても、最後に言ってた「これ以外にもルールがいくつかあります」っていうのにも、引っかかりを覚える。

もしかしたら、絶対に退学しないと思っている序列上位5パーセントの生徒も危うくなるルールがあるかもしれない。

その可能性を考えると、対策はしとくにこしたことはない。

荷物まとめたら、先生に挨拶がてら探ってみるか。

そう思って、荷物をまとめていると、珍しく愛華が声をかけてきた。





「真治君、今から一緒に校内を見てまわらない?部活動の見学もできるみたいだし。」


もちろんOKだ。

だが、


校内を見てまわる?


部活動の見学?


そんなのは建前だろ。



お前は、いや、は、














ただだろ。

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