大切な仲間の為に出来ること(SIDE ステラ)
善神からの重い一撃を受け止め、ステラは地面に叩き付けられる。
義兄の身体を動かし慣れていないこと、そして近接的な戦闘への理解が乏しいことが原因で、どうしたって競り負ける。
ジェレミーの体内エーテルが光属性に大きく偏っているから更に劣勢を強いられている。
数十分にも及ぶ戦闘に身体が疲労し、ステラの足元はすでにフラフラだ。
こんなことでは善神に負け、義兄の身体を奪い取られ、その魂すらも壊されてしまう。
そうはなりたくないので、頭をフル回転させて打開策を考えようとしているのに、全くと言っていいほどにまともな案を思いつけない。
悪あがきを続けるステラを気の毒に思ったのか、善神はほんの少し悲しげな表情をした。
「……付け焼き刃な戦闘技術で、私に敵うと思ったんですか?」
「”黄昏の煤”で邪神のステータスが上乗せされてる状態なのに、それでもこんなに力量差があるなんて思わなかったです」
「貴女はまず、前世の記憶を取り戻すべきでした。愚かな自分自身を恨むことです」
「……」
「さぁ、そろそろ決着をつけましょう。……すぐに再転生してもいいですよ。”エルピス”を悪いようにはしませんから」
善神は今後の予定を話しながら、彼の袖の中を探り――何故か首を傾げた。
「”エルピス”が入っていませんね。貴女との闘いの最中に落としたかもしれません」
「むっ……、何やってるですか? しっかりしてほしいんですっ」
「探せばすぐに見つかるでしょう――」
「――私が、奪った」
ここに居るはずのない人間の声が唐突に耳に入り、ステラはギョッとする。
「エ、エマさん……?」
たぶん彼女はずっとここに居たんだろう。ステラにまかれた振りをしても、ちゃんと付いて来て、護衛の役割を放棄しなかった。
しかし、今出てきてもらってはかなりマズイ。
「エマさん、そのまま逃げるです! 貴女に何かあったら、取り返しがつかないことになると思うです!」
「ステラ様を置いては行かない。今度こそ、私が守る。命をかけても」
「駄目です! 逃げるですよ!」
「邪教徒の巫女を”エルピス”を持たせたまま、逃すと思いますか?」
「やめるです!!」
ステラが移動スキルを使用するよりも速く、善神がその翼から無数の羽根を放つ。小柄な少女に金色に燃える羽根が突き刺さる――そう思ったが、予想もしなかったことが起きた。
エマを庇うようにして、何者かが前に出たのだ。
銀髪の美しい少女が後ろに倒れる。それは、ステラの実の姉だった。
「え、エルシィさ……ん? お姉ちゃん!!」
安全な王城にいるとばかり思っていたのに、どうして神殿に来てしまっているのか?
呆然としかかる頭を大きくふり、ステラは移動スキルで彼女の元へ急ぐ。
「お姉ちゃん!」
エマの腕の中で、エルシィは目を閉じている。
身体には無数の羽根が刺さり、金色の炎がその上で静かに燃える。
信じられない思いで二人の傍に膝をつくステラに対し、エマは残酷な現実を口にした。
「王女は……即死した。この【浄化の炎】を受けた人間は、魂を燃やし尽くされる……」
「嘘だ……そんなの、信じたくないです」
ステラはショックのあまり、身体の震えが止まらなくなった。
こんな形でエルシィとお別れなんてしたくないのに、彼女の顔からはどんどん精気が失われる。
「エルシィが……? 何故貴女が、死んでいるのですか? 私が……私がこの手で?」
後方から聞こえてくるのは、善神の弱々しい声だ。
あれほど自己中心的な神でも、自分の娘の死には動揺するらしい。
心底ウンザリした気分で振り返り、彼の姿を見てみると、意外にも彼の体にも限界がおとずれていた。
若々しかった身体が一気に歳を重ねたように老け込んでいき、同一人物だとも思えないくらいに変化する。
今だったら、ボロボロのステラにも善神を倒せるかもしれない。
だけど、そんな気分にはなれなかった。
戦闘を続け、これ以上自分のエーテルを失うよりも、目の前の命を救いたい。
「エルシィさん……、貴女は死んだら駄目な人なんです。【
隣国に留学した際に習得した魔法は、対象物の時間を巻き戻す効果がある。
亜空間に格納済みの術式がステラの詠唱により呼び出され、エルシィを中心に時計の形をした光が浮き上がる。
その時計の長針がほんの数センチ移動すると、エルシィの身体に刺さった羽根は全てなくなり、金色の炎も消える。
「ステラ……さん?」
「エルシィお姉ちゃん。良かったです……」
美しいサファイア・ブルーの瞳を記憶に刻み込んでからステラは立ち上がり、腰に下げた鞘から”とこしえの闇”を引き抜く。
「善神アフラ・マズダ――お父さん。もしかしたら私、今の貴方に勝てるのかもしれないです。でも、エルシィさんの前で、私がそんな事をしたら駄目だって思うです。とても、傷つくと思うから……。だから、私はこうするですよ」
ステラはそう言い、頭上に”とこしえの闇”を掲げる。
すると、剣先が空を切り裂いて、その裂け目から暗い夜空が広がった。
「これ……で、いかなる神も介入出来ないはじゅ……むにゃ……眠い」
話している途中に強烈な眠気に襲われ、真っ直ぐに立っていることもままならない。この神器をしたなら残存エーテル量に応じた長さ分だけ眠ってしまうらしいが、自分の場合は何年になるだろうか?
短かったらいいな……、とボンヤリと考えながら、ステラは意識を手放した。
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