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「貴様!」


「先に仕掛けておきながらキレてんじゃねえよ」


 バアッッン!


 数発の銃声がけたたましく鳴り続く。

 銃所持者の数と全員の位置を確認し次々と向けられる銃口から身を躱しながら、刀を手に向かってくる者を狙撃する。

 飛び道具を使う場合、的が多いということは大して標準を合わせずとも誰かしらに当たるという利点がある。それでも動く人間相手に急所を外して狙撃するのは結構神経を使うためノワールの最も苦手とする武器なのだがそんな泣き言も言っていられない。


「あんたらバカらしいと思わないのか!? 大の大人がこんなお遊び一つに何ムキになってんだよ!」


 最後の説得のつもりで張り上げた声だったが彼らにノワールの言葉は届かなかった。

 元々血の気の多い連中だ。この状況も特に深く考えてなどおらず、寧ろ騒ぐ理由ができたと喜んでいるのだろう。


「チッ、この戦闘狂どもが!」


 刀を手に襲いかかってきた男の腹にノワールの蹴りが炸裂する。そばにいた仲間を道連れに勢いよく後方に吹っ飛んだ男たちを見て吐息した。




「すごい」


 目の前で繰り広げられる光景にリアは目が離せずにいた。

 複数箇所からほぼ同時に発射される銃弾を、発砲音を聞くだけでどこから撃たれたのかを予測して避けている。

 銃声を聞いてから弾丸を避けることなど不可能。なぜなら人間の耳に銃声が届いた時既に弾丸は的に当たっているからだ。

 第一この距離ならば発砲から的を射るまでの速度は瞬きをする間があるかないかという次元の話。よって銃声を聞いてから身体を動かしているのではとても間に合わない。

 つまりノワールは狙撃者が銃を撃つとしている気配だけを頼りに彼らの動きから弾道を読み、弾丸が放たれるときには既に避けているということ。

 一歩間違えれば死ぬ。それを迷うことなくやってのける彼のやり方はまさに命懸けのギャンブル。

 何一つ無駄のない動きというより無駄が無さすぎる。おまけにあの的確な追撃。一寸の狂いもなく急所を外した攻撃で相手を戦闘不能にするには視野を広く持つのは勿論のこと相当神経を集中させて動いているに違いない。

 どんな型にもはまらない独自の戦闘スタイル。こんな無謀な所作が訓練などで備わるものなのか。そんなわけがない。これができるのはやはり彼に生まれながらの才能があるからだ。

 戦闘に特化した、ロディオス最強の騎士と言われるだけの才能が。

 まるで、幻でも見ているかのようだった。


「あぁっ、ああ゙ぁ゙ぁ゙ぁああ゙あ!!」


 リアの注目が完全にノワールにいっていたそのとき、舞台上に悲痛な叫声が轟いた。

 見るとキーラが髪を振り乱して発狂している。


「ベルは私ベルは私ベルは私ベルは私……そう、私はベルなのよ。私がベル……だったら、オマエは何?」


「キーラさん……」


「この世にベルは二人もいらない。オマエが、オマエが死ねば私はベルになれるのよ!!」


 刹那、キーラの首飾りの中央に位置する宝石が暗黒に光を濁す。すると突如地面が唸りを上げながら巨大な地震と共に地割れを起こした。亀裂は舞台前から広場の端まで一直線に伸び、脚を取られた男たちが次々と亀裂でできた穴の中に落ちていく。


「あわわわっ」


「エルくん!」


 今にも倒れそうな勢いでふらつくエルを引き寄せて揺れに耐えながらキーラの様子を窺う。

 揺れは彼女の激情に比例するかの如く大きくなっている。


「さっきの爆発のときもこんな風に」


 投票結果に憤怒したキーラが感情を高ぶらせるとともに何かが闇色の光を放ち、その後間もなく舞台裏が爆発した。この地震もそうだ。

 間違いない――これは人為的なもの。

 キーラの意志がもたらしていることだ。

 だがこのような驚異的な能力を使える人間がいるなど聞いたことがない。

 こんなことができるのは全知全能の神か、もしくは――。


「っ、まさか」


 視線をさまよわせていたリアの瞳が、ある場所でぴたりと止まる。


「そんなわけ……でも、あの石……っ」


「あ? なんだ?!」


 弾切れになった拳銃を投げ捨て、微かに届いた声の真相を問えばリアの瞳は戸惑いに揺れた。


「キーラさんが身につけている首飾りの宝石――あれは、おそらく魔石です」


 その言葉に今度はノワールが言葉を失った。


「今の彼女は魔石の力で我を見失ってる。これ以上あれを身につけていたら、キーラさんの精神は完全に魔石の闇にのみ込まれてしまいます!」


「ッ……なんつー厄介なもんを!」


 魔石はミュータントと呼ばれる特殊な変異を遂げた獣の額に埋め込まれた、その名の通り魔力を宿す石。

 詳細は一切謎に包まれている。複数の学者の見解によれば人が寄りつかない高山の奥深く、動物たちの生息圏の巣窟にあるといわれている。だが該当する場所などこのジフォースには数多く存在し、いずれも人が介入できない過酷な場所のために未だ存在地が確定されていないというのが現状。

 体内に魔石を埋めた動物はミュータントと区別され、通常の動物が持つ数倍もの能力をその身に宿し気性の荒い猛獣となって人間に襲いかかってくる。その戦闘力は猟銃などで防げるものではない。ノワールも何度死闘を繰り広げてきたことか。

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