第68話
「精霊体の子に乗るのはなんか、新鮮ね」
「でも意外と乗り心地はいいな」
「そうね」
『キュルルルー』
ミルムがアールを撫でると気持ちよさそうに鳴く。
二人乗りのサイズとはいえミルムとは密着するほどの距離になる。俺が前になったので微妙にふにふにと柔らかい感触を背中に感じていた。
「本当にこれならあっという間ね」
特に気にする素振りのないミルムが言う。
その言葉通り、アールは凄まじいスピードでアレイドの街へ向かって飛んでいた。
「待って」
「うお!?」
ミルムが突然アールを止める。
あまりの急停止に驚くが、ミルムが慌てて止めた理由が分かり納得した。
「襲われてるな……」
「商人と、護衛と……どうする?」
「ミルムから見て助ける必要ありか?」
もちろんこのまま放置して死んだりすれば寝覚めが悪いので助けたいことは助けたい。
ただ商人がこんなところにいる時は、必ず誰かしら護衛を雇うはずだ。
その仕事を奪う必要があるかどうかについては、慎重に見極める必要があった。
「どう見てもあの護衛じゃ手に負えないわね」
言うが早いかミルムはアールのもとから飛び降りて現場へ向かっていた。
「場合によってはお前らに見えない状態でなんとかしてもらえばいいと思ってたけど……まあいいか」
頼れる相棒であるアールを撫でて俺もミルムを追いかける。
いつでもレイとエースが出られるよう、【宵闇の棺】を準備しながら。
「うぇっ!? なんで空から人が!?」
驚いた表情でこちらへ声をかけてきたのは冒険者たち7人。
向こうを見るとすでに負傷して戦線を離脱した者たちもいることから、2,3の合同パーティーだったんだろう。
身なりをみても質の悪いパーティーの寄せ集めじゃない。商隊の規模からいってもそれなりの人物だろうし、護衛のレベルから言えば、相手にしているのも相当なものだろう。
「一応聞くけど、助けは必要か?」
「助け……あ! ああ! 助けてくれ! 俺たちはBランクなんだ。まさかこんなところでゴブリンキングが出るなんて……」
「なるほど……」
上からだと何と戦っているのかわからなかったがゴブリンの軍と戦ってたのか。
そりゃ手が回らないだろう。
ゴブリンたちは最弱の魔物の一つだが、ゴブリンキングが出てくるとまるで話が変わる。
ゴブリンには上位種が複数存在する。単純に力を増したホブゴブリン、ハイゴブリン。剣士の技術を身に着けたソードゴブリン、魔術を身に着けたマジックゴブリンなど……。
ゴブリンキングは通常のゴブリンたちの力を引き上げ、上位種としたのち、それらを束ねて軍をつくるという性質を持つ。ゴブリンキング単体の強さでAランク。軍全体を見れば、Sランクパーティーが出てくるような災厄になるケースもしばしばある。
「ゴブリンたちの相手は俺たちがやる。そっちは当初の予定通り護衛相手をしっかり守ってくれ」
「いやいやっ! 相手はゴブリンキングの軍だぞ!? 一人でなんて……」
一人……?
ああ、ミルムは森に直接行ったのか……。
「俺はひとりじゃないから安心してくれ」
『キュウオオオオオオン』
『グモォオオオオオオオ』
二匹が【宵闇の棺】から解き放たれ、挨拶代わりに叫ぶと森へ飛び込んでいった。
「あんた……いやあなたはまさか……」
「嘘……こんなところで会えるなんて……」
「あなたにならお願いできます……! どうか! どうかゴブリンたちを!」
「任せてくれ」
どうやらレイとエースは割と有名になっていたようだ。
「じゃ、行くか」
『きゅー!』
「ドラゴンまで?!」
驚く冒険者たちを置き去りにするように、現れたアールに乗って森の中へ駆け込んでいった。
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