明けない夜に(SIDE エルシィ)
ガーラヘル王国が闇に包まれてから、早くも3日経った。
天文学者達の観測では、どうやらこの惑星は自転を止めてしまっているようで、再び回るのがいつになるのか全く分からないとのことだ。
それでも時計は動いてくれるから、どのくらい刻が経過したのかは解る。
エルシィは明けない空を見上げながら、ボンヤリとする。
神殿でステラと父はほぼ同時に戦闘不能状態となった。
とりあえず付き人と協力して二人を王城に運んだものの、二人とも本人と判別出来ないような姿(ステラは彼女の義兄の姿。父は翼を生やした老け込んだ老人の姿)をしていたため、扱いに困った。
幸いにもステラの相棒であるアジ・ダハーカが居てくれたので、彼の助言に従うことが出来たが、
それまでの間にステラが無事なのかどうかも良く分からないし、どういうわけかアジ・ダハーカはステラの体を【無限収納】から出してくれない。
エルシィはしだいにアジ・ダハーカに対して不信感を抱き始めている。
父の方はというと公の場に見せている人物が影武者なため、そして身体的な変化が激しいため、口止めの都合から外部から多くの医療従事者を呼べない。仕方が無しに王城付きの医者中心に看ている状況だ。
しかし、彼等の見解によると、残念ながらその肉体は人としての寿命を大きく越えているようで、生と死を彷徨っているらしい。
どのような原理で一気に彼が老け込んでしまったのかは解らないとのことだ。
殺しても死にそうになかった父が今にも息を引き取ろうとしているのを見て、エルシィは動揺せずにはいられなかった。
彼が崩御したならば、エルシィが国王の座につくと決まっている。
その覚悟はとうに出来ているつもりだったのに、急にその時が近づいてきてしまい、どうにもこうにも落ちつかない気分になる。
精神的な疲労から寝込んでしまっている母の見舞いにでも行こうかと考え始めた時、バルコニーに付き人がバタバタと駆け込んできた。
「エルシィ様!!」
「どうしましたの? 騒騒しい……。貴方最近どこかに品性を落としてしまったのではありませんこと?」
「申し訳ございません! 急いでいたもので」
「急いでいましたのね……」
その言葉に背中の辺りがヒヤリとする。
ステラや父、もしくは母に何かがあったのだろうか?
「話していただけるかしら?」
「テミセ・ヤのメイリン・ナルル女史がいらっしゃいました。今ジェレミーさん……ではなく、ステラ様の所に案内させたのですが、エルシィ様もお会いになりますか?」
「メイリン・ナルルさんがいらしたの? 何故あの方が?」
「アジ・ダハーカ様がお呼びになったのです。ステラ様の容態とこの国の夜明けについて解るのは女史しかいないようです」
「そうでしたのね。でしたら、私もメイリンさんにお会いした方がよさそうですわ」
「えぇ。そうすべきかと思います」
エルシィはジェレミーの体を寝かせて居る部屋に移動しながら、メイリンについての記憶を掘り起こす。
交換留学の際に彼女の発明品を巡ってひと
だけども、この状況下でアジ・ダハーカが呼んだくらいなのだから、彼女に対して敬意を払うべきなんろう。
エルシィが眉間にシワを寄せて考え事をしていると、付き人が心配そうに声をかけてくる。
「あの、エルシィ様。お体は大丈夫でしょうか?」
「体? なんともありませんわ。何故そのような質問を?」
「エルシィ様は一度亡くなられ、ステラ様から時間を巻き戻されたからこうして生きていると、エマさんから聞いたんです。こうして元気に過ごしているお姿を見て、……なんと言ったらいいか……」
「気にしすぎなのですわ」
付き人の声が湿っぽいのは、それだけ自分が置かれた状況がまずかったからなのかもしれない。
神殿でステラの家で働くエマ・コロニアが父の攻撃に晒された時、エルシィの体は自然と動いた。父の明確な殺意を察し、彼が人を殺すのを見たくないと思ったかもしれないし、ステラの大切な人を自分が守らねばと考えたかもしれない。
その辺はよく思い出せないけれど、自分に攻撃した直後の父が、酷く人間らしい表情をしていたのだけは目に焼き付いた。
だが、一つハッキリした。彼はたぶん父親としてちゃんと自分を愛してくれていたのだ。
「――失礼いたします。エルシィ王女殿下をお連れしました」
付き人の堅い声に、気持ちを引き締める。
あの抜け目のないメイリンとこれから対峙するのに、ボンヤリとしていたらつけ込まれてしまう。
エルシィは付き人によって開け放たれた扉の中に入り、ベッドの傍に立つ少女に微笑みかける。
「ご機嫌よう。メイリン・ナルルさん。我が国の為に力を貸していただけるとのこと。遠方よりご足労いただき、感謝いたします」
「やぁ、エルシィ王女。お邪魔してるさ」
エルシィ達が挨拶している間に、アジ・ダハーカがステラの体を【無限収納】からと取り出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます