26話 とっても青春しています

 告白に成功した翌日、学校に行くとすでに鏑木が教室にいた。

 星崎たちとわいわい話している。


 鏑木はちらっとこっちを見て、すぐに視線を戻した。


 今まで通り。

 アピールしていく必要なんてないのだ。俺たちは俺たちのペースで進んでいく。


     †


「というわけで、こっそり待ち伏せていた」

「どこがこっそりなのよ……」


 放課後、俺は早めに学校を出た。

 いつもの十字路で鏑木を待っていると、ちゃんと来てくれた。……いや、通り道だから当たり前か。


 あれ、今日の俺、なんだかいつもより頭悪くないか?


「ここで待たれても……あなた家こっちじゃないでしょ」

「ついていってもいいか?」

「だ、ダメ! まだ家を教えるには早いと思う!」

「じゃあ、そこの店でカレー食いながら話さないか」

「嫌よ! 晩ご飯入らなくなっちゃうじゃない!」

「でも、話す時間がほしい……」


 ちょっとすねてみると、鏑木が「うっ」と言葉に詰まった。


「し、仕方ないわね。駅の方へ歩きましょ」


 やったぜ。


 ――とはいえ、若里高校の奴らに遭遇するのはできるだけ避けたい。いい場所はないだろうか。


「鏑木」

「なに?」

「うちの生徒、あの歩道橋は使わないんじゃないか」

「確かに。名案ね」


 十字路から少し北に歩くと歩道橋がある。学校からは距離があり、位置的に中途半端なところにあるので、若里高校の生徒はわざわざ使わないという判断である。


 俺たちは歩道橋を上がって、下を流れる車を見つつ、夕風を浴びた。


「夕日がまぶしい……」

「なにそれ。青春系のCM?」


 鏑木が笑いながら言う。


「いいだろ。俺、めちゃくちゃ青春してるぞ。なんといっても彼女が横にいるんだから」

「あ、相変わらずストレートなんだから……まあ、あたしもこういう時間は好きだけど」

「気が合うな」

「道原と一緒だからね」

「そ、そうか」

「うん」


 鏑木がじっと俺の目を見つめてくる。ストレートにストレートを返された。不意打ちすぎて、俺はうろたえてしまう。


「あははっ」


 それを見て、鏑木が楽しそうに笑った。


「道原、グイグイくるくせに自分が押されると弱いのね」

「い、今のは突然だからびっくりしただけだ」


「道原、好き」


「えっ……、あ、ありがとう」


 鏑木が噴き出した。欄干に肘をついて顔を隠す。ぷるぷる震えている。


「い、今のはずるいぞ」

「道原こそ……ありがとうはずるいわ。ふふふ」

「笑いすぎだろ。俺の純情をもてあそぶな」

「でも、本心よ?」

「そ、そうか」

「本当に好きじゃなきゃ、こんなこと言えないもの」

「……光栄です」

「ふふっ」

「また笑ったな!」

「だって、卑怯じゃない。なんで敬語になるの?」

「それは、とっさの返しが思いつかないからだよ……」

「普段はあんなに口が回るのにね」

「好きな女の子ができると変わるの」


 俺はまたすねた調子で言う。


「ごめんなさい。からかいすぎたわ」

「わかってくれたならいいよ」

「でも、夢だったから」

「何が?」

「いつか好きな人ができて、こうやって笑えること」

「……俺と話してて、楽しいか?」


 訊いてから後悔した。こういう質問は無粋だ。


 しかし鏑木は、こくっとうなずくのだった。


「道原、ちょっと変わっててそこが面白いから。今だってそうでしょ?」

「慌ててる俺が面白いだけなのでは……」

「そんなことないわ。あなたとお話ししてる時間は本当に楽しいから。まさか、最初に話した時はこんなことになるなんて思わなかったけど」

「いきなりキレられたからな」

「だって、莉緒に迷惑かけるんだもん」

「あの時は散歩が何よりも大切だったんだ。まあ、キレられた瞬間に落ちたんだけど」

「えっ、あの時にもう?」

「鏑木の目に惚れたんだよ」

「よく、目つきのせいで機嫌悪そうって言われるんだけどな」

「そこがいいんじゃないか」


 鏑木が苦笑した。


「最初から、道原は道原だったのね」

「ああ。俺は直感を疑わない男だからな」

「怒っただけなのにね。人生って何があるかわからないな」

「そこが面白いところだと思うぜ?」


 笑ってみせると、鏑木が俺の腕に寄りかかってきた。


「そうね」


 俺は、右腕に鏑木を感じながら、暗くなっていく街の景色を眺める。


 ……うん。


 やっぱり俺、青春してるよな。

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