第10.5話 真面目なヤツほどターニングポイントが設置されています

私が見てしまったのは、夕日が差し込む裁縫部での出来事だった。本当に興味本意で見に行った裁縫部、まさかこんなことになってるなんて思わなかった。


「この勝負に勝ったら、東坂もパンツの持ち主探しに協力してくれるって言ってました」


この声は......、下木くん? パンツってどういうことなのかな......。

私は暫く耳を傾けていた。聞いていると、勉強を教えてくれ、と言う旨の会話が聞こえた。私は思わず笑う。


「勝負に乗ったのに、肝心な勉強ができないって」


バレないように、小さくクスクスと笑う。氷堂先輩は頭が良いと噂で聞いていたので、勿論協力するのだろうと思っていた。しかし、予想に反して氷堂先輩は協力してくれなかったのだ。声しか聞こえないので、どんな顔をしているか分からないが、どこか拗ねているような声色だった。そして暫くすると、中が騒がしくなった。


「スケベ! ハレンチ! 変態! もうこんな変態さんには勉強なんて教えてあげません!! お家で1人で保健体育の勉強でもしておきなさい!!」


流石の私も気になり、窓から少しだけ覗いてみた。すると、氷堂先輩がスカートを抑え、下木くんがペコペコしている様子が目に入った。何がどうなってこうなったのかは分からないが、私は概ね察した。すると力強くドアが開かれ、氷堂先輩が全速力で走っていった。「あっ」と私は声を漏らすが、氷堂先輩が気づく様子はなかった。そして、中から声が聞こえてくる。


「あぁ、勉強が......。誰か俺を救ってくれ......」


昔から困ってる人は放っておけない性格だった。だから、この時の私は直ぐに行動した。


「お困りのようだねっ!」


そう、パンツのことなんて忘れて―。


そして、言い出せずに数日が経った。しかし、私は覚悟を決めて、土曜日には聞き出そう。そう決めた。

パンツを持ってることにも、事情があるはず。話してくれれば、私はきっと助けるはず。時間は有限だ。今日が終わるとまた聞き出す機会がなくなってしまう。だから私は勇気をだして聞いた。


「優ってさ......、パンツ持ってたりする?」


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それからの記憶はあまりない。

気がつくと私はベッドの上で土下座のような体勢を取っていて、優からは「もう遅い時間になったから帰るね! 今日はありがとう!」というメッセージが届いていた。

私はゆっくりと体を起こして、階段を降りる。


「香織! 今起きたの? おにぎり作ったから食べておきなさい」


お母さんがリビングから叫ぶのが聞こえた。私は「はーい、ありがとう」と返事をして、洗面所に入る。

顔を洗って、意識を覚醒させると、様々な記憶が脳裏をよぎる。


「女児用パンツばんざーい!!」

「パンツ! パンツ! パンツ!」


「へっ!?」


これは本当に私!? 疑う余地もなく、どんどん記憶が蘇る。


「パンツは食べ物!」

「パンツは生きている!!」

「パンツは被るもの!!!」


思い出していく度に、顔が赤くなるのを感じた。鏡に映る私の顔は、やはり耳まで真っ赤に染っていた。

そもそもなんで私はこんなことに......?

必死に記憶を辿っていくと、ある点に結びついた。

下木くんのパンツの話だ!! 気がついたら私はパンツに洗脳されていてこんなのに......。下木くんはどう思ってたのかな......。引かれたかもしれないな......。私は「はぁ」とため息をつき、肩を落とした。

洗面所を出ておにぎりを食べるが、あまり食欲が湧かない。数十分かけて食べ終わると、私は歯を磨いてお風呂に入った。

お風呂はリラックスできるから好きだ。毎日至福の時間......のはずだが、今日は何故か落ち着かなかった。ずっと心の底で変な感情が渦巻いていて、気持ち悪い。これは何なのだろう......。


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お風呂をあがり、寝床につく。さっき起きたばかりなので、眠気はあまりない。寝転がって、少し考え事をしていた。この気持ち悪い気持ちの理由。これは......。



私はどれほどの時間考えていただろうか。考え続けていると、答えは見えてこなかったが、本能的に体が動いていた。私はズボンを脱いで、下着を露わにした状態になった。続けて、その下着さえも脱いだ。


そして―


何を思ったのか、私は被った。頭に雷が落ちたような衝撃を受けた。パンツ......やばい。

私はやめれなくなり、しばらくパンツを被っていた。しかし、暫くするとお尻が冷えてきたので、仕方なくパンツを履いた。

先程までのモヤモヤはもうなくなっていて、すっかり元通りになっていた。


そして、私は気付かされた。

私はとっくにパンツの虜だということに。

自分の現在履いていたパンツだけでは満足出来ずに、私はクローゼットを漁る。


「あったあった」


とりだしたのは、私が昔着用していたパンツだった。そう、女児用パンツだ。私は本能のままに被った。


「......!?!?!?」


なんだこれは!? さっきのとは全く違う衝撃!! これが女児用パンツ!?

私はもう戻れない。今までの優等生西条香織ではない。

今は、パンツ系優等生西条香織だ。


「んっ〜、パンツしゅきぃ......」



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