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 ああ、とレキも頷く。


「あの戦いで王国軍が勝利したのもノワールさんがいたからです。あなたがいなかったら王制は廃止、ロディオスは壊滅していました」


「だよな。アニキがあのバッッカみてーな大軍の中に突っ込んでって直接向こうの指揮を崩すなんてバッッカすげぇことをやってのけたからこそ、結果的にこっちは奴らを叩けたんだぜ? 一歩間違ってたら死んでたってのに反逆者だとかふざけんなっつーんだよ」


「……おまえやっぱ俺のこと馬鹿にしてるだろ」


「いやいやしてねーっスよ!? 最上級の尊敬しかないですって!」


 慌てふためくフォルテは、尊敬してるというわりに自分がその尊敬する相手に失礼なことを言っているという自覚がないようだ。


(全くどうしようもないヤツめ)


 ――しかし。

 僅かにノワールの顔が綻ぶ。二人が当時のことをまるで自分のことのように腹を立ててくれていることが素直に嬉しかった。

 他人にどう思われているかなど、考えてる余裕はなかった。人の考えなど読心術でも使えない限り自分にわかるはずもなく、最終的に反逆者という言葉の方を信じるというのなら、それでもいいとさえ思うほど全てにおいて自棄になっていた。だが実際こうして彼らが今でも自分のことを信用してくれていたのだと目の当たりにして、安堵する自分がいる。

 やはり直属の部下の信用まで失われていたら少しは落胆したことだろう。そう思うと、自然と沸き上がってくる喜びを隠すことができなかった。


「でもまあ、ようやくその報いがきてるって感じだよな」


 意地の悪い笑みとともに放たれた言葉に耳を澄ませるとフォルテは「ロディオス」と告げる。


「陛下も死んじまって弟君が新たな王様になったけど大した噂は聞かねーしロディオスは今じゃ四大大国最弱って言われてるくらいだしな。この平和ボケしたオルタナより格下扱いされてるんだから、相当堕ちたって」


 祖国を思えば決して喜ばしいことではないが、それだけ愚かな選択をしたのだから仕方ないとフォルテは言い切る。


「フォルテ、口に気をつけろ」


 と、レキが口を挟む。彼はフォルテがノワールとの再会の喜びでいつにも増して饒舌じょうぜつになっているのは良しとしても、オルタナ領内でオルタナを侮辱するような発言は避けた方がいいと言いたかったのだが。


「んだよレキ。こんな話ここじゃ誰も気にしてないって」


「ここに来る客の大半が権力者だ」


 特に国境近辺であるミレドリッチにはあちこちからお偉い方が足を運ぶ。それはフォルテも承知してるのはずなのだが、ヘラヘラしている様を見るに本当に平気だと思っているのが恐ろしい。


「あのロディオスが四大大国最弱、か」


 ノワールは反芻するように呟く。するとフォルテは知らなかったのかと尋ねた。

 現在のロディオスが衰退しているというのはリアの話で知っていたが、まさか本当に自分がいた頃とは真逆の評価を受けているというのは本気にしていなかった。だが彼らまでそう言うということは、リアの話は全て事実。つまりロディオスが四大大国の名を保てなくなるというのも決して飛躍した話ではないのだろう。


「結局ジョーカーあってこその最強国だったってことですよ!」


「フォルテ」


「だーからだーいじょーぶだって!」


 レキの二度目の忠告もフォルテは右から左に聞き流す。

 ここまで大丈夫だと言い切るのは恐らく今この娼館に話を聞かれて困る客はいないと把握しているからなのかもしれない。が、陽気に笑うフォルテにノワールは心の中で甘いと首を横に振る。

 いくら内輪話とはいえ、一度は国に忠誠を誓った騎士がこんなことを言っていると知れたらただでは済まされない。それにここまでコケにすれば充分不敬罪に値する。

 おまけに彼らは知らないだろうが、この場にはこの手の話を一番耳に入れてはいけない人物が同席してる。

 どうしたものかと様子を窺うように視線を向ける。だがノワールの心配は杞憂に終わった。意外にもリアは平静とした様子で食事に手をつけていたのだ。

 あれだけ祖国を馬鹿にする人間を前にしても顔色一つ変えていない。それはもう見事な無表情だ。てっきりロディオスのために動いてると思っていたが、実はそれほど愛国心を持ってるわけでもないのだろうか。


(いや、そんなわけないか)


 一瞬そんな考えが頭を過ったが秒で撤回する。

 彼女は生死不明のジョーカーを見つけ出そうと単身で無理難題を遂行するほどにシルフィードに心酔しているのだ。そんな人間がここまで貶されて腹を立てないはずがない。

 もしリアが密かにフォルテを罰しようと考えていたとしたら自分が庇ってやらなければ。

 黙っていられることが逆に恐ろしく、ひんやりとした冷気に背筋を撫でられているような気配を感じてノワールは渋い顔をする。と、不意に自分に向けられている熱視線に気づき目線を下ろせば、いつからそうしていたのだろうエルが何やら難しい顔をしてこちらを見上げていた。


「どうした」


「ノアさん。あの人ってだれなんですか?」

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