王室からの正式依頼

 ステラ達は王城近くのバス停からバスに乗り、ガーラヘル王立魔法学校近くの軽食屋で昼食をすませた後、帰路についた。

 帰宅後は購入してきたお菓子を食べながらエマと荷解きをしようかと考えていたのだが、マクスウェル邸に着いてみると、まさかの来客があった。


 応接室でステラを待ち構えていたのはバルトロメオと名乗る老人。

 彼は王室の神事部に所属しており、先ほどガーラヘル王にうながされてステラの元へやってきたとのこと。


 たしかにブリジッドの目的はステラを神事部の人間に会わせることであった。

 しかし、先ほどの少年――ガーラヘル王は知らないはずで、ステラは彼の行動を疑問に思ったが、もしかすると王城付きの衛兵やブリジッドと話し、バルトロメオをステラの元へ派遣することにしたのかもしれない。

 

 ステラがバルトロメオの向かいに座ると、彼は上質な紙につづられた”納品手順書”なるものを差し出し、丁寧に説明を付け加える。


「――こちらの手順書をご覧ください。”黎明の香”を製作していただきましたなら、まずは魔法省の王室担当課で鑑定していただきます。その後、王室の調達部の方で検品・容器の移し替えの作業をさせていただき、最後に我々神事部に渡していただくことになります。その全ての作業にマクスウェル殿に立ち会っていただきますぞ」

「えっと! その作業はだいぶ先のことって考えていいですよね??」


 ステラが探りを入れると、バルトロメオはトランクケースを開き、うやうやしい手つきで一枚の紙を取り出した。

 

「……それは?」

「”黎明の香”の注文書でございます。こちらに捺されてあるのがガーラヘル王の印。こちらに記されておりますのがガーラヘル王のサイン。王室からマクスウェル殿への正式な注文になりますぞ」

「ふぁ!?」


 引き気味になりながらもなんとか印やサイン部分を見てみるが、達筆すぎて判別が難しい。


(読めないけど、神事部の人が言うならホンモノなんだろうな。でも……、”黎明の香”の制作に成功できるのかな?? 納品ルートのどこかで引っかかりそう)


 ステラの浮かない顔を見てバルトロメオは焦ったのか、おそらく言わなくても良いようなことを口にし始める。


「マ、マクスウェル殿。注文を引き受けてくださいますね? ガーラヘル王が是非に貴女に作ってもらいたいと言っておるのです」

「そう言われても、ようやく素材が揃ったばかりで、まだ一回も作ったことないです。自信がないような、ノンビリやりたいような、そんな気分だったりするです~」

「なんと意志薄弱な!」

「うぅぅ……」

「ガーラヘル王は『国内に悪しき思想がはびこり、犯罪が蔓延している』と、『今こそ知恵ある神におこしいただい、その光で邪悪なる影を払うべき』と申されておったのです!」

「王様はシッカリしたこと言えるタイプの人だったですね。かなり意外なんです」

「不敬な言葉はつつしんでいただけますかな!」

「わわっ。ごめんなさいです……」


 さっき会ったガーラヘル王らしき人物はだいぶ浮世離れした雰囲気の持ち主だった。

 だから自分の父かもしれないと知った時、ステラは少々残念に思った。

 あれほど人間味が薄い人物が父親をやっている姿が思い浮かばないのだ。

 だけども、一国の王をやっているくらいだから普通に考えたらちゃんとしているだろうし、ステラが馬鹿にしていい相手でもないんだろう。


 ステラがガーラヘル王の姿をもう一度思い浮かべている間に、バルトロメオの話は次にうつっていた。


「――それと、1つ聞いておきたいのですがな。ジェレミー殿の病はもう完治しましたかな??」

「完治かどうかは分からないですが、今日の朝はシャキッとしてたですよ」

「そのようでございますか。差し出がましいことを申すようですが、マクスウェル殿はジェレミー殿の為に働いておられるのか?」

「へ!? あ、あんまり……」


 いきなり踏み入った問いを投げられ、ステラは面食らった。

 どもりながらもなんとか返事を返せば、バルトロメオは分厚い眉を片方だけ上げる。


「いけませんなっ!」

「むぅ……」

「ガーラヘル王はジェレミー・マクスウェル殿には何としてでも件の儀式に参加させる予定でございます。なにとぞアイテム士であられるマクスウェル殿にはジェレミー殿の体調を万全に整えてもらいませんとっ」

「そんなのバルトロメオさんに言われる筋合いねーですよ。バルトロメオさんは漫画に出て来るシュートメとか、コジュートみたいな爺さんです!」

「なんですとっ!」

「注文は分かったので、お引き取り願おう、なんです!」

「まったく……。何故アレムカはこんな口の悪い小娘に”黎明の香”のレシピを渡したのか。評価出来る箇所など、高貴な髪色と瞳の色。王妃様によく似た顔面くらいしかありませんなっ」

「何言われても平気なんです~!」


 バルトロメオの嫌味に小さく舌を出しながら、心の中に発生した小さな不安を意識する。何故かガーラヘル王はジェレミーに執着しているような気がするのだが、気のせいだろうか??


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