第121話 小型飛行機

 俺は背後を警戒しながら、港を監視していた。船の連中が寝るのを待っていたのだ。背後を警戒しているのは、時々ゴーレム区から港にふらふらとゴーレムが出てくることがあるからである。


 探索者の一人が声を上げた。

「コジローさん、ゴーレムが来ます」

 ゴーレムが港の方へ歩いていくのが見えた。俺たちはゴーレムに見つからないように身を隠す。気づかれなかったようだ。


 ゴーレムは港に入り敵の船の方へ進んでいった。俺たちから離れて姿が見えなくなったゴーレムが、しばらくしてから船の投光器の光で浮かび上がった。


 急に船が騒がしくなった。複数の投光器がゴーレムに光を浴びせている。誰かが拳銃を撃ったらしく乾いた銃声が響いた。


 銃弾がゴーレムに命中したが、弾かれたようだ。船の上で重機関銃が用意された。兵士の一人がゴーレムに照準を合わせて引き金を引く。


 拳銃弾とは比較にならないほど強力な銃弾がゴーレムを貫いた。連続した発射音が響き渡り、ゴーレムが穴だらけになって倒れた。


「やっぱり、強力な兵器を持って来ていたんだな」

「それが分かったのは収穫だけど、敵兵たちは警戒心を高めたようだぞ」

 河井の指摘通り、投光器の光がより遠くまでチェックするようになった。


「どうする?」

 河井が俺に尋ねた。

「投光器の光が届かないギリギリまで近づいても、船まで五百メートルほどあるな。こちらの攻撃が命中するかどうか」


 話し合った結果、長距離攻撃できる七人の探索者がギリギリまで近づいて、スキルによる長距離攻撃をした後に走って逃げることになった。


「名付けて、大勢でピンポンダッシュすれば、どれかが当たる作戦だ」

 河井の命名に皆がドン引きする。


「何だよ? やることを的確に表現しただけじゃないか」

 俺は首を振った。

「ピンポンダッシュはないだろう。ヒットアンドアウェイくらいにしておけば良かったんだ」


 俺たちはギリギリまで船に近づき、それぞれの長距離攻撃を放った。『操闇術』の【闇位相砲】や『操炎術』の【プラズマ砲】が船に向かって飛び。俺たちは全力で逃げた。


 後ろで爆発音がした。振り返ると船の上部が吹き飛んでおり、火が燃え上がっている。その炎の光が、俺たちを照らし出した。


 船から連続した銃の発射音が聞こえてきた。銃声から小銃だと思われる銃弾が飛んできて、俺たちの周囲に着弾する。


「逃げろ!」

 俺は大声で指示した。まあ、意味のない指示だと分かっている。指示を出さなくとも全員が全力で逃げていた。


 俺たちは重機関銃で撃たれる前に逃げ切った。俺は振り返り船の様子を見て、

「あの船、沈むと思うか?」

 河井がニヤッと笑う。

「間違いなく沈む。俺の『操地術』の【地獄突き】が船底に穴を開けたはずだからな」


 河井がスキルを発動した時、手応えを感じたらしい。【地獄突き】は一本の太い槍が地面から突き出して攻撃するものなので、船底に小さな穴を開けただけだ。だが、確実に水が船内に入ってきているはずだ。


「だとすれば、船が傾き始めるだろう。そうなった時に接近して総攻撃だ」

 俺は船を見詰めながら言った。


 一〇分後、船が傾き始めた。そうなると銃器での攻撃は難しくなる。俺たちは用心しながら船に近づき、もう一度総攻撃した。


 俺の【闇位相砲】が船の真ん中に命中して、船体が二つに分かれた。船に乗っていた兵士たちが海に飛び込む。俺たちは港に上がって来ようとする兵士を攻撃する。全滅させると決めていたのだ。


 海を泳いでいる兵士の姿がなくなった。

「終わったな」

「なあ、コジロー。全滅させなくても良かったんじゃないか?」

「捕虜にしてどうする? 牢屋でも作って閉じ込めておくのか、それとも強制労働でもさせるか?」


 俺たちには、そんな余裕がないのだ。俺は周りを見回して負傷している者が居ないか確かめた。

「怪我をしているようだが、大丈夫か?」

「掠り傷です。絆創膏でも貼っておけば治りますよ」

 探索者の一人が答えた。


 俺たちは公園にある転移ドームに戻った。俺の目がリンク水晶をセットする場所に向けられる。そこには何もセットされていなかった。


 前回の襲撃から、今回の襲撃まで三十日以上の間隔があり、制限解除水晶をはずしたのだ。俺が敵のリーダーに言った『普通の転移ドームだ』という言葉に嘘はなかった。


 爆薬による罠が失敗して、不利な状況になった時は食料エリアへ転移して、ガーディアンキラーだけが転移してくるのを待ち構えて始末するつもりでいたのだ。


「日本は生き残った人々を食料エリアへ移住させることができた。だが、他の国はどうなんだろう?」

 俺が疑問を口にすると、河井が肩を竦めた。


「そんなことを心配してどうする。どうせ何もできないんだ」

 日本人が開拓した食料エリアの町に、外国人を呼び寄せることはできない。そんなことをすれば、世界中から生き残っている人々が集まってくる。


 食料エリアの広さも分かっていないのに、大勢の人々を移住させれば共倒れになることも考えられるのだ。

「まずは、食料エリアの広さを知りたいな」


「まさか、飛行機を持って来ようと言うんじゃないだろうな。滑走路なんてないぞ」

「滑走路なんて作ればいい。そうでもなければ、ヘリコプターだ」

「動くヘリが残っているのか、それに何年も整備されていないヘリなんかには乗りたくない」


 整備しても交換する部品などがないから、飛べるようになるか分からない。

「食料エリアの工場で飛行機を作れないかな」

 俺が提案すると、河井がアイデアを出した。日本から壊れていない小型飛行機を持ってきて、動力を小型紅雷石発電装置とモーターに替えれば良いんじゃないかと言うのだ。


   ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆


 しばらくの間、俺たちは静かに暮らした。

 その間に俺は日本から数機の小型飛行機を食料エリアに持ち込んだ。そして、その飛行機を飛べるように改造するプロジェクトを立ち上げた。


 手伝ってくれる人を募集すると六人の技術者が集まった。その中には航空整備士だった者もいて、俺としては助かった。


 数ヶ月の悪戦苦闘で、俺たちは飛べる小型飛行機を手に入れた。河井がストーンサークルの警備から戻ってきて、飛べるようになった小型飛行機を見物した。


「へえー、飛べるようになったんだ。もう飛んだのか?」

「テスト飛行は済ませた。スピードは出ないが、食料エリアに出来た町の全てに行ける」


 もちろん、日本人が開拓した町だけである。アメリカが開拓した町には遠すぎて行けないだろう。


「嘘だね。滑走路がないじゃないか?」

「バレたか。滑走路がヤシロにしかないというのが問題だな」

 俺たちは操地術を使って短い滑走路を造り上げた。立派なものとは言えないが、ちゃんと小型飛行機が離陸・着陸ができる滑走路である。


「ストーンサークルはどうだった? お客さんが来たのか?」

「いや、来ない」


 襲撃者たちを全滅させた後、三ヶ月経過した時に襲撃者の仲間らしい男たちが耶蘇市に来た。だが、耶蘇市の転移ドームがガーディアンキラーしか入れないことが分かると、帰っていった。


 ガーディアンキラーだけを食料エリアに転移すれば、死ぬだけだろうと予想したようだ。それから誰も来なくなった。他の転移ドームを探しているのだろうが、日本の転移ドームは全て制限解除水晶を外している。


 俺たちは本格的な食料エリアの調査に乗り出した。

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