目的

爽やかな朝の食卓に添えられたのは、モゥモの肉で出来たジャーキーとプレグのジャムと、それぞれ一切れづつの厚切り焦しチーズだった。


SWEにおいてプレグは、最もポピュラーな果実の一つと言っても過言ではない。


いつもより大勢で囲む賑やかな朝食は、一日のスタートを飾るには相応しい物だった。


「セイムーどしたの?元気ないね?低血圧?」


「いえ、何でもありません、朝食が終わったら昨日話した場所に案内します」


クウコが、カゼハのリュックから1ℓほどのミルクの瓶を取り出してコップに注いでセイムに手渡した。


セイムは、それを受け取ると堅焼きパンと共にゆっくりと嚥下した。


昨日のサイフォンもそうだが、あのリュックは特殊な代物で、限られた重さと大きさの物体であればいくらでも収納できるのだと言う。


カゼハは、そのリュックに『クラスレジェンダリーエンシェントインフィニティチェストバック風(かぜ)』という大げさな名前を付けていた。


「このパン。とっても美味しいね」


「ふふ、それは良かった。そう言っていただけると作り甲斐もありますわ。この干し肉とチーズもとてもおいしいですよ?」


「よかった。たくさんあるから。もっと食べてね」


食後、セイムとジゼルの二人は、双子が探し人の元に行く。と、宣言するのを朽ち木に座って待っていた。


朝食の後は普段からこうしてのんびりとして、たまに湖の魚が跳ねたり虫や鳥が水を舐めに来るのを眺めている。


その愛すべき光景がこの日に限っては、慌ただしい物だった。


双子は、よく動く。


その様子は破壊とも言えたかもしれない。


セイムとジゼルは、交差点の車を眺めているかのようにそれを見ていた。


それが過ぎ去ったとき、双子から二人に手渡されたものは、木彫りのマグカップとプレグのジャムと揺すり草のテーブルクロスだった。


「セイムのが一回り大きい方だからね!ジゼルは手ちっちゃいからこっち!」


「あ・・!ありがとうございます・・」


「すごい、こんなに上手に・・・・。大切に使います」


削りたてのマグカップは、新しい木の断面の香りがした。


「あたしね、『器用さ』が高いんだって!」


「クウコ・・そろそろミズキ探し行く?」


「その前に、お茶飲んでこー!」


「うん・・!」


風呂の隣に新設された石で組まれた物体は、窯だった。


双子は、手際よくそこで火を起こすとあっというまにチーズを練り込んだスコーンを焼き上げた。


「できたー」「・・・・すこーん、だいすき」


仕上にかけられたハーブソルトからは、涼し気な香りがした。


昨夜の魚にもかけられたこの、どこか覚えのある香りをセイムは引き続き思い出すことが出来ずにいた。


結局、件の人物を探しに出発したのは、それから、お揃いの新しいお皿を加えて贈られた後だった。

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