第46話 守護者討伐部隊
「ちょっと待て、個体レベルが『29』だと……本当なんだろうな」
熊田は俺の個体レベルを信じられないようだ。
「本当だ。嘘を言って何になる」
美咲が俺たちに教えてくれた。個体レベルは『20』を過ぎた頃から上がり難くなるそうだ。それでもレベルアップするには、異獣の中でも相当強い奴を倒さなければならないらしい。
俺の場合も、『20』を超えた時期から上がり難くなっていた。それでも『29』までレベルアップしたのは、小鬼区と樹人区の守護者を倒したからである。
「コジロー、守護者を倒したの?」
美咲が鋭い質問を発した。俺は誤魔化しは効かないと感じて肯定した。
熊田が俺を値踏みするような目で見ている。
「ガーディアンキラー……県内で二人目だな」
俺の他にも守護者を倒した者が居るようだ。それは熊田ではないかと推測した。
美咲が話を戻し、続きを言うように促す。
「武器は戦棍で、操術系は『操炎術』と『操闇術』を持っている」
俺の持つスキルの中で最強と言える『超速思考』については何も言わなかった。質問の中になかったからだ。たぶん操術系のスキルを基に作戦を組み立てようと考えているのだろう。
「操術系の『操炎術』と『操闇術』はいいとして、武器が戦棍というのは意外ね。戦棍で防御力の高い異獣を倒すには、驚異的な筋力が必要だけど……ブースト系のスキルも持っているの?」
ブースト系というのは初めて聞いた。美咲に問うと、『筋力ブースト☆☆』とか『素早さブースト☆☆』というスキルがあるようだ。
「いや、そんなスキルは持っていない」
「そうすると、地力が強かったということ。そう言えば、趣味が筋トレ、特技が筋トレだったっけ?」
「そんなわけないだろ。単に身体を鍛えているだけだ」
身体を鍛えていたのは事実だが、それは強さに憧れていたからだ。男の本能みたいなもので、プロレスにハマっていたことも影響している。
面談が終わり、俺たちは部屋に戻った。夜に美咲が部屋に訪ねてきたので、俺たちはそれぞれの家族について話をした。美咲の家族は、耶蘇市から逃げる途中に異獣と遭遇し殺されたらしい。
「俺の両親は、毒で死んだんだと思う。家に帰ったら、二人の亡骸と俺への手紙があった」
「おじさんとおばさんは、最後までコジローを待つと言っていたから」
美咲たち家族は、両親に一緒に避難しようと言ったらしい。だが、両親は断ったそうだ。
「美咲は、田崎市で暮らしているのか?」
「少し前まではそうよ。住民を守る警備隊に志願したの。でも、今は三日月市で県が編成した特殊精鋭チームで働いている」
美咲は特殊精鋭チームのナンバー2らしい。チームリーダーは熊田で、隊長と呼ばれているようだ。
武藤が東下町の市長が配給を独占していることを訴えた。
「ふん、御手洗市長のやりそうなことね。県の役人に報告するけど、あまり期待しない方がいいかも」
エレナが不満そうな顔をする。
「どうしてです?」
「この世界が、警察も裁判所も存在しない世界になってしまったからかな。市長を罰するには、鎮圧部隊を送り込み、強制的に排除するしかない。でも、県や国には人材が少ないの。市長の代わりとなる人材を送り込む余裕はないと思う」
県や国は、耶蘇市が生き残ったというだけで市長を高く評価しているという。それに各地方の首長が、配給品を私的に流用することが多々あるらしい。
「田崎市でも、そうだった。私は市長に抗議して県にも訴えたんだけど、役人に聞き流されてしまった」
美咲は市長の腰巾着が配給品を横流ししていたのに気づき市長に抗議した結果、田崎市から追い出されたらしい。それを語った時の美咲は、珍しく憤慨していた。
「何それ、どこも同じだってことなんですか」
エレナが怒っていた。
「本当に何とかしたいなら、地元の人間が何とかするしかないと思う」
俺は美咲に視線を向けた。
「そう言っても、市長選もないんだから、平和的に市長を交代することはできないだろう」
美咲がちょっとワイルドな笑いを浮かべた。
「下剋上しかないのよ。三日月市では一度下剋上が起きている」
武藤と俺が同時に溜息を吐いた。
「御手洗市長を交代させるのは賛成だけど、誰を次の市長にするのかが問題なんだ」
美咲が肩を竦めた。どこも同じだということだ。
「コジローが市長になったら」
「冗談じゃない。俺にできるはずがないだろ。美咲がなってくれよ」
「耶蘇市の市長ねぇ。少し興味があるけど、東下町の住民は御手洗グループの関係者だけでしょ。下剋上は難しいかもね」
東下町の住民が御手洗グループの関係者だけという事実が変わらない限り、現市長を排除しても御手洗グループの人間が支配する構図は変わらないだろう。
武藤が美咲に向かって質問の声を上げた。
「今度の作戦で、巨竜区が解放され石炭火力発電所が稼働したら、東上町にも電力が送られて来るんだろうか?」
美咲が真剣な顔で考え武藤に視線を向けた。
「そうね、このままだったら東下町だけに送電されるかもしれない。私が交渉しましょうか? その代わり、送電線を敷設する工事をコジローたちがすることになるかも」
どうのような工事になるか分からないが、工事ぐらいは自分たちでやると告げた。
「さすが実力者ね。いいでしょう、交渉してみます」
俺は以前から思っていた疑問が頭に浮かんだ。
「国は、石炭を主力燃料として考えているようだけど。石炭は安定して手に入れられるのか?」
「中央政府は、オーストラリアと契約したみたい」
「そんなことより、作戦はどのようなものになるか、教えてくれ」
武藤は石炭なんかより、作戦が気になったらしい。
「リトルレックス討伐部隊と守護者討伐部隊に分かれることになります。あなたたちはコジローがガーディアンキラーだということを考慮すると、守護者討伐部隊に組み入れられるでしょう」
「俺たちに守護者を倒せというのか?」
「そうじゃない。守護者の周囲には、リトルレックスが群れているから、それらの敵を排除するのが仕事になると思う」
「守護者は、美咲たちが?」
「ええ、特殊精鋭チームが倒します」
「大丈夫なのか?」
俺が心配して尋ねると、美咲が笑った。
「コジローに心配されるほど、やわじゃない。特殊精鋭チームの全員が個体レベル『20』以上なのよ」
メンバーの全員が、操術系スキルを持ちスキルレベルも高いらしい。
もしかしたら、マックスレベルまで上がった操術系スキルを持っているかもしれない。ただスキルレベルを上げるのにスキルポイントを使ったのなら、俺のように多様なスキルは持っていないだろう。
「さて、時間も遅くなったし、明日に備えて休んだ方がいいようだな」
「そうね」
美咲とエレナは自分の部屋に戻った。
翌朝、広間に探索者全員が集められ、作戦の説明が行われた。俺たちは美咲が言った通り、特殊精鋭チームと一緒に守護者が居る玉瀬山に向かうことになった。ちなみに、俺たちと同じように守護者討伐部隊に組み入れられた探索者チームが、他に一チームあった。
玉瀬山は石炭火力発電所の裏にある山だ。それほど大きな山ではないが、山頂がカルデラ状になっている。そのカルデラに守護者が居るらしい。
作戦の説明が終わった後、俺たちは出発した。途中、ゴブリンや狼のテリトリーがあったが、問題なく進む。一時間ほどで巨竜区に入った。
「ここからは気を付けろ!」
熊田隊長が大声を上げた。竜崎たちが先頭付近に居る。リトルレックス討伐部隊に配属されたようだ。竜崎の実力は高かったが、他のメンバーの個体レベルが低かったのだろう。
守護者討伐部隊に配属された俺たちは、途中で遭遇したリトルレックスとは戦わなかった。体力温存ということのようだ。
リトルレックスは【爆炎撃】を一発命中したくらいでは死なないようだ。竜崎たちは大勢でリトルレックスを囲み、操術系スキルの攻撃を十数発ほど叩き込んで仕留めている。十数発も必要だったのは、操術系スキルの種類によって威力の低い攻撃しか放てない者もいたからだ。
守護者討伐部隊は進み続け、玉瀬山の山裾に到着。玉瀬山は常緑樹に覆われた自然豊かな山だった。リトルレックス討伐部隊は、周囲に居るリトルレックスを狩るために分かれていった。
「コジロー、出番よ」
美咲の声が聞こえた。俺たちを含めた二組の探索者チームが戦う番になったようだ。先頭に出てなだらかな斜面を登り始めた時、リトルレックスと遭遇した。
全長六メートル、二足歩行の恐竜だ。頭には巨大な口があり、凶悪な牙がずらりと並んでいる。俺は擂旋棍を握り締めて駆け出した。
「何をするつもりなの、戻って!」
それを見た美咲が叫んだ。その叫びを無視して突進する。
俺が擂旋棍に気を流し込むと、先端の旋刃が回転を始める。エレナが爆裂矢を番え、リトルレックスの膝を狙って矢を放った。
爆裂矢が恐竜の膝に命中し爆発。リトルレックスはバランスを崩して前のめりに倒れ始める。俺は倒れるリトルレックスの頭目掛けて擂旋棍を叩き込んだ。
回転する旋刃が恐竜の頭を抉り、頭蓋骨に激突した。リトルレックスの頭が、車に撥ねられたかのように跳ね上がる。その反動で俺の身体も後ろに飛んだ。
リトルレックスの頭から大量の血が流れ出している。
「おいおい、あいつ無茶苦茶じゃないか」
熊田隊長が驚き呆れたように声を出した。
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