第47話◇七人組パジャマパーティー・後編
いざ就寝となり、部屋の明かりが落とされた。
俺は仰向けに寝ている。
「れ、レイン様がこんなお近くに……うぅ、気を確かに持つのです私!」
右隣には、エレノアがいる。
「うぅ……悔しいのだわ」
その更に右にはヴィヴィ。
「レインさま、わたしの頭、重くないでしょうか~」
左隣にはルートだ。
俺はエレノアとルートに頼まれ、腕枕というのをしている。
「あぁ、大丈夫だよ」
「羨ましい……恨めしい……」
レジーがぼそぼそと呟いていた。
そして最後、モナナだが。
「ふぉお……っ。ぼ、ボク重くない? 邪魔じゃない? 汗掻いちゃってない? 体は綺麗にしてきたけど匂いとか――」
顔を真っ赤にしてテンパっている。
「モナナ、落ち着いてくれ。大丈夫だから」
彼女は恐る恐るといった感じに、俺の胸板に自分の頭をこてんと乗っける。
「……レインくん、あったかいね」
「そうか?」
「うん」
モナナの吐息が、なんだかくすぐったい。
みんなすごくいい匂いがするし、温かい。
チビたちと同じくらいの年頃になっている筈なのに、普段の姿も知っているからか、妙に意識してしまう。
「レインくん、少し、鼓動が早くなってる?」
モナナが俺の胸の上で、こちらを見た。
「も、もしかして、ボクなんかに……ドキドキしてくれてる、とか?」
そう囁いたモナナの表情は、期待に染まっていて。
「モナナ? 右隣に寝る私にドキドキしているという可能性が高いと思うわ」
「どうでしょうか~? わたしも負けてはいないかなと思いますけれど~」
エレノアとルートが両隣から会話に入ってくる。
「くぅっ……こんな悔しさは味わったことがないのだわ」
「……敗北が人を強くする……次の企画ではわたしこそがれいんさまの一番に……」
『あんたら寝る気ある?』
ここまで沈黙を貫いていたミカが、ついにツッコミを放った。
「ミカの言う通りだな。そろそろ寝よう」
俺が小さく欠伸をすると、みんな静かになった。
俺の眠りを妨げたくはない、と思ったのかもしれない。
六人分の吐息だけが響く部屋。
いや、七人分だ。
保護者役? のフェリスはソファで眠るとのこと。
しばらくして、うとうとしてきた頃。
異変に気づく。
「……ん?」
腕と胸の上に乗る重さが、徐々に増してきているような……。
「あれ? あれれ?」
胸の上のモナナが慌てた声を出す。
それに伴い、俺の胸板の上で徐々に柔らかい何かが膨らんでいるような……。
思わず目を開けると――モナナの胸が膨らみ始めていた。
違う。
体全体が大きくなっているのだ。
モナナは元の体格も小柄だから、気づくのに遅れた。
次第に全員が異変に気づいていく。
「も、モナナ? これはどういうことです? まさか――」
エレノアが困惑した声を出した。
「薬の効果は明日の昼前まで
モナナが叫び、俺以外の全員が上体を起こした。
「い、今戻るのはちょっと……大変なことになってしまいませんか~」
さすがのルートも困った様子だ。
「まずいのだわ、パジャマがパツパツで今にも弾けてしまいそうなのだわ!?」
ヴィヴィが苦しそうに言う。
パリンッ、と花瓶の割れる音が響く。
「ご、ごめんなさいっ。ぼたんが……ぼたんが弾け飛んじゃって……」
レジーが恥ずかしそうに言う。
弾け飛んだボタンが花瓶に命中したようだ。
「モナナ! いつまでレイン様の上に乗っているつもりですか!」
「そ、それよりもフェリス! すぐにあたし達の服を用意してほしいのだわ!」
「皆様どうか落ち着いてくださいますよう。すぐに着替えをお持ちしますので」
「――あ」
全員の声が重なった。
俺にも見えた。
全員が元の美女の姿に戻ったことを。
子供用のパジャマそのままなので、服がめちゃくちゃキツキツなことを。
そしてボタンが弾け飛び、胸がこぼれおちそうになっていることを。
そこから更に、最悪なタイミングで――彼女がやってきた。
「レインちゃ~ん。夜分遅くにごめんなさいね? お姉ちゃん、お仕事が終わったのでどうしてもレインちゃん成分を補給したくて来ちゃいました。うふふ、今なら
【聖女】マリーだ。
美しい黄色の長髪は、窓から入る月光の光をたっぷりと取り込み、きらきらと反射する。
「ま、マリー。怒る前に俺の話をよく聞いてくれ。これにはちゃんと事情が――」
「女人! 女人! 女人! ここは現世に顕現した邪悪な淫獄ですかそれ以外に考えられませんなんですかその淫らで変態的な格好は! 大の大人が童女の寝衣を纏ってレインちゃんを誘惑するなど恥を知りなさい! 貴女がたを少しでも信頼したわたくしが間違っておりましたこれは聖なる裁きの対象ですそこに直りなさいその罪を我が拳で浄化して差し上げます!」
凄まじい早口と共に、彼女の拳に魔力が集まる。
「まずい
俺は思わず叫んだ。
「ルート! 結界を!」
「間に合いませんッ……!」
「くっ、私の転移も今すぐには!」
エレノアとルートが会話しているが、すぐには対応できそうにない。
俺だけならば無事で済む方法はいくらでもあるが、みんなと魔王城を守る手段となると限られる。
かくなる上は――。
俺はベッドから飛び出し、勢いそのままにマリーに――抱きついた。
「聞いてくれ、
「~~~~ッ!?」
マリーの魔力が霧散する。
「淫獄から自力で脱出し、真実の愛に戻ってくるとは……さすがレインちゃんです! よしよしよしよ~し、ですよ!」
ぎゅうっと抱きしめられ、俺の頭はマリーの豊満な胸に半ば沈む。
その後、俺とフェリスの必死の説明により、魔王城破壊はなんとか食い止められた。
モナナは「次こそは完璧な薬を作るから!」と言っていたが、どうなることやら。
とにかくこうして、七人組が俺と一緒に寝るという計画は失敗に終わったのだった。
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