第185話 制約外のモンスター

 クズスハラ街遺跡の奥部でティオルが食事を、構成素材の補給を続けている。

 その表情は苦悶くもんに満ちていた。


 機械系モンスターの残骸。

 生物系モンスターの死体。

 瓦礫がれきや破壊された車両。

 死んだハンター達やその装備品。

 ティオルはそれらを口にしていた。


 自意識がシステムの一部であった頃は全く気にしなかった。

 だが自我を取り戻し、人間寄りの思考を取り戻した今となっては、鋼も、肉も、残骸も、それが本来口にする物ではないと認識してしまう。

 腐った残飯をき込んだ方がはるかに楽に思える、並の拷問を軽く超える苦行だった。


 意識をシステム側に近付ければこの不快感も軽減される。

 だがその加減を誤れば自意識が再びシステム側に飲み込まれる。

 それを理解しているティオルはぎりぎりのさじ加減で意識のバランスを取りながら補給行動を続けていた。


 死肉をみ切るたびにその不快感に身を震わせる。

 機械部品を食い千切るたびにそれが可能な自身に嫌悪をにじませる。

 戦力増強のために必要な行為だと言い聞かせながら、目的達成のためにはむを得ないと誤魔化ごまかしながら、自身の境遇をのろい、自身をその境遇へ導いた全てに対する憎悪を募らせていく。


 ティオルの体がその憎悪に呼応するように変化していく。

 膨れあがった憎悪がシステムで定められた制約の一部を打ち破り、その身体を本来の制限を超えて巨大に強靭きょうじんに強力に凶悪に改造していく。


 憎悪が力への渇望を高めていく。

 無数の下位端末を派遣してもアキラ一人に蹴散らされた。

 ウェポンドッグ達と一緒に襲っても他のハンター達に殲滅せんめつされた。

 目的達成のために、そのアキラを、ハンター達を、打ち倒し蹴散らし蹂躙じゅうりんするだけの力を渇望する。

 その渇望を満たす力を得るのに必要な苦痛と苦難が、モンスターの死肉と残骸をあさってもまだ足りない現実が、憎悪を更に燃え上がらせる。


 ティオルの憎悪が生み出した影響は、半自律式の上位端末にも伝播でんぱしていた。

 同じように構成素材の補給を続けていた機体群も、システムの制限を超えて変貌していく。

 山のように存在していた素材が食い尽くされて全て消えた時、その機体群はそのそれぞれが巨大な異形へ変貌していた。

 大型人型兵器、重戦車、巨獣などを、生体部品と機械部品を狂った比率で組み合わせて強引に作成したような外観から機能美などというものは感じられない。

 そこには強力さと凶悪さだけが存在していた。


 まだ足りない。

 もっと多く。

 もっと大きく。

 もっと強く。

 その渇望に突き動かされるように巨大な異形達が動き出す。

 重装の人型兵器のような外観に成り果てたティオルも、駆動音を響かせてその場から動き出した。




 再び仮設基地に来たアキラが弾薬を補充していると、キバヤシから連絡があり食堂に呼び出された。


 キバヤシが残念そうな表情で話す内容をアキラは上機嫌で聞いていた。


「やっと終わりか」


うれしそうにしやがって。

 結局お前は最後までそんな態度だったな」


 アキラのハンターランク調整依頼は今日で終了。

 キバヤシにとっては残念な、アキラにとっては待望の知らせだった。


 アキラは先日の苦戦もあり、むしろそれを口実にして、更に高価な消耗品を値段も見ずにまとめて買いあさった。

 高価な小型ミサイルも、アンチ力場装甲フォースフィールドアーマー弾の大容量拡張弾倉も、仮設基地の保管場所に山のように積んでいた。


 膨れあがる消耗品代とアキラの成果。

 その費用対効果がキバヤシの調整能力をようやく超え始めたのだ。


流石さすがに消耗品代が高額になりすぎたんだ。

 あれだけ買われると前線に突っ込ませる前提でも今後の予算は通らねえよ」


 アキラはキバヤシの愚痴に似た苦情にも全く気にせずに笑っている。


「開き直って買いまくった甲斐かいがあったな」


「全く、折角せっかくのランク上げ依頼をそんな理由で切り上げさせるのはお前ぐらいだ。

 お前らしいと言えばお前らしいのか」


 キバヤシはどこか楽しそうにも見える苦笑をこぼした。


「最終日ぐらい派手に暴れてほしいってのが俺の本音だが、残念ながらそれも無理そうだな。

 お前は今日は基地周辺の警備を割り当てられている。

 まあ、その辺で適当にだらだらしていてくれ」


「そんなので良いのか?」


「今日からしばらく雨の予報が続いているからな。

 大規模な作戦行動の予定はないんだ。

 雨の日は色無しの霧などの影響が大きい。

 しばらくは拠点に籠もって警備の日々だろう。

 まあそれも、お前の依頼を打ち切る理由の一つだ」


 遺跡探索は晴れの日に。

 それが東部の常識だ。

 情報収集機器等の精度が著しく低下する上に有視界戦闘すら制限を受ける雨の日に、好き好んでモンスターと戦う者はいない。


 重要拠点を天候にかかわらず警備する人員は確保済みだ。

 勿論もちろん予算も事前に決められている。

 そして高ランクのハンターを警備に雇う場合、都市側も相応の額を支払わなければならない。

 既にハンターランクを大分上げたアキラを警備用に長期拘束する予算は残っていなかった。


「まあ、一日だらだらするのが嫌なのなら、別件の依頼として後方連絡線確保の最前線に参加するって手もある。

 やるか?」


「嫌だ」


「だろうな」


 キバヤシは予想通りの返事を聞いて、楽しげに残念そうに笑っていた。




 アキラが仮設基地の周辺、遺跡と荒野の境目辺りをバイクで進んでいる。

 その後ろには無人の小型トラックが続いていた。

 アルファはトラックの屋根付きの運転部の上に座っていた。


 トラックの荷台には仮設基地で保管していた弾薬類が大量に積まれていた。

 先日の戦闘でバイクに搭載できる弾薬量に強い懸念を抱き、弾薬運搬用と割り切って荒野仕様の小型トラックを購入したのだ。


 トラックは武装も索敵機器も積んでおらず装甲も大して厚くない。

 現在のアキラの装備には似つかわしくない性能だ。

 弾薬類をバイクで運ぶよりはまし。

 その程度の性能しかないその場しのぎの車だ。


 アキラがちらっとトラックを見る。


『今日で終わりなら急いで買う必要はなかったな。

 ちょっと勿体もったいなかったか』


『危険に備えて、その危険がなくなったから費用が無駄になったのなら、それは歓迎するべきよ』


『それもそうか。

 ……ん?』


 アキラが弱い雨粒に気付いて空を見上げた。

 そこには晴天を遮る分厚い雲がどこまでも続いていた。


『あー、降ってきたか』


 アルファが運転席の天井を落ちるように擦り抜けて助手席に座ると、運転席を指差してアキラを呼ぶ。


『こっちに移ったら?

 態々わざわざれ続ける必要もないわ』


『そうだな。

 ……ん!?』


 空を見上げていたアキラが怪訝けげんな顔で頭上の一点を注視する。

 分厚い雲の少し下を何かが飛んでいたのだ。


 アキラの情報収集機器が注視点を拡大表示する。

 そこには人型兵器のような何かと、それを宙りにしている航空輸送機のようなものが存在していた。


『飛んでる……。

 え、あれ、不味まずいんじゃないか?』


 東部で空を飛ぶと、上空の強力なモンスターを呼び寄せる恐れがあり非常に危険だ。

 アキラはそれを思い出して戸惑いながら飛行物体を見ていた。


 次の瞬間、仮設基地の地対空兵器車両から発射されていたミサイルが、アキラの視線の先を飛ぶ航空輸送機らしきものに命中した。

 輸送機が爆発し、宙りになっていた巨大な人型が落下していく。


 このままだと自分の近くに落ちてくる。

 アキラはそう理解すると、バイクを加速させて落下地点から慌てて離れた。


 自由落下を続けていた巨大な人型が地面付近で急ブレーキを掛けたように減速する。

 そして地面すれすれで一瞬滞空したように静止した後、その質量に見合った地響きを立てて着地した。


 その光景を驚きながら見ていたアキラにアルファが叫ぶ。


『アキラ!

 攻撃して!』


 バイクのA4WM自動擲弾銃から無数の小型ミサイルが発射される。

 アキラもSSB複合銃を巨大な人型に素早く向けると、引き金を引き続けて大量の銃弾を放った。


 人型がその両腕を、巨大な腕型の砲をアキラに向け、砲火を上げる体勢を取る。

 その直後、アキラのSSB複合銃から放たれた大量の強装弾が人型に着弾した。


 人型が着弾の衝撃で崩れた体勢のまま、両腕の砲から巨大な砲弾を轟音ごうおんを立てて発射する。

 照準を狂わされた砲弾の一方が遺跡の建物に着弾する。

 その衝撃は半壊状態の建物を瞬時に全壊へ変えた。

 もう一方は荒野側に飛んでいき、着弾地点に巨大な爆煙を発生させた。


 その間にもアキラが撃ち続けた大量の銃弾が人型の装甲に着弾し続ける。

 着弾地点から飛び散る火花が穴だらけになった装甲を照らす。

 飛び散って宙に舞った装甲の破片を後続の弾丸がはじき飛ばす。

 弾丸と装甲の破片が入り乱れて人型に浴びせられていく。


 人型が崩れた体勢で両腕の砲から砲撃を繰り返す。

 着弾の衝撃で狂った照準をアキラに合わせようともがきながら、遺跡に荒野に砲弾を放っていく。

 轟音ごうおんが一帯に繰り返し響き、立ち上る爆煙がその数を増やしていく。


 アキラがSSB複合銃を撃ち続ける中、先に放たれていた小型ミサイルの群れがようやく人型に着弾した。

 ミサイルが穴だらけになった装甲の隙間から潜り込んで内部で爆発する。

 人型が肉片と機械部品になって四散し、一帯に血液を思わせる体液を飛び散らせた。


 アキラがそれを見て表情を大きく変える。


『……生物!?

 人型兵器じゃないのか!?』


『人型ではあるけれど、暴食ワニに近い系統のモンスターのようね。

 重装強化服を着た巨人を想像すれば近いかもしれないわ』


『何でそんなものが空を飛んでるんだ!?』


 アキラが混乱、困惑している間に、上空から無数の爆発音が響く。

 反射的に上を見ると、無数の似たような飛行体と、それらを撃ち落とそうとしているミサイル群の光景が広がっていた。


 無数の輸送機型の飛行体は様々なものをり下げていた。

 先ほどアキラが倒した人型以外にも、獣や爬虫はちゅう類や昆虫の形状も確認できる。

 それらはどれも非常に大型で、頑丈そうな装甲や、砲や機銃のようなもので武装していた。


 ミサイルから逃れた飛行体はそのままクガマヤマ都市へ向かっていく。

 そして撃ち落とされた輸送機型から巨大なモンスターが次々に落下していた。


 アキラは周辺に降り注ぐそれらを見ながら非常に険しい表情で固まっていたが、貸出品の端末から派手に響く緊急通知音で我に返った。

 通知内容を確認したアキラの表情が更に険しくなる。


『帰投せずにできる限り応戦しろ、か』


『アキラ。

 応戦するにしても、まずは遺跡の中に移動よ。

 ここだと良い的だわ』


 荒野の上空で多くの輸送機型が撃ち落とされたが、られていた大型モンスター達は落下しても多くが無事だった。

 それらのモンスターは着地後に都市方面には向かわずに遺跡側に戻ろうとしていた。


 砲撃能力を持つモンスター達が仮設基地やその周辺に向けて銃撃や砲撃を開始している。

 仮設基地からは戦車や人型兵器が続々と出撃して応戦を始めていた。


 アキラがバイクを遺跡に向けて走らせる。


『……これ、下手に基地に戻らない方が安全か?』


『予備の弾薬もトラックに積んであるしね。

 アキラ。

 準備しておいて良かったわね?』


 アルファは少し楽しげに微笑ほほえんでいる。

 アキラはそれに嫌そうな顔を返した。

 そして少し離れた場所に着弾した砲弾が周辺の建物を崩壊させていくのを見て、表情をより一層嫌そうにゆがませる。


『……今日で最後だったのに。

 やっぱり俺は運が悪いんだな』


 アキラは愚痴を吐きながらバイクを勢いよく加速させた。




 仮設基地では激しい警報と対応する職員達の怒声が響いていた。


「飛行型の数、更に増殖中!」


「全力で撃ち落とせ!

 地対空兵器を全て起動させろ!

 人型兵器も対空武装に変更して出撃させろ!」


「輸送型から落下した大型モンスターが後方連絡線を襲撃!

 遺跡の奥からも多数のモンスターを確認!」


「大型に対処できない人員はまとめて防衛線に配置しろ!

 都市が派遣する増援部隊の到着まで保てば良い!

 予備の弾薬も全てぎ込め!

 高ランクのハンターに威力偵察を兼ねて大型を狩りに行かせろ!

 稼ぎ時だと教えてやれ!」


 職員達が険しい表情で事態への対処に追われている。

 その様子をヤナギサワとその部下が落ち着いた様子で見ていた。


 部下の男が少しいぶかしむような視線をヤナギサワに向ける。


「主任。

 また何かやったんですか?」


 ヤナギサワが意図的に意外そうな表情を浮かべた後に、笑って首を横に振った。


「俺は無関係だ。

 流石さすがに飛行型の襲撃を誘導するような伝はないよ」


「そうですか、と素直に信じられないのが主任なんですけどね」


「本当だって」


 ヤナギサワは余裕の笑みを保っている。

 部下はそれを見て、それが事実にしろうそにしろ、関与を認める発言は出ないと判断した。


「……主任の仕業じゃないとすると、本当の襲撃ですか。

 飛行型も混ざっていますし、実は結構危なかったりします?」


「いや、多分大丈夫だ。

 敵の規模や強さが中途半端な点が少々気になるが、仮設基地や都市が潰されるような事態にはならないよ」


 東部の上空は強力なモンスターの領域であり、東部での輸送を陸路に頼る理由の一つでもある。

 飛行型モンスターは基本的にそれほど強力な存在だ。


 敵にその飛行型が多数混ざっているにもかかわらず、ヤナギサワは大丈夫だと告げている。

 そのことに部下の男はヤナギサワの関与を再び疑っていぶかしむような視線を強めた。


 それに気付いたヤナギサワが笑って補足する。


「上空は強力なモンスターの領域だが、そのモンスターは大抵旧世界時代の防衛兵器やその末裔まつえいだ。

 要するに上空はその防衛システムの管理領域ってことだ。

 そのシステムが本気でクガマヤマ都市を潰しに動いたのなら、この程度の生ぬるい戦力にはならない。

 つまり、今回の襲撃はその防衛システムとは無関係だ。

 だから飛行型の戦力はそんなに高くない。

 まあ高くないと言っても、上空の基準での話だがな。

 それでも都市の防衛隊で十分迎撃できる程度だよ」


「しかし飛行体は遺跡の奥から来ているようです。

 つまり防衛システムから飛行許可を得ていることになります」


「いや、あれは多分システムからの許可や制約を無視して勝手に飛んでいるだろう。

 変異を繰り返して別種になるようなモンスターは、それが生物系でも機械系でも、大抵は旧世界製のナノマシンの機能で飛行を実現している。

 その形状で空を飛ぶのはどう考えてもおかしいってやつでも空を飛んでいるのはそのためだ。

 だが大抵はそのナノマシンにシステムの制約が埋め込まれている。

 勝手に飛ぶなってな。

 だから飛行型には変異できない。

 しかしまれにその制約から何らかの理由で逃れる個体もいるんだ」


「今回の飛行体はその例外だと?」


「多分な。

 まあ、大抵はその制約から逃れた時点で他のモンスターからも敵と見做みなされてすぐに死ぬ。

 それをける強力な個体に成長しても、防衛システムに危険視されて駆除される」


 そこでヤナギサワが少し不思議そうな表情を浮かべる。


「……だから普通はあんな中途半端な規模や強さにはならないんだがな。

 そこがちょっと気になるところだが、まあ、都市の脅威にはならないことに違いはない」


 部下の男はかなり驚いていた。

 ヤナギサワの話は東部の一般的な知識から大分逸脱していたからだ。


「……それで、主任はその知識をどこから得たんですか?」


 ヤナギサワが楽しげに意味ありげに笑う。


「内緒だ」


 部下の男がめ息を吐く。


「……分かりました。

 それで、俺達はどうします?」


「そうだな。

 各自の判断で仮設基地と後方連絡線の防衛に当たってくれ。

 後方連絡線の防衛線は上空からの襲撃に対応していない。

 適当に援護してやれ」


「その指示内容ですと、あいつがあの機体を勝手に動かす気がしますが、あいつは待機にしておきますか?」


「ん?

 いや、好きにさせてやれ。

 あの機体が遺跡の奥部でも通用するか近いうちに確認する予定だったんだ。

 ちょうど良い機会だ。

 大型モンスターを狩らせてその確認にしよう」


「了解しました」


 男は一礼してからその場を立ち去った。


 ヤナギサワが少しだけ表情を真面目なものに変える。


(……連中の仕業ではないはずだ。

 連中は自身の制約を解除できないはず。

 可能だとしても極めて困難で限定的なもののはずだ。

 飛行型を勝手に飛ばすなんてできないはずだ。

 それが可能なほどに制約から抜け出したのなら、仮設基地もクガマヤマ都市も既に壊滅している。

 ……時間はまだまだ残っているはずだ)


 強力な権限を持つ管理人格ほど強力な制約に縛られている。

 管理するものが広大で強力で重要なほどに、制約も多く細かく強くなる。

 ヤナギサワはそれをよく知っていた。


 ヤナギサワは湧き出た懸念を否定すると、表情を普段の笑顔に戻した。




 崩れかけたビルの側面をアキラがバイクで駆けている。

 その後を追うように大量の弾丸がビルの側面に着弾し続けている。


 アキラを襲っているのはウェポンドッグの亜種のような大型モンスターだ。

 6本脚の巨大な犬の背中から人型兵器の上半身が生えている。

 その上半身に頭部はなく、代わりに巨大な多砲身機関砲が生えている。

 両腕も同様だ。

 それらの砲身を勢い良く回転させて、大量の銃弾を放っていた。


 無数の巨大な銃弾を浴び続けたビルが穴だらけになり倒壊を始めている。

 アキラはそのビルの側面を駆け上がって敵の銃の可動域から逃れると、バイクを急旋回させながらSSB複合銃を構えた。


 SSB複合銃から無数の銃弾が敵に降り注ぐ。

 近距離から放たれた銃弾が敵の人型兵器部分を着弾の衝撃で破壊しながら押し潰し、更に獣の部分から千切り飛ばした。

 獣の部分も鮮血をき散らしながら肉片手前の状態に成り果てた。


 バイクが倒壊を始めたビルの瓦礫がれきより早く地面に到達する。

 そのまま急加速してその場から離れ、降り注ぐ瓦礫がれきの雨から逃れた。


 敵を倒してもアキラの表情は険しいままだ。


『これで5体目だ!

 多い!

 強い!

 クズスハラ街遺跡の外周部にいて良いモンスターじゃないだろう!』


 少し離れた場所から爆発音が響く。

 別の場所にいた大型モンスターに、バイクのA4WM自動擲弾銃から発射されていた大量の小型ミサイルが一斉に着弾したのだ。

 爆炎と瓦礫がれきと肉片と機械の残骸が混ざって一帯に飛び散った。


『これで6体目よ。

 アキラ。

 大分消費したから補給して』


『了解!』


 予備の弾薬を積んだ小型トラックはアルファの運転でモンスターから逃げ続けている。

 アキラは敵にトラックを破壊されないように敵を倒し続けていた。


 アキラはビルの谷間に隠れていたトラックに急行する。

 そして荷台の手前で急停止すると、急いで荷台から小型ミサイルの大型弾倉を取り出して装填作業に入った。


 その作業の途中でアキラが駆け出す。

 途中でSSB複合銃の弾倉を交換しながらビルの谷間から出ると、SSB複合銃を素早く構えて引き金を引いた。


 銃口からアンチ力場装甲フォースフィールドアーマー弾と徹甲榴弾りゅうだんが交互に撃ち出される。

 そして高速で宙を飛び、射線の先にいる大型の蜘蛛くも型機械系モンスターに着弾した。


 そのモンスターの頭部は人型の上半身になっていた。

 アンチ力場装甲フォースフィールドアーマー弾がその人型の胴体部分に大穴を開け、更に虫部分の装甲にも穴を開ける。

 そして徹甲榴弾りゅうだんがその穴を通って虫型の胴体に着弾し、内部にり込んでから爆発した。


 その後も銃弾が連続して放たれる。

 先のアンチ力場装甲フォースフィールドアーマー弾が後続の徹甲榴弾りゅうだんの通り道を開け、爆発の威力を高めていく。

 大型の蜘蛛くもは数秒でその原形の大半を失いながら四散した。


 アキラが急いでトラックへ引き返す。


『7体目!

 忙しいな!

 アルファ!

 あの蜘蛛くも、急いで先に倒す必要あったか!?』


『前のようにミサイルを大量に発射されたら困るでしょう?

 その予防よ。

 あの個体にはミサイルを発射する機能はなかったけれど、それを確認する時間があったら倒した方が早いわ。

 そんなことより補給を急いで。

 8体目が近いわ』


『分かったよ!』


 トラックに戻ったアキラは補給作業を急いで終わらせた。

 そして休む暇もなく再びバイクに乗り、8体目の迎撃位置に向かった。


 廃ビルの谷間、瓦礫がれきで埋まった悪路をバイクで器用に駆け抜けると、谷間の先に大型モンスターの姿が現れる。

 アキラは一度バイクから降りて瓦礫がれきの影に身を隠すと、SSB複合銃の弾倉を長距離狙撃用の徹甲弾に変更して目標に照準を定める。

 そして照準器越しの敵の姿を見て、怪訝けげんそうに顔をゆがめた。


 モンスターは大型の多脚戦車に似た形状をしている。

 だがその脚は多脚戦車用のものではなく、義体者の四肢に近い。

 金属で構成されたももふくはぎの形状や、手足の指まで確認できる。

 それらの多脚で、胴体部とは不釣合いなほどに大口径の大砲を生やした巨大な車体を支えていた。


『……また微妙に部分的に人型って言うか、パーツがそれっぽいな。

 さっきの蜘蛛くもにも人っぽい形状の部分があったし、変な共通点があるな』


『気にせずに倒しましょう。

 一部が人型だからって、撃ちにくい訳ではないでしょう?』


『まあな』


 気を取り直して狙いを定め、引き金を引こうとしたアキラの指が止まる。

 既に降っていた雨の勢いが急に強くなったのだ。

 遠景が大雨に飲まれて鮮明さを急激に失う。

 雨粒が敵の姿を覆い隠していく。


『……この雨って、色無しの霧に似た効果もあるんだよな。

 アルファの索敵を考えれば、有利になったって考えて良いのか?』


『索敵に限れば少しはね。

 でも銃撃時の距離による威力減衰も大きくなったわ。

 有効射程がお互いに縮まって近距離戦を強いられることを加味すれば、状況は悪化したとも言えるわ』


 アルファのサポートのおかげでこの大雨の中でも敵の姿を視認はできている。

 アキラは険しい表情で引き金を引いた。


 徹甲弾が雨粒をはじきながら高速で宙を飛ぶ。

 弾丸にはじき飛ばされた衝撃で四散した雨粒が空中に弾道の線を描く。

 その線を描く弾丸がモンスターの装甲を貫いて内部に到達した。


 被弾したモンスターが即座に反撃に移る。

 巨大な砲塔を勢い良く回転させて大口径の砲口をアキラの方に向けると、敵がいる可能性が高い場所へ荒い照準で砲撃した。


 大口径に見合った巨大な砲弾が高速で豪雨を突き破り衝撃波で雨粒を吹き飛ばす。

 降り注ぐ雨の壁を貫通して巨大な弾道の大穴を開けながら直進し、アキラから少し離れた場所の廃ビルに着弾した。

 砲弾の爆発がビルを倒壊させていく。


 アキラはその威力に顔をゆがませながらも、色無しの霧を含んだ大雨の影響で敵の照準精度はかなり悪いと判断してそのまま銃撃を続行する。

 徹甲弾がモンスターに次々と着弾して装甲に穴を開け続ける。


 モンスターが被弾のたびに僅かに蹌踉よろけ、体勢を崩しながらも次の砲弾を放つ。

 多少命中精度が悪くとも、周囲ごと吹き飛ばして敵を死傷させる威力の砲撃は十分な脅威だ。

 倒壊したビルの瓦礫がれきが上空に吹き飛ばされ、アキラの頭上に落ちてくる。

 アキラはアルファに瓦礫がれきの落下地点を教えてもらい、降り注ぐ瓦礫がれきかわしながら銃撃を繰り返した。


 命中精度、威力、土砂降りの空中に穿うがつ穴の大きさに大幅な差がある撃ち合いがしばらく続いた後、急にモンスター側の砲撃が止まった。


 あれほど巨大な砲弾を何度も撃ったのだ。

 弾切れにもなるだろう。

 そう考えたアキラが好機だと判断して攻勢を強めようとした途端、モンスターの姿に変化が起こった。

 多脚戦車用の胴体に相当する部分が横から大きく裂けたのだ。

 その裂け目のふちには歯のような突起が生えていた。


 モンスターが多脚で車体全体を大きく動かして、その大口で近くの瓦礫がれきかじり付く。

 そして瓦礫がれきを食い千切って口を閉じ、咀嚼そしゃくするように胴体部分を震わせた後、砲撃を再開した。


 アキラが驚きながら表情を険しくする。


『……瓦礫がれきを食って砲弾を補充したのか!

 無茶苦茶むちゃくちゃにも程があるだろう!』


『弾切れは期待できそうにないわね。

 アキラ。

 一度引いて。

 別方向から距離を詰めて攻撃よ』


 少し離れた場所で退避していたバイクがアルファの運転で近付いてくる。

 アキラがバイクに飛び乗ってその場から離脱する。

 その直後、砲撃を受けたビルから落下した瓦礫がれきが場に降り注いだ。


 アキラの姿を見失ったモンスターは、何かを迷っているかのように砲身を仮設基地の方向とアキラの方向へ彷徨さまよわせた後、アキラを追うように移動し始めた。

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