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「アニキはロディオスじゃ最早伝説なんスよ!」


「え、何それかっこいいじゃん」


「大悪党の方に決まってんでしょーが!!」


「ああそっちね」


 素知らぬ様子で呟くとフォルテは歯痒さをぶつけるようにテーブルを力任せに叩きつけた。


「今やロディオスの全国民がアニキのことを国を裏切った反逆者だって思ってんスよ! しかもそう仕向けたのは先の王様! なのに会いにいく!? ロディオスに!? そんなことしたらぶっ殺されちまいますよ!?」


「あーなんかそれ不問になったみたいよ」


「「不問!?」」


 またもや二人の声が被る。すると二人は事の詳細を問い詰めるようにリアへと視線を移す。ノワールの発言から、それを伝えたのが彼女しかいないと判断したからだ。

 しかしリアに事情を話す気はなく、二人の威圧的な視線を浴びても困ったように笑みを浮かべるだけで答えようとしない。


「信じるんですか?」


 レキがフォルテよりは冷静な声で問いかけてくるが、目が殺気立っている。

 昔の彼らはこんなにも暑苦しい奴らだったかと自らの記憶を掘り起こしてみるが、覚えているのはまだ若さが有り余った二人の可愛らしい姿だけ。


「信じる……つーか、根負け?」


 そう言うとノワールは心情を吐露した。


「だってこいつ七年も行方眩ましたヤツの居場所をたった一人で探し当てたんだぜ? 王宮の誰がお呼びか知らねーけど、そいつの命令を受けて、生きてるか死んでるかもわからない男を見つけるためにたった一人で俺のとこまでたどり着いた。今まで誰一人として見つけられたヤツはいなかったのに、だ。まあ見つかってやるつもりもなかったから探せなくても無理はないんだけどな」


 ――だが、彼女は見つけた。


「けどこいつは俺を見つけた。しかも、俺もこいつもお互いの顔なんて全く知らねーのによ? 会ったことも話したこともない人間が何の手がかりもない状態で見事ジョーカーを見つけ出した。ご褒美でもやんないと可哀想だろ」


 怖いもの見たさ、根負け、同情、ご褒美。

 それら全てが理由ではないがそう思ったのは事実だから決して嘘は言ってない。

 二人には誰の命令かわからないと告げたが、さっきの話からリアが誰の命令で動いているのかは予想がついた。だが事細かに話せば更に話が拗れると思い、ノワールは都合よく言葉を縫い合わせて話す。

 するとそれを聞いたフォルテは考えさせられるところがあったのか、それまでの勢いが静かに降下していく。それでもまだ諦めきれないようにノワールを見て。


「いやいや待ってアニキ。ちゃんと冷静になって考えましょ。ね? この人からきちんと話聞いたんスか?」


「おい」


 “嫁”が“王妃”になり、“リンシア様”、“リアさん”と続いた果ての“この人”呼ばわりだがフォルテは呼び名などどうでもいいといった様子で不安そうにノワールを見つめる。


「だってやっぱりおかしいって。アニキは知らないだろうけどマジでとんでもないことになったんスから。昔のことだって思ってんならあめぇッスよ」


「ある程度は聞いてる。心配すんな。何も死にに行くわけじゃない」


「アニキ……」


 食い気味に詰め寄ってくるフォルテと視線を交えるが、あまりにもまっすぐ過ぎる瞳と見つめ合うことに堪えきれず、ぐしゃりと髪を撫でれば向こうから離れていった。

 シルフィードのことは最高機密事項。たとえ昔の仲間だろうと軽々しく言えることではない。だがこんなにも自分を心配する彼らの心に偽りの言葉を述べるのは卑怯な気がして、最後に本心を言った。

 ――死にに行くのではない。絶対に。

 意志を込めて告げた言葉にフォルテはこれ以上の説得は困難だと悟ったのか黙って目線を落とす。

 しかし納得したのかといえばそれは別問題のようで、不満げな顔は晴れない。レキに至っては全く納得していない。

 直情系のフォルテはなんだかんだ言い負かせても、レキの方はそう容易にはいかない。だがノワールもこれ以上教えてやるつもりはなかった。

 彼らは既にロディオスの騎士を辞めた。この件に深入りさせるのは彼らのためにならない。


「だから俺のことは放っとけ。それよかおまえらこそこんなとこで何やってんだ」


「へ?」


「騎士団辞めて色町の用心棒に転職か」


「いやいやそう言うけどここの給料結構いいんスよ! 客のいざこざ止めるだけで騎士団にいた頃よか貰えるんスから!」


 確かにここなら過酷な戦場を駆けることもなければ誰かに命を捧げる必要もない。騎士団にいた頃の常に危険と隣り合わせの日々と比べたらここでの騒動など子供の喧嘩程度。それで給料まで申し分ないときたら定着するのも無理はない。必死になって弁明するフォルテに一定の理解を示したそのとき。


「失礼致します。入ってもよろしいでしょうか」


 扉を開けたのはノワールを食い逃げ犯扱いしたソアラ。


「先ほどは私のせいでとんだ勘違いをさせてしまい、大変申し訳ございません」


 彼女は部屋を見渡した中にノワールを見つけると深々と頭を下げる。ランシェに謝罪してこいとでも言われたのだろうか。

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