第28話◇唐突に水着回(上)
四人全員が倒れてから、数日後。
「ふぅ……今回の尋問も厳しいものだったな」
自室に戻った俺が呟くと、ミカが反応した。
『そうね』
同意というより、適当に流している感じだ。
「まさか、プリンにあんな沢山種類があるとはな……」
『驚きよね』
筆頭情報官ヴィヴィによる尋問も今日でもう数度目。
今回は『硬い・柔らかい』『弾力がある・ない』の組み合わせ合計四種のプリンを食した。
どれも美味だったが、ここから更に異なる味やトッピングも存在するというから驚きだ。
プリン、なんと奥深きスイーツか……。
ヴィヴィは今回も見事、どれが俺の口に合うかという情報を掴んでみせた。
答えは全部、である。
「なんだよ、確かにお前は飯が食えないけどさ」
『別に拗ねてるんじゃないわよ』
食事はこいつと共有出来ない感覚だ。
普段は何も言わないが実は気にしていたのか……とも思ったのだが。
『ただ……平和すぎて、ちょっと怖くない?』
「平和すぎ、か……」
ちなみに今は昼時。
チビ達は魔王の娘ミュリに混ざって、お勉強の時間。
ミカが七人組と呼ぶ『五年前に助けた七人』もそうだが、この国は孤児にも平等に学びの機会が与えられる。
あの七人はそれぞれ魔力に富んでいたし、チビ達は俺とエレノアが救出した者だから……という事情もあるだろうけど、街を見て回った限り不幸な子供が道端に倒れる……みたいなことは無いようなのだ。
『ここまで彼らの干渉がないってことは、やっぱり【軍神】の想定内なんじゃないの?』
一応、ヴィヴィにそのあたりも尋ねてみた。
彼女はなんといっても、俺が英雄たちと行動していた時の情報まで得ていたほど優秀な情報官。
あいつらが俺を連れ戻そうとする動きがあればすぐに掴めるよう、情報網を張り巡らせているのではと考えたのだ。
あんまり近づき過ぎると危ないので気をつけろとも言っておいた。
さて、得られた情報はこんな感じ。
【賢者】【剣聖】【軍神】、特に変わった様子なし。
【魔弾】、時折敵性魔族を捕らえては【勇者】について知らないか尋問。
【聖女】、毎晩枕を濡らしては「助けてあげなくちゃ……」などと意味不明な寝言を繰り返す。
「危ないとしたら、【聖女】だな」
『あいつの危なさは何をするか分からない部分でしょ。あれこれ策を弄するタイプじゃないから、仮に突っ込んできても勝てるわ』
勝つまでにどれだけ被害が出るかが恐ろしいわけだが。
彼女なら人類領からこの国までを一直線に走り抜け、道中のものは構わず破壊するなんてことも有り得る。
【聖女】としての力を、初めて戦闘に転用した女なのだ。
今はまだ俺がどこにいるか掴めていないので、動きようがないのだろう。
『あの根暗ねちねち眼鏡が何も考えてないとは思えないのよ』
「って言ってもなぁ……」
前も考えたが、俺を自由にして、この国でヒモ生活を送らせることがどんなメリットに繋がるのか、さっぱり分からん。
あいつのことだから、仮に逃げても人類そのものは見捨てられないだろう……というあたりまでは当然読み切っているだろうし、実際その通りなのだが。
俺に自我というか、あの生活への反発が生まれるより先に戦力として完成させてしまおうとあれこれ厳しくしていた……というのなら納得出来る気もする。
最終的に人類を見捨てられないよう仕上げられるなら、ゆっくり育てるよりもそちらの方が得だ。
早い段階から強い英雄が使えるのだし。
この考え方自体が、エレノア達には度し難いようだが。
「気になることがあるとすれば……」
『なに?』
「俺さ……」
『うん』
「最近、また更に強くなってないか?」
『え、今更?』
ミカが呆れたように言う。
「いや、聞いてくれよ。前に倒した邪竜親子がいるだろ?」
『あの時は焦ったわよね。倒したと思ったらそれは子竜で、空から邪竜が下りてきて』
「そうそう、あの時は全員掛かりでも大変だったろ? でもさ、あれも『王』って話じゃないか」
『フリップがそう言ってたわね。確かにあんたは最近「氷獄王」や「餓狼王」とかその他色んな魔族を消してるけど、苦戦は一回もないものね』
「邪竜親子を倒したのは何年も前だからいいんだ。大昔から生きてるみたいだし、他の『王』より強敵だったと思えばまだ納得出来る。けど、ここ最近……どんどん調子が良くなってる。前よりずっと早く成長してる気がする」
なんたら王と付くやつらの中にも強さの差はあるだろう。
上は神に近く、下は公に近いって感じに。
神、王、公、将とかいう順番で異名の強さ順らしいし。
何年か前までは、王の上の方を倒すには全員掛かりな上に命懸けだった。
だが今は多分、一人で対応出来てしまう。
ミカの言う通り今更ではあるのだが、紋章が人間の限界を取っ払ってくれるとはいえ、ここまで急激に強くなれるものだろうか。
『あんた自身がそう感じるなら、きっとそれは正しいわ。だとすると理由は何かしら? 前と変わったことと言えばヒモになったことと……』
「あいつら抜きで戦ってることだな」
『そう、ね……』
「いっこ、ミカに訊きたいことがあるんだが」
『えぇ、なに?』
「英雄でさ、先代より弱いやつって今までいたのか?」
ミカの返答までは、かなりの時間があった。
『どう比べるかにもよるし、代によっては英雄同士が協力してなかったりで完全な情報じゃないんだけど』
「それでいいよ」
『【聖女】は代を重ねるごとに治癒魔法で出来ることが増えていったし、【勇者】の総合力は今に近いほど高い傾向にあるわ』
【勇者】の力が一部聖剣に引き継がれるので、てっきり他の者達は無関係かと思ったが……。
もしかするとそれとは別に、全ての紋章は発現者の力を蓄え次代に継承するのかもしれない。
だとすると、俺の成長が早いのは歴代の【勇者】パワー的なものの力が大きい……のか。
うぅん、でも、強いやつを倒した時ほど成長が早い気がするんだよなぁ。
なにか分かりそうで、結局分からないというモヤモヤした状態がしばらく続く。
「まぁ、いいか。あいつらが来そうなら、その時考えよう」
【軍神】なら監視されていること込みで色々画策するだろうが、他のやつを動かすならそいつらの動きをヴィヴィ達が掴む。
『……そうね、気にしすぎてもね。そもそもあんたがこの国にいるなんてそうそうバレるわけないし、仮にバレたところで【賢者】と【聖女】しか来れないし、その二人にあんたが負けるわけもないし』
瘴気の中を突っ切って来れるのはその二人くらい。
なんだかミカの発言で嫌な予感がしたが、まぁ大丈夫だろう。
「それより、今日は何するかなぁ」
『特別やってみたかったことって、結構叶えたものね』
俺は過去を思い起こしながら、何かなかっただろうかと考える。
そして、一つ思い至ったものを口にした。
「海」
『海? そういえば水棲の魔族を討伐することはあっても、浜辺で遊んだり釣りしたりとか、一般人がやりそうなことはしたことないものね』
「そうそう」
「では我々がお連れしましょう……!」
部屋の中にエレノアが出現した。
空間転移してきたのだ。
発言からして話も聞いていたような感じなのが気になるが……。
「丁度いい島があるのです」
「島」
「えぇ、緊急時における要人の避難場所として、転移で向かう用に」
「あぁ、そういうの大事だよな」
王城とか貴族の家とかも、万が一のための隠し通路とか用意されてるし。
魔王城だとそれとは別に、エレノアのような空間属性持ちの強みを活かして、避難用の島を確保しているようだ。
『もう盗み聞きも突然の出現も驚かないわ、もちろん島もね……』
「そ、そこへ是非レインさまをお連れしたいなと思うのですが……!」
「あ、あぁ、ありがとう。どうせならみんなも誘うか」
エレノアは一瞬表情を歪めたが、すぐに頷いた。
「そうしましょう」
『仮に他のみんなを出し抜いても、レインの側にはあたしがいるけどね』
「何を仰っているのか分かりませんね」
『し、白々しい……!』
二人がなにやら言い合っているが、楽しみだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます