直撃したメテオ

 少年の背中から二対の翼が生える。

 それは宗教画や石像で表現される善神の姿に酷似していて、非常に神々しい。

 彼はいつの間にか金錫をその手に携え、何気ない仕草で振る。


 ステラは最初、それが意味のない仕草なのだと思った。しかし、上空の方から不穏なごう音が聞こえてきたことで、危険を察知する。


「上から何かが降ってきてる!?」


 本来の身体ではとうてい不可能なほど俊敏しゅんびんに窓の外へと脱出し、そのまま走って神殿から距離をとる。

 義兄のステータス上のAGIはステラのそれよりも数十倍高い。

 だから、落下物が祭壇の部屋を潰すよりも早く、安全地帯に逃げ込むことが出来た。


「潰す気ですか!」

 

 心臓が冷えるような気分のまま振り返ると、ちょうど耳をつんざくほどの音と共に巨大すぎる石――隕石が神殿に刺さりこんだ。

 隕石が大気に突入した際の影響により、激しい爆発が起こる。

 ステラはとっさに身体の前方にシールドを張り、凄まじい風圧と飛んでくる岩や小石を防ぐが、周辺の家々は容赦なく破壊された。


(これはメテオ? さっきまで祭壇の部屋でブツブツ言っていた神官さん達は大丈夫なのかな?)


 爆発による粉塵ふんじんでかなり視界が悪い。

 それでも周囲を確認するステラだったが、今度は前方から殺気を感じ、感覚のままに短刀を動かす。

 意識の上では適当に短刀を振っただけなのに、飛んできた何かを全て切り落としていた。


(羽根が飛んできた? ヒィ!?)


 地面に落ちた数十枚の羽根は善神の背に生えた翼の一部だったろう。

 金色の炎に包まれ、バチバチと激しく燃えている。

 周囲が全然見えない中で、こんな投げ物を使われては、生身の身体がいくらあっても足りはしない。


「煙が邪魔なんです! 【暴風】!!」


 神殿の周囲に範囲を決めて竜巻を発生させれば、一瞬にして視界がクリアになり、廃墟のようになった神殿があらわになる。

 半壊したのは建物ばかりではない。屋根のてっぺんに建てられていた善神像までが、地面に落下し、四肢がバラバラになっている。

 ステラはその胴体部分の影に神官達の姿を見つけ、ハッとした。

 命が助かったなら、何故直ぐに逃げないのか?


 彼等は奇妙なことに、ホコリまみれになりながらも涙を流しながら善神にこうべをたれている。


「なんたる僥倖ぎょうこう!! まさか命あるうちに、神の降臨に立ち会えるとは!!」

「美しい!! あの儀式にはちゃんと意味があったんだ!」

「知恵ある神よ! どうか病の床にある母を救ってくださいませ! 人ごときの知識では治療が不可能なのです!」


 ほんの少し混乱しかけたステラだったが、本物のガーラヘル王の姿を国民達が知らないのを思い出す。

 国営テレビや行事などに出てくるのは、いつでも影武者の方なのだ。

 だから、今、空に浮かぶ少年がガーラヘル王だとは思わないんだろう。


 そのガーラヘル王――善神は穏やかな表情を崩さずに、長い指を二本信徒達に向ける。


(え!?)


 何もやるはずないと思いはしたが、ステラは念のために信徒達にバリアを張る。

 すると、すぐに善神の放ったレーザーがバリアに弾かれ、上空に浮かぶ雲を突き抜けて行った。


 それを見届けたステラはさすがにムッとして声を荒げる。


「どうして自分の信徒達を攻撃するですか! サイテーなんです!」

「この機会に一掃してしまっても良いかと思いましたので」

「う~、何言ってるか全然分かんねーです!」

「信徒の入れ替えです。長く国教であり続けた弊害で、内部の腐敗が凄まじいのですよ。汚れた思考の持ち主に、私の名を盾にしてほしくはありません」

「だからって!」


 空気が震える。

 善神を中心にビリビリとした衝撃派が発生している――、いや違う。


(善神からじゃない! あの隕石から何かが出てる! 隕石がやばいんだ!)


 超音波じみた音が鳴り響いたかと思うと、バタバタと信徒達が倒れる。

 内部から身体を破壊されたのか、目や耳、そして口から血を流し、ピクリとも動かなくなってしまっている。

 たとえ今から回復魔法を使用したとしても、助かりはしないだろう。


「やべーもの落っことすなです!!」

「はるか昔に作り上げ、打ち上げておいたのですが、いまだに使えそうですね」


 善神はそう言うと、ふわりと隕石の上に降り立つ。

 落ちたばかりの石はまだ表面の熱が冷めていないだろうに、痛みを感じている様子はない。


「貴女がこの世に生を受けてから、生きとし生けるもの達のエーテルの属性が、闇に変わりやすくなった。邪教徒になる者達も多いと聞きます」

「他人事みたいに言うなです。私は一応貴方の子供なんです」

「えぇ、そうです。ふふ……気分が悪くてしょうがないでしょう?」

「……」

「影があれば、よりいっそう光の中にいる者達が輝く。そう判断し、静観しておりましたが、そろそろ闇のエーテルを塗り替えねばならないでしょう」

「次は何する気ですか! 余計なことすんなです!」

「まぁ、観ていてください」


 善神は金錫を隕石に突き刺す。

 すると内部が燃えるように色づき、表面の細かい神聖文字を浮かび上がらせた。

 次第にそれは空中に分離していき、市中に飛び散る。


「誰を狙ってるですか!」

「ガーラヘル国民です。多少の痛みは伴うでしょうが、神からの試練として受け入れてもらいます」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る