第43話 元パーティー視点
「いいか。もうこうなりゃ俺らは災厄級のモンスターでも倒さん限り終わりだと思え」
パーティーメンバーのこの点に対する考え方はそれぞれだ。
中でも危機感が最も強いのはロイグ。
自分でこのあとどうなるかがわかっている。だからこそ謹慎中という状況にもかかわらず必死に情報を集め、仲間を焚きつけ、今ようやく目前に災厄のタネを見つけたところだった。
「ん……」
メイルは正直、どちらでも良かった。
ただ自分の誘いを断ったランドに、多少思うところがあるという程度。
組織に戻れば天才ともてはやされた自分の居場所はまだある。いまだあそこの技術は実戦で磨かれた自分のそれには遠く及ばないのだ。
だが組織で毎日研究をするより自分にはこの実験を繰り返すことができる今の環境の方が少しだけいい。それだけだ。
「仕方ないか……」
ロイグの次に危機感があるのはフェイドだ。
いつの間にか、いやいつも通りだろうか……ランドに差をつけられていることが何よりもフェイドの心をかき乱していた。
「待ってください! まさか……まさか皆さんはわざわざこの災厄級の魔物を……」
クエラを悩ませるのは自身の立場によるものだった。
教会の誇る最高神官。奇跡の聖女と呼ばれるようになった自分の地位が、今の処分を受け入れがたいものにしている。
だが一方でランドの件を含め、彼女の中に良心はある。むしろこのパーティーで最も、いやいまや唯一良心を持つのが彼女だ。
だが常に付き纏う自身の立場ゆえ、時としてちぐはぐな行動に出る。
自分の評価を下げることは教会の評価を下げること。当然ながらこのままで良いとは思っていない。
だから、ロイグはそこにつけ込んだ。
「このまま仲間を見捨てた残忍で史上最低の聖女として名を残すのか? それともここで、災厄級、史上最大級のドラゴンゾンビを倒した英雄、名実ともに奇跡の聖女の地位を固めるのか。選ぶのはお前だ」
「それは……」
クエラの頭に浮かんだのは、教会で自分を育ててくれたシスターたちの顔。そして自分を慕う幼い孤児たちだった。
彼らが慕うのは聖女としての自分だ。
そしていま、自分は……。不甲斐ないことにまるで彼ら、彼女たちの期待に応えられていない。
ロイグの言う通り、ここで挽回しなければ事実上自分のアイデンティティは崩壊する。
そんな危機感が彼女に残った最後の良心を打ち消してしまった。
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