第93話 耶蘇市の異獣テリトリー
俺たちは装甲列車で日本海側の町まで行き、迎えに来てくれた武藤が操縦するヨットクルーザーに乗った。
「大臣に会ったんだろ。紅雷石の価値を政府は認めたのか?」
「ええ、政府の技術機関が実験したそうよ。問題は耶蘇市に研究開発センターと造船所を建ててくれるかね」
美咲が代表して答えた。
「おれたち漁師にとっては、造船所が近くにあるのは嬉しいが、どうして造船所を要求しようと思ったんだ?」
「将来の交通機関を考えた場合、船が一番有望なんじゃないかと考えたのよ」
海をテリトリーにしている異獣は、ほとんど居ない。俺が知っている限りでは、ギガウミイグアナくらいだ。しかも、そのギガウミイグアナにしても棲家は陸上である。
「だが、内陸部の町や村はどうする?」
「今は装甲列車を走らせているけど、月日が経てばレールや橋、トンネルが補修できなくて、ダメになると思うの。それでも転移ドームがあるから、孤立はしないと思うけど」
「なるほど、メンテナンスができないか。難しいだろうな」
周りを異獣に取り囲まれながら、橋やトンネルをメンテナンスするのは難しいだろう。武藤も美咲の意見に納得した。
「しかし、転移ドームを使えるのは、ガーディアンキラーしかいないんだ。益々ガーディアンキラーを増やせという意見が強くなるんじゃないか?」
俺も同じように思っていた。
「まあ、そうだな。この前みたいに、探索者に守護者を倒させる手伝いをするという依頼が、頻繁に来そうな気がする」
エレナが頷いてから、
「そう言えば、貴島さんが言っていた食料エリアの町というのは、どう思います?」
武藤が首を傾げた。そこで河井が貴島から聞いたアメリカで造られた食料エリアの町について説明した。
「食料エリアの町か。町というからには、子供や老人も居るんだろ。どうやって転移ドームに入ったんだ?」
俺たちは首を傾げた。
「それが分からないんだ。何か方法があると思うんだけど」
「コジローは、『上級知識(食料エリア)』を取ったんだろ。その中に転移ドームについての情報はなかったのか?」
「食料エリアの情報は膨大で、チェックするだけでも、時間がかかりそうなんだ」
紅雷石のように、探す情報の名称が分かっていれば、その名称を手掛かりに情報を探すことはできるが、漠然とした情報だと探しようがない。試しに『転移』と『転移ドーム』で探してみたが、ヒットしなかった。
実際に知識スキルから取り込んだ食料エリアの情報は膨大であり、チェックするだけでも二、三ヶ月ほどかかりそうだ。
この作業は分厚い国語辞典に、どんな言葉が載っているかを調べる作業に等しい。根気が必要な地味な作業なのだ。暇な時間にチェックしているが、あまり進んでいない。
「コジローは集中力に欠けているところがあるからな」
河井がそんなことを言う。俺はジロリと河井を睨んだ。
「何を言っているんだ。俺より集中力がないくせに」
河井がニヤッと笑う。
「違う違う、自分は集中力がないんじゃなくて、好奇心が旺盛なだけだ」
「ふん、物は言いようだな」
「そう言えば、そろそろ小鬼区や獣人区の守護者が復活する頃じゃないか?」
武藤がヨットクルーザーを操縦しながら言った。
それを聞いた美咲が、真剣な顔で考える。
「武藤さんのところに居る探索者で、有望な者を推薦して。ガーディアンキラーにしましょう」
「そいつはありがたいが、町の人間全員をガーディアンキラーにするなんていうのは、無理だぞ」
「そうなのよね。きっと方法があるはずなの。アメリカさんが教えてくれれば嬉しいんだけど」
「そうだ。食料エリアに、海はないのか?」
武藤が俺に尋ねた。
「あるよ。但し、かなり遠い。歩くと一〇日くらいかかるんじゃないか」
「一〇日か、車が有ればな」
それを聞いていたエレナが、
「食料エリアに車を持ち込むとなると、シャドウバッグですかね。でも、車を運べるほど大きいものを作るのは大変ですよ」
「そうだな。俺が『亜空間』のスキルを取る方が簡単かな。また守護者を狩るか?」
美咲がニヤッと笑った。
「なら、ついでに守護者を倒して欲しいテリトリーがあるのよ」
「美咲、顔に邪悪な感じが出てるぞ。何だって言うんだ?」
「毒虫区よ。あそこの守護者を倒して、護符を作れるようになりたいと思っていたの」
耶蘇市にある異獣のテリトリーは、二十一区画である。その中で一度でも守護者を倒したことがあるのは、十一区画。残っているのは、強敵だと思われる守護者が居るところだけだった。
但し、残っている十区画の中で、守護者が一番弱そうなのが毒虫区だった。とは言え、大量の毒虫がいるので、厄介な区画でもある。
「コジローは、毒耐性がスキルレベル8になっているんだから、大丈夫でしょう。それに『機動装甲』のスキルもあるんだから」
毒虫区は気が進まないが、毒虫区を抜けると隣町に行けるルートが使えるようになる。美咲が護符が欲しいという理由も何となく理解できる。
隣町である森崎町は無人の町となっている。ただ森崎町には中小工場が残っており、数多くの工作機械が残っているのだ。その工作機械を保存しておきたいと、美咲は言っていた。
耶蘇市に帰った俺たちは少しのんびりしてから、武藤が推薦した探索者たちに守護者を倒させてガーディアンキラーとした。合計六人のガーディアンキラーが誕生する。
その後、毒虫区の守護者を倒しに行く計画を立て始めた。毒虫区へは、竜人区と幻鳥区を経由して行くルートがある。計画では両方の守護者を倒し、俺だけ毒虫区へ行くことになった。毒耐性のレベルが高かったのが、俺だけだったからだ。
三津町で手に入れた巨大ワニと首長竜のような守護者の皮、両方を鞣して強度を調べてみた。やはり守護者の革が頑強なようだ。
その革を使って四人分の革鎧を作るようにエレナに頼んだ。出来上がったら、俺たちの防御力は飛躍的に上がるだろう。ちなみに、残った巨大ワニの革は武藤にプレゼントした。
革鎧が出来上がるのを待っている間、ログハウスのリビングで、食料エリアの情報をチェックしていた。
「ねえ、コジロー兄ちゃん。僕も探索者になりたいんだ」
十二歳になったタクロウが、言い出した。タクロウは孤児となって保育園の世話になっている少年である。
それを聞いたメイカとコレチカが走り寄ってきた。
「タクロウ兄ちゃん、ずるい。メイカも探索者になる」
「僕も、僕も」
メイカとコレチカは十歳にもならないので無理だが、タクロウは十二歳。異獣を倒してレベルアップの苦痛にも耐えられる歳だ。
「凄く痛いんだぞ」
「知ってる。我慢できるよ」
メイカとコレチカは痛いと聞いて、ちょっと引いていた。
俺は園長と相談して、タクロウにレベルアップさせることにした。俺と河井は、タクロウを連れて小鬼区へ向かった。
「タクロウ、本当に探索者になるのか?」
「うん、食料エリアへ行ってみたいんだ。地球とは別の世界なんだろ?」
「そうだ」
俺たちはバッドラットを探した。
「よし、捕まえた」
俺はバッドラットを捕まえ、袋に入れた。この袋に入れたバッドラットをタクロウに仕留めさせるためだ。
タクロウは、俺が渡した戦棍を使ってバッドラットを倒した。例の声を聞いたのだろう。タクロウは驚いたような顔をする。
次の瞬間、タクロウが叫び声を上げ痛みを訴える。こればかりは助けてやれない。
痛みが収まったタクロウに話しかけた。
「大丈夫か?」
「うん、でも、痛かった」
「皆そうだ。さあ、ステータスの表示から、『毒耐性』スキルを選ぶんだ」
タクロウが何だか難しい顔をして、スキルを選んでいる。
「『毒耐性』と他のも選んだよ」
「何を選んだんだ?」
「『棍棒術』と『物理耐性』」
タクロウなりに真剣に考えて、スキルを決めたようだ。
「ねえ、コジロー兄ちゃん。話してくれたことと、一つ違っていたよ」
「へえっ、何のことだ?」
「初めてレベルアップした時のことを話してくれただろ」
「ああ、お前たちに頼まれてな」
「その中で、【レベルが上がりました】と頭の中で聞こえた、と言っていたよね」
「ん、聞こえなかったのか?」
「そうじゃないんだ。その他に、【初めてレベルアップした者に告げる。百五十一日後、最初のシフトが起こる。それに備えよ】と変な声が言ったんだ」
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【あとがき】
執筆用の参考資料を公開します。みてみんにアップロードした耶蘇市の地図です。
未完成ですが、よろしかったら参考にしてください。地図をクリックすれば大きくなります。
https://15132.mitemin.net/i534393/
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