第58話 藤林からの情報
藤林が守護者三匹を倒したことを誇らしそうに口にしたので、竜崎はイラッときた。
「ふん、同じ守護者を三回倒したんじゃないのか?」
それを聞いた藤林が、鼻で笑う。
「ふん、知らないようだね。同じ人物が同じ守護者を倒しても、制御石の選択や倒した報酬はもらえないんだよ」
「そうなのか、勉強になったよ。それで何のために耶蘇市へ来たんだ?」
藤林が目を細めて竜崎を睨んだ。
「まあ、いい。私が耶蘇市に来たのは、君らの手伝いをするためだ」
「手伝い? 何のことだ?」
「御手洗市長から、異獣のテリトリーを攻略し護符を作ってくれと頼まれている」
竜崎は御手洗市長へ視線を向けた。藤林の話が本当なら、市長は竜崎を信用していないということになる。
「何だ、その目は? お前たち探索者がちゃんと仕事をしないから、藤林君に依頼したんだろう。文句があるのか」
竜崎は舌打ちしたくなったが、寸前で止めた。藤林が竜崎に、
「それで、君が倒したのは、どのテリトリーなんだね?」
そう質問したので、小獣区の名前を伝えた。
「一番弱そうなテリトリーだな。その他は手付かずなのか?」
「それは分からない。東上町の連中がいくつか攻略したと聞いている。しかし、小獣区は自分が倒したからいいとして、他は問題ないだろ」
「甘いな。制御石に触れて一度選択したものは、選択肢から消えるのだ。だから、その東上町の連中というのが、護符を選択していたなら、市長の要望には応えられない」
「お前は、藤林君のサポートをしろ」
御手洗市長から命令が下った。竜崎が不満そうな顔をすると睨まれた。
◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆
竜崎は藤林の指示で、東上町へ向かった。東上町の探索者が、どこの守護者を倒したか確かめるためだ。
東上町の保育園で薪割りをしていた俺は、竜崎の姿を見て驚いた。
俺と竜崎は、保育園の庭にあるベンチに座って話し始めた。
「竜崎さん、珍しいじゃないか」
「ちょっと教えて欲しいことがあって来た」
「ふーん、何だ?」
竜崎は、藤林が耶蘇市に来ていること、守護者と制御石について様々な制約があることを伝えた。
「へえー、そんな制約があるんだ。それで聞きたいことというのは?」
「コジローたちが、どこの守護者を倒したか教えて欲しい」
親切に守護者と制御石について教えてくれたことを不思議に思っていた。だが、それは俺たちが倒した守護者を教えてもらうための報酬みたいなものだったらしい。
「俺たちが倒した守護者は、小鬼区・獣人区・樹人区の三つだ。その中で護符の作り方を選択したのは、小鬼区と獣人区だった」
「ほう、小鬼区と樹人区の守護者を倒したのか。樹人区は知らんが、小鬼区の守護者は強敵だったはずだ」
「あいつは強かったよ。もう復活しているらしいから、戦ってみたらどうだ」
「ふん、市長の目的は護符だぞ」
「そうか。だったら、草竜区のデカブツを狙うのも面白そうだ」
「全然面白くない。藤林がメインで戦うにしても、自分たちがサポートすることになる。草竜区の守護者ほどの強敵なら、一瞬でも隙をみせたら殺られる」
竜崎も草竜区の守護者を見たことがあるようだ。全長九メートルのトリケラトプスのような守護者、倒すのが困難な敵だ。
「戦う相手を決めるのは藤林だ」
「藤林か……どんな男なんだ?」
「会ったばかりだからな。まだ分からない」
「そうか、美咲にでも聞いてみよう」
竜崎が帰り、俺も薪割りを終わらせてログハウスに入った。シャワーで汗を流してから、リビングで寛いでいると、ビニールハウスへ行っていたエレナと美咲、それに子供たちが戻ってきた。
きゅうりやトマトなどを収穫してきたようだ。
「冷えたビールが飲みたい」
リビングのソファーに座った美咲が、唐突に言った。
「缶ビールなら、残っているだろ」
「あんな生温いのはダメ。キンキンに冷えたビールがいいのよ」
「もう少し待てば、電力が来る。そうしたら、冷蔵庫が使えるようにさるさ」
「その時は、夏が終わっている。飲みたいのは今なの」
俺と美咲が話しているのを聞いて、エレナが笑う。美咲が窓から見える水道に視線を向けた。
それに気づいたエレナも水道に視線を向ける。
「水道の水も、夏だと温まってしまうんですよね」
龍髭湧水からパイプを通って送られてくる水も、途中で温められて冷たくなくなっている。
何かが閃いたという顔をした美咲が、俺の方を見た。
「ねえ、井戸を掘るのはどう?」
「どこを掘れば、水脈があるのか分からない」
「ダウジングで分からないかな?」
俺は美咲へ視線を向ける。
「やり方を知っているのか?」
「テレビで見た程度よ」
「ダメだな。何メートルも掘ったあげく、水が出ませんでしたというのはごめんだよ。それにここは海から近いから、海水が出るかもしれないぞ」
「コジローなら、『操氷術☆☆☆』を取れるだけのスキルポイントが溜まっているんじゃない」
「冷えたビールのために、スキルを選ぶというのは勘弁してくれよ」
「仕方ない。自分で『操氷術』を取るか」
「スキルポイントは?」
「守護者を倒して手に入れる」
俺は肩をすくめた。
「そう言えば、竜崎さんに会ったんだけど、東下町に藤林というガーディアンキラーが来ているらしいぞ」
美咲が嫌そうに顔を歪めた。その顔を見れば、藤林がどんな奴か推測できる。
「何のために来ているの?」
「御手洗市長の依頼で、守護者を倒して、護符の作り方を手に入れるそうだ」
俺は竜崎から聞いた話を二人に話した。
美咲が考えながら声を上げた。
「御手洗市長も、異獣のテリトリーを利用することを考えているのね」
俺たちの小山農場と同じようなことを、市長は考えているのだろうか? それとも別の目的があるのか。
エレナが不安そうな顔をする。
「何だか、国盗りゲームをしているような感じですね」
その言葉を聞いた美咲が俺に問う。
「ねえ、コジロー。異獣のテリトリーの中で護符を取っておきたいところはないの?」
俺は護符が欲しいテリトリーを考えた。
「樹人区と精霊区の護符は欲しいな」
守護者の気配から判断して、強い順を考える。獣人区・小竜区・樹人区・奇獣区・小鬼区・草竜区・飛竜区・精霊区の順番である。
他にもテリトリーはあるが、守護者の気配を感じたことがないので対象外とした。
意外にも小鬼区の守護者は強かった。小鬼区の守護者はすでに復活しているが、もう一度戦いたいとは思わない。次に狙うとすると、小竜区か樹人区だろう。
ちなみに、獣人区は倒したばかりなので、守護者が復活していない。俺たちは話し合って、次に狙う守護者を決めた。
「よし、樹人区の守護者を、もう一度倒すぞ」
その狩りに参加するのは、俺とエレナ、美咲、河井の四人だ。弘樹たちは小山農場でジャガイモの収穫している。農作業はきついと言っているが、彼らの表情は明るくなっている。
将来への希望が見えたからだろう。
俺たちは樹人区へ行って、トレントの心臓石を回収しながらプラスチック工場へ向かった。この工場に分裂の泉があり、守護者がいる。
その気配は工場の外からでも分かった。河井が工場へ視線を向けたまま言った。
「なあ、コジロー。誰が守護者を倒すんだ?」
「そうだな。今度は美咲か、ミチハルかな」
「えっ、自分でもいいのか?」
「全体的に戦力を上げるには、そうしないとな」
「じゃあ、ジャンケンで決めようぜ」
美咲と河井がジャンケンをして、美咲が勝利した。河井ががっくりと肩を落とす。
工場の中に入ると、復活した守護者の姿が目に入る。直径一メートルほどのバオバブの木の上部から長い腕のような枝が何本も伸びている化け物だ。
この守護者で用心しなければならないのは、枝から放たれる棘の攻撃である。俺たちは、棘攻撃を避けながら、それぞれが攻撃した。
エレナの爆裂矢、俺の影刃狼牙棒、河井の『操地術』スキルの攻撃技【投槍】、美咲の【爆炎撃】である。守護者のダメージがある程度溜まったと判断した時、美咲が動き出した。
守護者に近づきガソリンが入ったタンクを根本に投げたのだ。飛び離れた美咲は、【爆炎撃】を放った。ガソリンに引火して炎が膨れ上がり、守護者を包み込む。
守護者が動かなくなり消えた後に、美咲の頭の中に声が響いた。
【守護者デルギオスを倒しました。あなたの所有するスキルから任意の一つを削除し、スキルポイントへ戻すことができます。どれを選びますか?】
「何これ、聞いていたものと違う」
美咲の声を聞いて、俺たちは集まり何が聞こえたのか聞き出した。
「なるほど、スキル取得のやり直しができるということか」
俺の言葉を聞いた美咲は、『操水術:3』を選んだ。
次の瞬間、また頭の中に例の声が響く。
【レベルが上がりました】
【レベルが上がりました】
【レベルが上がりました】
【レベルが上がりました】
苦痛に耐えた美咲は、分裂の泉に潜り制御石に触れる。
【デルギオスエリアの制御石に触れました。あなたに選択肢が与えられます】
一、トレントから襲われなくなる護符を作る知識を得る。
二、制御石を破壊し、一〇年間トレントが増えなくなる期間を得る。
分裂の泉から上がってきた美咲から、何が起きたのか聞いた。
選択肢が二つに減っていたという。竜崎の話は本当だったようだ。美咲は護符を選んだと言った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます