変わり果てた神殿(SIDE エルシィ)

 エルシィと付き人は北の塔を下り、王城の正門を目指す。

 城の地下には神殿へと繋がる秘密の通路があるものの、地上の惨状を考えると、通路が潰れている可能性がある。

 そのため、エルシィ達は地上からの移動を選択した。


 崩壊しかかっている橋を移動スキルを使用して対岸に渡ったところで、見覚えのあるモンスターを発見する。小さなドラゴンの姿をしている彼は、ステラの相棒だったはず。

 何故こんな危険極まりない場所で苦しげにうずくまっているのか?


「貴方はステラさんの相棒、あじさんではありませんこと?」

「うぐぐ……、お主は、王女と……、その付き人だな?」

「ええ。どういたしましたの? 酷く苦し気な様子ですが……。もしよろしければ、私が回復魔法を使用して治療いたしますわよ?」

「いや、いいのだ。……少々込み入った事情があってな……。儂の【無限収納】の中にステラの身体が入っておる。地獄のような苦しみがあるので本当であれば入れたくは無いが、魂無き肉体を放置するわけにもいかん」

「まぁ!? ステラさんの身体がそちらに??」


 アジ・ダハーカの言葉に耳を疑う。

 実の妹であるステラが魂を無くし、しかも彼女の相棒の収納スキルの内部に入ってしまっているとは何事だろうか?


「鰺さん、どうかそこを詳しく説明してくださいませ! いったいどのような事情でステラさんが収納スキルの内部に??」


「あのっ! エルシィ様。私の方から少しよろしいでしょうか??」


 アジ・ダハーカが答えるよりも前に、付き人が小さく手をあげた。

 彼がエルシィの会話に割り込むのは大変珍しいため、きっと何か重要なことを知っているに違いない。


「許可いたしますわ。話してくださいな」

「実は神殿でステラ様と名乗る人物とお会いしたのです」

「ステラさんと名乗る人物……? 随分おかしな物言いをなさいますのね。まるで、貴方がその人物を見てステラさんと判別出来なかったかのように聞こえますわよ」

「その通りです。ステラ様は何故かジェレミー・マクスウェルさんの身体に入って……、のっとっておられました。なので想像するに、ステラ様は自らの元の身体をアジ・ダハーカ様に預かっておいでなのかと」

「ジェレミーさんの身体をステラさんが……? そして貴方は今、ステラさんがいらっしゃる場所が神殿なのだとおっしゃいました?」

「はい……はい……」

「どうしてもっと早くにそれを教えてくれませんの!? 信じられませんわ!」


 ステラが彼女の義兄の身体をのっとっているというのはにわかには信じられないし、よりにもよって神殿に居るのも信じられない、というか信じたくはない。

 神殿にはさきほど隕石が落下したのだ。

 彼女のことだから平気だと思いたい。しかし、もしものことがあったらと思うと、心臓が縮むような感覚になる。


「ステラさん……。鰺さん、一つだけ教えていただきたいですの」

「何だ?」

「貴方がもし命を落としたとすると、収納スキルの中にいるステラさんはどうなってしまうのでしょう?」

「人間の力では取り出せなくはなるな。創造神であれば浮遊大陸にある儂の身体を通じて、救い出せるかもしれんんが……。あの方も気まぐれな方だ。断言は出来ぬ」

「!? 貴方には絶対に生きていただきますわ!」


 創造神と会うだなんて、到底不可能だし、自分の願いなど聞いてもらえるはずがない。

 こんな危険な場所で苦しんで居るアジ・ダハーカをそのままにしておけば、取り返しのつかない事が起きかねないので、エルシィは彼を持ち上げ、シッカリと抱え込む。


「先を急ぎましょう。ステラさんがとても心配ですわ」

「勿論です!」


 神殿へと続く道は非常に足場が悪いが、日頃の訓練のお陰でなんなく移動出来る。

 たいした時間も要せずに神殿のゲートまで辿りつき、エルシィは絶句した。


 神殿の敷地内は凄惨を極めていた……。

 荘厳な建物は見る影もなくなり、そこら中に神官達が倒れている。

 

「ステラさん……が、この中に紛れているだなんてこと、ありませんわよ……ね?」

「私が彼女と会ったのは神殿の中心部でした。そこから移動したと考えたいですが……」

「ええ」


 こわごわと敷地内に入ろうとしたエルシィだったが、祭壇の間がある方向から激しい爆発音が聞こえ、ハッとする。

 続いて剣を打ち合うような金属音、エーテルがぶつかるような音などが鳴り響きく。


「これは、誰かが戦っているのかしら?」

「そのようです。私が見てまいりますので、ここで待っていてください」

「いいえ、私が行きますわ! 貴方には鰺さんの保護と、息のある神官達の治癒をお願いしたいのです」

「……承知いたしました」


 納得がいかない様子をみせる付き人にアジ・ダハーカをたくし、エルシィは音の聞こえた方向に向かう。

 半端に崩れたゲートから西側に走り、斜めになった柱から、顔をのぞかせる。

 想像通り、男が二人戦闘していた。

 一人はジェレミー・マクスウェルと、もう一人は自分の父だ。

 その光景をみたエルシィは、頭が真っ白になった。


「どうしてお父様が……」


 付き人の話が本当ならば、今ジェレミーの中にはステラが入っている。

 そんな彼女が戦う相手は、彼女の実の父親なのだ。二人はお互いが親子なのだと知っているのだろうか?

 

「お父様……、感情の薄い人だと思っていたけれど、まさか……」


 エルシィは頭の中に最悪な結末を思い浮かべ、唇をかみしめた。


 

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