第288話 これからが本番

 突如現れた巨人に遠距離から光波を撃たれたアキラ達だったが、咄嗟とっさに防御したお陰で無傷で済んだ。


 しかし遠距離からアキラ達を一方的に攻撃出来る強力な敵が現れたことに違いは無い。

 加えてアキラはパメラの呪詛じゅそが頭に浮かんだのを切っ掛けに嫌な記憶を思い出していた。


「……シオリさん。

 ちょっと聞きたいんだけど、もしかして、あれ、ラティスってやつ……じゃ、ないよな?」


 シオリは思わず困惑した顔をアキラに向けはしたが、一応真面目に考えてからその疑問に答える。


「その場合、ラティスの死体が何らかの理由で巨大化したことになりますが、私にはその理由は見当も付きません。

 なぜそう思われたのですか?」


「確実に殺したって思ってたやつが生きてたり、人型のモンスターに襲われたり、巨人みたいなやつと戦ったり、普通の人間だと思ってた相手が途中で山ほど腕を生やしたり、そういう経験は多いんだ。

 ……あいつもその類いのやつかもなって思ってさ」


 異形達も、パメラの顔をした人型端末も、以前にクズスハラ街遺跡で戦った巨人も、無数の腕を生やしたティオルも緑色の血を流していた。

 その共通点にアキラは嫌なものを感じていた。


 しかし逃げる訳にもいかない。

 アキラは軽く息を吐いて意気を整えると、バイクにまたがり走り出す。

 そのまま拠点の屋上を飛び出して地上のキャンピングカーの中に飛び込むと、バイクの弾薬等を素早く補充し、再び屋上に戻った。

 そして屋上の端まで来ていたエレナ達に、空中から軽く笑って告げる。


「エレナさん。

 サラさん。

 あれ、敵みたいだし、取りえず、倒してきます。

 エレナさん達は適当に援護を……ってのも失礼か。

 良い感じで援護をお願いします。

 どうすれば良い感じになるのかなんて俺にも分かりませんけど、その辺は先輩として俺より長い経験から考えるってことでお願いします」


 そのアキラの口調は普段エレナ達に向けているものよりも軽いものだった。

 だが相手を頼っていると感じさせる口調でもあった。


 エレナが冗談交じりの苦笑を返す。


「分かったわ。

 でもまあ、私達もあんな巨人みたいなやつと戦った経験は無いんだけどね」


「そうなんですか?

 実は俺にはあるんです。

 今回が2度目ですよ」


 アキラはそう言って少し調子に乗ったように笑った。

 命の恩人だからと、山ほど借りがある相手だからと、だから迷惑は掛けられないと、その手の感情でエレナ達との間に無意識に作り上げていた壁を、そうやって乗り越えて見せた。

 エレナ達と、自分自身へ。


 そのアキラの様子を見たエレナ達は少し驚きながらも、アキラの意図を正しく理解した。

 二人そろって少し不敵に笑う。


「全く、アキラも言うようになったわね。

 ねえサラ?」


「ええ。

 随分生意気になったわ」


「そうですか?

 まあ、そこは俺も成長したってことで。

 じゃあ、行ってきます」


「精々頑張ってきなさい」


「泣き言は早めに言うのよ?

 ちゃんと助けてあげるからね」


 アキラはそうエレナ達と冗談交じりに笑い合った。

 その時間には、遠方から巨大な敵が迫っている一刻を争う状況で、地上から一度屋上に寄るだけの価値があった。


 その時を終えたアキラがバイクを勢い良く走らせる。

 補給を終えて万全の状態を取り戻したバイクが、その出力に物を言わせて空中を弾丸のように駆けていった。




 サラと一緒にアキラを笑って見送ったエレナが顔を引き締める。


「シオリさん達はどうするの?

 出来れば一緒にアキラを援護してほしいんだけど……」


「お手伝い致します」


「良いの?

 レイナが向こうにいるんでしょう?」


「お嬢様もあちらならば安全でしょう。

 問題御座いません」


 エレナはその返事を少し意外に思いながらも、助かるのは事実なのでそれで良しとした。


 シオリは本心を答えたが、細かな説明は省いた。

 トガミはレイナが防衛隊を動かすのに失敗したとしか教えておらず、向こうにクロエがいることも、レイナと一緒に本店の保護下、拘束下にいることも、エレナ達には話していない。

 それを話したことでアキラに伝わってしまい、アキラが本店の者を襲うのは不味まずいと判断したのだ。


 そしてシオリはその判断を肯定した。

 その上で本店が三区支店にも四区支店にも肩入れしていないのであれば、現在の戦闘をアキラの勝ちで終わらせることがレイナのためになると考えた。


「ただ、我々も万全な状態では御座いません。

 そこは御容赦を」


「足手まといになるつもりは無いっすけど、ちょーっと手強てごわい相手と戦った後で疲れてるっすよ。

 まあそういうことで、足引っ張ったらごめんっす」


 カナエは笑いながら軽い調子でそう言っていたが、痩せ我慢に近い状態であり、エレナ達にもその疲労の度合いを簡単に察せられるほどだった。


 サラがシオリ達を安心させるように微笑ほほえんでうなずく。


「分かったわ。

 私達は万全だから負担はこっちに押し付けて。

 じゃあエレナ。

 その辺を含めて指揮をお願いね」


 それを受けてエレナが苦笑する。


「……サラ。

 確かに指揮は私の仕事だけど、いきなり丸投げする?」


「それはあれよ。

 エレナの指揮を信頼している証拠よ」


「はいはい。

 じゃあ、始めましょうか」


 巨人の強さは未知数。

 ぱっと見で判断すれば、その大きさだけで脅威度は飛び抜けている。

 それでもエレナ達はいつものように笑い、いつも以上に気合いを入れてアキラの援護を開始した。




 拠点の屋上を飛び出したアキラは一直線に巨人を目指すのではなく、大きく弧を描くような移動経路を態々わざわざ取って進んでいた。


『アルファ。

 何でこんな大回りするんだ?』


『確認のためよ。

 さっき攻撃されたけれど、それが知覚と知識のどちらによるものなのか、早めに知っておく必要があるわ』


 理解の追い付いていないアキラにアルファが補足を加える。


 巨人に光波を撃たれたが闇雲に撃った結果だとは考えにくい。

 つまりあの場所に敵がいると分かった上で撃ったことになる。


 そして敵を知覚して撃ったのであれば、情報収集妨害煙幕ジャミングスモークの影響でただでさえ索敵が困難な状況下で、遠方にいる敵の存在を察知できる驚異的な探知能力を持っていることになる。


 逆にその索敵能力が無いのにもかかわらずに撃ったのであれば、巨人はそこに敵がいると知っていたことになる。

 情報収集妨害煙幕ジャミングスモークによる通信障害は続いているので、何らかの通信手段で知ったとは考えにくい。

 よってアキラ達がそこにいると知っている何かがいることになる。


『それでその場合、その何かとは具体的に何なのか、という話になるのだけれど……』


 アキラもそこで理解が追い付き、非常に嫌な顔を浮かべた。


『リオンズテイル社の連中、逃げたっていうラティスの死体、急にいなくなったモンスターの群れ、そのいずれか……、あるいは、全部か!』


『そういうことよ』


 巨人の口が再び光り始め、光波が放たれる。

 光の奔流が大気を焼き焦がしながら拡散し、威力を弱めながらも拠点の周囲をみ込んだ。

 それでも拠点は無事だ。

 だが何度もらえばいずれは粉砕される。


『向こうを狙ったということは、後者確定ね』


 大回りしたとはいえアキラは既に巨人にかなり近付いている。

 拠点にいるアキラを探知可能な相手ならば確実に捕捉される距離であり、高速で接近してくる相手を無視する確率は低い。

 つまり巨人はアキラを認識しておらず、拠点に敵がいると予想して撃っていることになる。


『……それなら、奇襲して一撃で倒すだけだ!

 アルファ!

 使うぞ!』


『了解よ。

 情報収集妨害煙幕ジャミングスモークも薄くなってきたから、今度はしっかりサポートできるわ。

 任せなさい』


 アキラがRL2複合銃を構える。

 対滅弾頭を装填した切り札だが、残弾も少ない上に1発1億オーラムであり、使わずに済むならそれに越したことは無い代物だ。

 それでもここが使い所だと躊躇ちゅうちょ無く使用を決めた。


 敵の位置は荒野側。

 都市側へ誤射する恐れは無い。

 あの巨人がパメラ側の切り札であるのならば、真面まともに使われる前に潰すと決めて狙いを定める。


 アルファのサポートによりアキラの拡張視界に巨人の姿が拡大して映し出される。

 拠点からでは輪郭ぐらいしか分からず人型をしていると判断するのが限界だった。

 だが距離を詰めて、情報収集妨害煙幕ジャミングスモークの影響も弱まったことで、その姿がはっきりと分かるようになった。


 その四肢は、まるで機体に生体部品も使用するサイボーグ内部の細胞が突如暴走するように増殖し、その圧力で表面装甲を内部から突き破って出てきたような肉塊で構成されていた。


 性能向上のために外見への配慮を完全に捨て去った。

 あるいは、それを見る者の戦意を根こそぎ奪うために嫌悪と不快感をえて増幅させる外観にした。

 もしくはその両方であることを容易に想像させる姿だった。


 アキラはその巨人の姿を見ても動じずに、目をらさず狙撃に集中する。

 そしてアルファの合図と共に絶妙なタイミングで発砲した。


 空中を弾丸のように駆けるバイクの上から、対滅弾頭が更に高速で撃ち出される。

 弾丸はその速度によって生じる分厚い大気の壁を一瞬で貫き、標的に狂い無く着弾した。


 巨大な多脚戦車を破壊した時は、標的が強力な都市侵攻用の兵器だと教えられた上に、激しい攻撃をくぐりながらの攻撃だった。

 それにより次の機会は無いと考えて1回で確実に破壊しようと、対滅弾頭を5発も使用した。


 またアキラが買った対滅弾頭は、対滅弾頭の中では比較的安く威力も低いものだった。

 だが5発も同時に使った上に、アルファの計算により非常に効果的な着弾点で爆発させたことにより、対象を消滅させるほどの破壊を生み出した。


 今回は1発だけなのでそこまでの破壊は起こらない。

 しかしそれでも着弾点近くの物体を消滅させ、周囲に広がった衝撃波が巨人の腰から上を吹き飛ばした。

 残りの部分も派手な音を立てて崩れ落ち、緑がかった血肉と機械の海に沈んだ。


 爆風が吹き荒れる中、アキラは難しい顔を浮かべていた。


『意外に楽勝だった……とは言いたくないな。

 1発1億オーラムだぞ?』


 倒しても金にならない相手に巨額の弾薬費を強いられている。

 アキラが思わず吐いため息も、その思いの分だけ強くなっていた。

 そしてアキラのその思い、め息は、勝ったという感情が勝利の歓喜よりも疲労を強く生み出した証拠でもあった。


 そこを覆される。


『アキラ。

 そもそもまだ勝っていないわ』


『……えっ?

 いや、倒しただろう?』


『あの個体はね。

 見て』


 少し慌てているアキラの前で、アルファは巨人がいた周辺の付近を指差した。

 その先に地面は見えない。

 一帯が緑色をした血肉の海に覆われていた。

 そしてその一部がまるで人が身を起こすように盛り上がり、人型となり、新たな巨人が立ち上がった。


 絶句するアキラの視線の先で、更に別の部分が盛り上がる。

 アキラが唖然あぜんとしている間に、更に巨人がもう一体、血肉の海から生み出された。


『どういうことだよ……』


『正しい保証は無いし、聞いたところで状況は変わらないけれど、私の推察で良ければ聞く?』


『……、聞く』


 アキラはろくでもない状況を聞いてうんざりするよりも、訳の分からない状況に振り回される混乱から脱することを選んだ。

 アルファが軽くうなずいて推測を話していく。


 地上の緑がかった血肉の海は、スラム街に突如出現した異形達の集合体だ。

 その異形達はパメラの顔をした人型端末が変質したもので、その変質には緑色の液体、回復薬のような何かが強く関わっている。


 旧世界製の回復薬には四肢の欠損すら瞬時に治す物もある。

 その効果は既に単純な治療、治癒の域を逸脱しており、欠損部位の復元や増築、再構成の領域だ。

 服用者本来の治癒能力を増強させて傷を治すのではなく、正常であるという状態を示す情報を回復薬が服用者から何らかの手段で読み取り、体をその設計通りに作り直すのだ。

 これにより服用者がたとえサイボーグであろうとも強引に生身に戻すことすらある。


 そしてその設計情報を改竄かいざんし、巨人の体躯たいくが正常であるとすれば、巨人を生み出すことも原理的には可能だ。

 またスラム街に出現した異形達はそこにあった様々な物を食べて自身の体積、材料を増やして集結した。

 山ほどの材料と回復薬の驚異的な効能がそろい、巨人が生まれたのだ。


『いや、アルファ、ちょっと待ってくれ。

 百歩譲ってそれで巨人みたいなモンスターが生まれるとしてもさ、あんなレーザー砲みたいなやつを撃てるもんなのか?

 設計通りに?

 回復薬の効果で?』


『確かにその機能を一から作るのは困難よ。

 でもそこは既にある物を取り込むことで対処したのでしょうね』


『もうある?

 あんなレーザー砲が?』


 そう言われたアキラの脳裏に、対滅弾頭を5発も使って倒した多脚戦車が浮かんだ。

 その残骸を取り込んだのであれば可能かとも思ったが、すぐに首を横に振る。


『いや、あの馬鹿デカい戦車はちりにしただろう。

 残骸が残ってるとか、そんなレベルじゃないはずだ』


『あれはね。

 でも予備の部品はあったのかもしれないわ』


 アルファが荒野を指差す。

 そこに展開していたリオンズテイル社の車両が無くなっていた。

 その上で補足する。


 巨人を3体も作るとなると流石さすがに膨大な量の回復薬が必要になる。

 異形達をき集めても無理だ。

 そもそも異形達も変質や交戦で体内の回復薬を消費しており、絶対に足りない。


 そこで追加を投入した。

 恐らくリオンズテイル社の車両には多脚戦車の部品に加えて大量の回復薬が積まれていた。

 そして車両ごと血肉の海に飛び込んで材料となった。

 また、それでも足りない分は周囲の情報収集妨害煙幕ジャミングスモークを吸ってエネルギーに変換することで補った。

 情報収集妨害煙幕ジャミングスモークの濃度が急激に下がっているのはそのためだ。


 それを聞いたアキラが困惑を強める。


『ちょっと待て……。

 あの煙幕は連中が自分達の攻撃の有効射程を縮める目的で使ったんだろう?

 誤って都市を攻撃したら都市まで敵に回るからだ。

 それを薄めたら……』


『その認識が、引っ掛けだったのかもしれないわね』


『えっ?』


 アルファが更に推察を続けていく。


 情報は戦況を左右する。

 その情報収集を妨害する煙幕を都市のそばで広範囲にわたって散布するなど、本来ならばその時点で都市への敵対だ。

 それを500億オーラムの賞金首を相手にする大規模な戦闘から都市をまもためだと認識させることでごまかしたのだ。


 有効射程の減衰は口実だ。

 異形達の存在、巨人を生み出す行程を都市から隠すことが本当の目的だった。

 そして、もう隠す必要は無くなった。


 アルファからその説明を聞いたアキラは、シオリから聞いたこと、第9格納庫は都市侵攻用という話を思い出して、更に顔を険しくした。


『今までの戦いは全部ただの準備で、その準備が整ったってことか?』


『推察よ。

 違うかもしれないわ。

 でもその場合は、これからが本番、ということなのでしょうね』


 予想通りろくでもない話だった。

 アキラはそう思ってめ息を吐く。


『アキラ。

 銃を持ち替えて。

 対滅弾頭は温存しておきましょう。

 あれを倒すだけなら威力が過剰だわ』


 アキラが銃を持ち替える。

 そして両手のRL2複合銃を巨人達へ向けた。

 その間にもバイクは巨人達との距離を詰めていく。


『中途半端な距離だと危ないから、体格差を生かして接近戦で行くわよ。

 バイクの運転は私に任せて、アキラはとにかく撃ちなさい』


『……、了解だ!』


 敵は健在。

 今、重要なのはそこだけだと、アキラは気合いを入れ直した。


 アキラに近い方の巨人がてのひらから巨大なブレードを生やし始める。

 それはまるで車両や戦車や人型兵器などを無理矢理やり圧縮して強引に引き伸ばしたような長い鉄塊だった。


 その鉄塊が輝き、融解して一体化し、より鋭利な形状のブレードへ変化する。

 更に輝きを増し、刀身を固定する力場装甲フォースフィールドアーマーから光が漏れ出し、巨大な光刃と化す。


 その光刃が、アキラに向けて振り下ろされた。


 その攻撃は巨人が余りに大きい所為せいで、遠方からはゆっくりとした動きにしか見えない。

 だが実際にはブレードの先端から衝撃波が生じる程に速い。

 その世界を切り裂くような一撃を、アキラはアルファによる絶妙な運転で回避した。


 単に大きく避けるのではなく、高層ビルを両断できそうな巨大な鉄塊が高速で振り下ろされるすぐそばを通り抜け、巨人との間合いを詰めにいく。

 ブレードから生じた衝撃波をバイクの力場装甲フォースフィールドアーマーで防ぎ、それでも余波だけで車体そのものが横にずれるのを、タイヤの力場装甲フォースフィールドアーマー発生装置から生み出した空中走行用の足場に強烈なブレーキ痕を残しながらも加速して相殺し、前進する。


 そしてブレードをくぐりながら巨人の胴体に着地すると、足場である巨人の表面をバイクの両輪で踏み締め、加速の勢いで高速回転するタイヤで引き裂きながら、縦横無尽に走り続ける。

 その上でもう一方の巨人に銃を向け、可能な限りの弾幕で銃撃した。


 対滅弾頭と比較すればささやかな威力しか無いが、それでもその弾幕の構成要素は並のモンスターなど一発で消し飛ばす弾丸だ。

 それらが驚異的な連射速度で撃ち出され、着弾地点の肉塊と鉄塊を粉砕し、飛び散らせ、巨人の表面を衝撃で波打たせる。


 だが被弾箇所から緑色の回復薬が吹き出して負傷を回復させていく。

 銃撃による大穴もその周囲が膨れ上がって埋まっていく。

 無傷にまで戻ったのかどうかは、元の状態が視覚的にひどすぎる所為せいでアキラには分からなかった。




 巨人が自身の表面を走り続けるアキラをたたき潰そうと巨大な手を振るう。

 アキラはバイクを加速させ、大きく方向転換して回避した。

 それでも豪腕をたたき付けられた表面は強く波打ち、その衝撃でバイクを吹き飛ばし引き剥がした。


 だが元々空中を走行可能なバイクだ。

 アキラはすぐに巨人の表面に復帰した。

 すると次は腕で胴体部を強く払うような攻撃が来る。


『アキラ。

 次は合わせて反撃するわ』


『了解だ』


 アキラがバイクに取り付けたブレード生成器に手を伸ばし、そこに刺さっている柄を抜く。

 引き抜かれるのと同時に大量の液体金属が噴出し、力場装甲フォースフィールドアーマー機能により刃が形成され、発光し、非常に長い光刃と化す。


 その光刃を巨人の腕へ、眼前に迫る巨大な肉塊と鉄塊で構成された壁へ振り下ろす。

 同時にバイクがTGPレーザー砲を最大出力で同一箇所に照射し、斬り払う。

 その連撃が巨大な腕を両断し、巨体から切り離した。


『おっ!

 ちゃんと斬れるな!

 それなら銃よりこっちの方が……、……!?』


 斬り落とされて落下していく腕の表面に内部から人型兵器の飛行装置のような機械が多数出現する。

 そしてそれらが一斉に起動した。

 推進力を得た腕が空を飛ぶ。

 更に指が砲口へ変化し、その照準をアキラに合わせた。


『破壊せずに中途半端に切り離すとああなるのか!

 無茶苦茶むちゃくちゃだな!』


『感心していないで迎撃よ』


『分かってる!』


 飛行する腕からの砲撃を巧みに避けながら、アキラがRL2複合銃を構える。

 その時、アキラの銃撃よりも早く、地上から撃たれた光弾が巨人の腕に直撃した。

 巨大な腕が無数の肉片と金属片を飛び散らせ、焼け焦げながら落下していく。


 予想外の事態に驚くアキラへ通信が届く。


『アキラ。

 聞こえたら返事して』


『エレナさん!?』


『おっ!

 つながった!

 アキラ!

 助けに来たわよ!』


 光弾を撃ったのはエレナ達だった。

 以前にも使用した大型可変銃、一度展開すると現場では元に戻せない巨大な武装による砲撃だ。


『この距離でもうつながるのね。

 この通信精度なら十分に連携できるわ』


 アルファを介した念話の形式で話しているが、通信自体はアキラの情報端末で行っている。

 情報収集妨害煙幕ジャミングスモークの濃度がそれだけ低下している証拠だ。

 アキラとエレナ達の情報収集機器が機能連係を開始し、全体の情報収集精度を引き上げていく。


『私達がしっかり援護するから、安心して戦いなさい』


 その力強い言葉に、アキラは自然と笑顔を浮かべた。


『ありがとうございます』


『それでアキラ、ちょっと聞きたいんだけど、私達が来るまでに何があったの?

 あの巨人、何で増えてるの?』


『……いや、俺にもよく分かりませんが、何か戦ってたら、増えました』


 正確な理由は自分にも分からない。

 アルファの推察を自分の考えとして話すのも不自然に思える。

 そう考えたアキラは苦笑をこぼしてそれだけ答えた。




 二体の巨人を無理矢理やり一人で相手にしていた所為せいで苦戦を強いられていたアキラだったが、エレナ達の支援を受けたことで優勢となった。


 エレナ達は高性能な移動砲台のように巨人達を攻撃している。

 その主砲役として光弾を撃つのはエレナとサラだ。


 二人が持つ巨大な銃は一度の砲撃で大容量のエネルギーパックを使い切り、そのエネルギーを光弾の威力に変えて撃ち放つ。

 力場により球形を維持していたエネルギーが着弾と同時に解放、爆発し、巨人の体躯たいくを大きく揺らしてその構成要素を飛び散らせた。


 巨人達も当然反撃する。

 エレナ達へ向けてブレードを振るい、口から光波を放つ。


 だがアキラがそれを妨害する。

 アルファの計算を基に巨人の顔や腕を集中的に的確に狙い、ブレードと光波の攻撃範囲をずらしてエレナ達の回避を手助けする。

 更にエレナ達と連携して早めに回避行動を取らせていた。


 エレナ達もブレードの方はそれで回避できる。

 だが広範囲に拡散する光波までは避けられない。

 しかし拡散した所為せいで威力の下がった光波であれば、同行しているシオリ達と合わせて力場障壁フォースフィールドシールドを展開すれば十分に防ぐことが出来た。


 巨人からの攻撃はそれで対処したが、エレナ達には他のモンスターも襲い掛かる。

 攻撃を受けて巨人から飛び散った肉片が変異したものや、緑がかった血肉の海から湧き出したものだ。

 それらが群れとなってエレナ達に迫る。

 エレナとサラが使用している大型銃はそれらの小物相手には不向きな装備であり、加えて小物といっても並のハンターでは勝ち目など無い強力な個体ばかりだ。

 エレナ達だけなら苦戦する


 しかしそれらはシオリ達がしっかりと撃退する。

 シオリが刀を振るい、カナエが拳を振るい、敵を両断、粉砕していく。

 多少強いといっても、パメラやラティスとは比較にならないほどに弱い。

 シオリ達の敵ではなかった。


 エレナ達もシオリ達も各自の仕事をしっかりとこなし、チーム全体の効率を高めていく。

 その上でエレナの指揮能力と情報収集能力、加えてこの状況でアキラとの通信を常に確立させる技術により、アキラ達は最大効率で戦っていた。


 そのお陰で、アキラ達は冗談のような体格差のある巨人2体に対して優勢を取り続けた。

 そしてアキラ達の猛攻を受け続け四肢を粉砕された巨人達が崩れ落ち、血肉の海に沈んだ。


『やったわ!』


 エレナが思わず歓喜の声を上げた。

 サラもこの大成果に得意げに笑い、シオリとカナエも表情を緩ませて息を吐いた。


 だがそこにアキラの険しい声が続く。


『エレナさん!

 気を抜かないでください!

 まだ終わってないかもしれません!』


『えっ?』


 軽い戸惑いを見せたエレナが情報収集機器の反応に気付いて顔を険しくする。

 血肉の海が再び盛り上がり、新たな巨人が生まれようとしていた。

 しかも今度は4体だ。


『アキラ……、どうなってるの?』


『俺が知りたいです……』


 アキラもエレナ達と一緒に半ば唖然あぜんとしていた。

 それでも巨人達が完全に立ち上がると、我に返って戦闘態勢を取り直す。

 そして意気を保つために、えて少し軽い調子で言う。


『エレナさん。

 もうしばらく先輩面を頼んでも良いですか?』


『当然よ。

 任せなさい』


 倍に増えた敵戦力を相手に、エレナとサラは一緒に不敵に笑った。


 そこに更なる状況の変化が加わる。

 アキラ達の後方から大量の小型ミサイルと銃弾が殺到し、巨人達に直撃した。

 驚くアキラ達の上をグートルが指揮する人型兵器の部隊が飛んでいく。


『都市の防衛隊……?

 連中は動かないんじゃ……』


 軽く困惑するアキラ達に広域汎用通信が入る。


『アキラ。

 無事ね。

 良かったわ』


『キャロル?』


『拠点の警備、頼まれたのに失敗してごめんなさい。

 かなり強いやつが襲ってきてね。

 拠点の方まで手が回らなかったの。

 でも代わりに都市の防衛隊を連れてきたわ。

 それで勘弁してちょうだい』


 スラム街を脱出したキャロルはレイナと同じように防衛隊に出撃を求めて、同様に断られていた。

 しかしその後の展開は異なっていた。


 キャロルは自身が旧領域接続者だと露見した場合に備えて高性能な装備を調達した。

 その際、その購入資金のために副業の矜持きょうじを曲げてハンター以外の者も客に取っていた。

 そしてその中には都市でかなりの地位を持つ職員も含まれていた。


 キャロルはその職員に連絡を取り、防衛隊の出撃を頼み込んだ。

 更にヴィオラに連絡を取り、脅してもらった。


 そのあめむちに屈した職員は、渋々ではあるがキャロルの要望をんだ。

 もっとも外部の人間の意向で防衛隊を出撃させるのは流石さすがに無理だ。

 しかしグートル達に偵察の指示を出すぐらいは可能だった。


 出撃できないことに苛立いらだっていたグートルはその指示に嬉々ききとして従い、部隊を率いてスラム街に突入した。

 そして情報収集妨害煙幕ジャミングスモークで隠されていた状況をじかに知った時点で、作戦を偵察から迎撃に切り替えたのだ。


 アキラが笑って答える。


『いや、キャロル、十分だ。

 助かった。

 ありがとう』


『どう致しまして。

 私も装備を整え直したらそっちに行くから、ちょっと待っててね』


『大変だったんだろ?

 無理はしないで良いぞ?』


『嫌よ。

 待ってなさい』


 その楽しげな声でキャロルの通信は切れた。


 そこでアルファが少し上機嫌のアキラの前に、割り込むように回って微笑ほほえむ。


『アルファ。

 どうした?』


『アキラ。

 戦力が増えて何よりね。

 うれしい?』


『ああ。

 当然だろ?』


 微妙に意味深な笑顔と言葉を向けてきたアルファに、アキラは全く気付かずに普通に笑って答えた。


『そう。

 それじゃあ、人に任せきりにしないで、私達も頑張りましょうか』


『よし!

 やろう!』


 既にグートル達は巨人達に徹底的な攻撃を加えている。

 気合いを入れ直したアキラもそこに加わり、苛烈に攻撃した。

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