第147話 イズール峠の戦い

 キャンベラ山賊がどこから来るか話し合った。

「海から来る可能性が高いと思うんだ」

 俺が言うと、河井が同意するように頷いた。


「陸は異獣が居るからな。やっぱり海で近くの港まで来てから陸路かな」

 炭田を襲うとしたら、その近くの港に船を入港させて陸路に切り替えるはずだ。その候補となる港が二つ有る。ヌカイ港とバーヘン港である。


「どうする?」

「分かれて見張るしかないな。ミチハルはバーヘン港を見張ってくれ」

「連絡方法はどうする?」

「源斥力出力装置を使ってみよう」


 源斥力出力装置の研究は進み、手提げ金庫ほどの大きさにまで小型化していた。そして、一度に送受信できる文字数も漢字で四十文字にまで増えている。


 俺は亜空間から源斥力出力装置を出して河井に渡す。河井は受け取ってウィルプレーンに載せた。河井はウィルプレーンでバーヘン港へ飛んで行った。


 残った俺は高機動車でヌカイ港へ向かう。ヌカイ港はかなり大きな港で、以前は大型の船舶がここで荷降ろしをしていた。だが、こういう世の中になって、日本やアメリカからの輸送船しか停泊しなくなっている。


 俺はヌカイ港の倉庫から、港を見張ることにした。倉庫の扉を開けると、空っぽの倉庫だった。扉を少しだけ開けて、亜空間に仕舞っていた望遠鏡を使って張り込みを始めた。


 腹が減ったので、亜空間から保存食の実を取り出した。この保存食の実は、生産の木に実った果実である。新たに作り出した種類の実で、完全食とまでは言えないが、各栄養素をバランスよく配合した果肉が胡桃のような硬い殻の中に入っている。


 味は生で食べるとバナナに似ており、これを火で温めると焼き芋のような味になる。

「確かに凄い食べ物だとは思うけど、これが毎日続くと嫌になるな」

 保存食の実は、名前の通り半年ほど常温で保存可能である。ヤシロでは、この実を特産物にしようと、挿し木で本数を増やしているが、特産物として輸出できるようになるのは、後数年が必要だろう。


 テニスボールほどもある保存食の実を一つ手に取って、上下で違う方向に捻ると真ん中で殻がパカッと割れた。白い果実を口に入れると、バナナ味である。


 この実を三個ほど食べると空腹が収まった。初日の張り込みは空振りに終わり、張り込みは次の日も続いた。


 また保存食の実で昼食を済ませた俺が、港を見ていると南から船が近付いてきた。近づいた船の上に、銃を持った男たちの姿が見える。


「キャンベラ山賊に、間違いないな」

 俺は急いで河井に連絡した。急いで来るという返事だ。無法者たちは船から車両を降ろし始めた。使っている車両は電気自動車である。


 エコだからではなくガソリンが手に入らなくなったので、電気自動車しか使えないのである。このオーストラリアには、キングフィッシュ油田やハリバット油田があるが、そこは異獣に攻撃され採掘施設が壊滅している。


 オーストラリアでもガソリンは手に入らないのだ。たぶん石炭火力発電で電気を作り、電気自動車に充電しているのだろう。


 但し、この電気自動車も一時的なもので、故障して部品が手に入らなくなったら終わりである。ヤシロで製造している高機動車とは違うのだ。


 船から八台の車両が降ろされ、四十人ほどの無法者が乗り込んだ。

「コジロー、来たぞ」

 やっと河井が現れたので、ウィルプレーンで先回りする事にした。まず炭田の事務所へ行って、ジェンキンズ代表にキャンベラ山賊が攻めて来る事を伝えた。


「そんな無法なことを続けても長続きするはずないのに……イズール峠で待ち伏せすることにしましょう」

 ジェンキンズ代表が憂鬱そうな顔になる。同じオーストラリア人を殺さなければならないので、気が進まないのだろう。


 だが、キャンベラ山賊を放置することはできない。そんなことをすれば、クイーンズランド州の住民に犠牲者が出るからだ。


 俺たちはイズール峠へ行って、キャンベラ山賊が来るのを待った。

 そして、八台の電気自動車が坂道を上ってきた時、ジェンキンズ代表が一斉射撃を命じた。多数のサブマシンガンが火を吹き、電気自動車に穴を開ける。


「うわーっ!」

 驚きの叫び声と悲鳴が響き渡り、電気自動車が道路脇の木に突っ込む。高らかに響き渡るクラクションの音。そして、銃声がやんだ時に三十ほどの死体が生まれていた。


「気を付けろ。生き残りが居るぞ」

 車から飛び降りて、森の中に逃げた者が居るようだ。俺と河井は森を探し始めた。


 そして、腹に銃弾を受けた男を発見する。

「降伏しろ!」

「五月蝿い」

 男は何かのスキルを使おうとした。だが、河井が『縮地術』を使って一気に距離を飛び越え、『五雷掌』の【天雷】の掌打を叩き込んだ。


 その男は一撃で死んだ。その瞬間、別の男が河井の背後から襲い掛かった。神気を練っていた俺は、翔刃槍を構えて跳躍する。


 神気で強化した脚力は、一瞬で俺の身体を敵の懐まで飛ばした。その男は剣で翔刃槍の突きを受け流す。


「貴様は日本人か?」

「そうだ」

「なぜ我々の邪魔をする。日本人には関係ないはずだ」

「関係はある。この先にあるのは、日本が管理している炭田だからな。そして、働いている人々も日本が雇っている」


 その男は憎々しげに俺を睨んでいる。突然、男はスキルを起動した。殺気を感じなかったので、攻撃ではないと分かり、対応が遅れる。男の周りに風が吹き始め、その身体を包み込んだ。


「もしかして、それは『操風術』のスキルを使った防御なのか?」

「それがどうした」

 男は答えると同時に踏み込んで剣を振り抜いた。俺は後ろに跳んで避ける。男がまたスキルを発動しようとしたので、俺は翔刃槍の突きを放って妨害した。


 今度は俺が『操炎術』の【紫炎撃】を発動しようとすると、男の剣が邪魔をする。派手なスキル合戦ではなく、身体能力や戦闘力の戦いになるのも面白いと思った。


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