第85話 【元パーティー視点】
「ふぅん。それがあんたたちの手土産ってわけ」
薄暗い部屋の中央にある作業机から目線すら向けず女は静かにそう告げた。
その部屋は一言で表すなら研究室なのだが、その言葉だけでは片付けられない程に異様だった。
周囲には普通に生きていれば見ることすらないといえる劇薬をはじめとした無数の薬品類や、用途不明の魔道具が文字通りうごめいている。
そしてなにより異様なのは、広大な部屋の半分を埋め尽くす巨大な狐の死体だ。
部屋に入ってきた三人の冒険者たちはその光景と異臭、そして巨大な狐か、はたまたその女によるものか判断がつかない常軌を逸したプレッシャーに気圧されていた。
「うっ……あれって……」
「妖狐か……!? しかも九尾を超えた化け物がなんで……」
部屋を覆い尽くす骸からは慣れないものには耐え難い悪臭が放たれている。
部屋に入った途端、クエラは顔をしかめてまずそちらに目を向けた。
本題が逸れる前にと普段は寡黙なメイルが前に出て話し始めた。
「……久しぶり。ミレオロ」
「メイル。あたしはあんたに貸しが作れるのがこの上なく嬉しいョ。ねェ?」
先程まで部屋のど真ん中に座っていたはずの女が、気づけばメイルの肩を組むように真隣に接近していた。
「なっ?!」
フェイドは思わず剣に手をかけるが、それ以上は動かない。
いや、それ以上、動くことすらできなくなっていた。
「こんなので、勇者候補、ねぇ? ほんとに? ギルドは馬鹿なのかしらァ?」
ミレオロは静かに黙っていれば誰もが振り返る美貌の持ち主だ。
金髪碧眼の涼しげかつ気怠げな表情は男女問わず魅了する。
ただそれは、遠くから見ている時だけの話。
ミレオロの身長は人間の女の割には高い。猫背を正せば男の平均を超えるフェイドと並んでも見劣りしないほどだ。
そしてそれ以上に、冒険者であれば優に単体Sランクの条件を満たすだけの実力を持つ、その実力者特有のオーラが、近づく者全てに恐怖を煽る。
そのオーラは、単体でAランク、率いるパーティーをSランクまで高め、勇者候補とまで呼ばれるに至ったフェイドをして動きが止まるほどのものだった。
ここに来てフェイドは確信した。
自分ではまるで手に負えない妖狐をその手で殺し、ここまで運び込んできたのが紛れもなく目の前にいるミレオロであることを。
そして、入ったときから嫌というほど感じていたプレッシャーの正体もまた、この女一人だけによるものであったということを。
「くっ……」
震える身体を鎮めようと必死のフェイドを無視するように、メイルは魔法で浮かせていた手土産をミレオロのもとに差し出した。
「ミレオロ。これはデュラハンの首」
「デュラハン?!」
反応したのは声をかけられたミレオロではなく、クエラの方だった。
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