闇サークルの解体
ステラの言葉のどこに喜びを感じたのか、スカル・ゴブレッドの少女は祈るように両手をあわせた。
「慈善活動なんて簡単だわ! そんなことくらいで貴方のご加護を得られるなら全然やりますよ!」
彼女が善き行いをしたとしても、当然ステラの加護があるはずがないが、とりあえず頷いておく。
「えぇと、そですね。貴女が一生懸命にゴミ拾いとかをしたなら、ステータスには表示されないパラメータが上がるかもです。そ、それと、死んだあとにマシな生き物として転生出来るかもなんです」
「素晴らしいわ!」
少女はステラの適当な言葉を信じてくれたようで、ヤル気に満ちている。
そんな彼女に小さな影が近づく。
「あれ? エマさん??」
自分の警備で付いて来てくれていたエマが、どういうわけか、スカル・ゴブレッドの少女に興味を示している。フェルト地のバッグから取り出したのは、一束の書類。エマは何をしようとしているのだろうか?
「この紙、この国のヴァンパイアの居住地が書いてある。……貧しくて、病気持ちが多い。だから、ここに書いてある方法で助けてあげてほしい……」
「エマさん、いつの間にそんな資料を!」
「この国に来た最初の週は空き時間が多かった。だから、その間にヴァンパイア達を探してた。……ステラ様が以前開発したヴァンパイア用の薬を彼等に紹介したいと思って」
「そうだったんだ! ナイスなんです!」
ヴァンパイア達はガーラヘル王国だけにいるわけではない。
各国に散らばり、様々な形で差別を受けている。
かつては貴族社会だったこの国でも例外ではなく、フランチェスカからもその悲惨な状態をちらりと聞いたことがあった。
ステラが開発した”似非エーテル薬”を使うようになったなら、きっと暮らしやすくなるだろう。
スカル・ゴブレッドの少女はエマから資料を受け取ると、さっそく仲間たちと話し合いを始めた。
そんな彼女達の姿を視界におさめつつ、ステラはゆっくりとイブリン・グリスベルに歩み寄る。
「イブリン・グリスベルさん」
「……言わなくても分かっています。貴方が直々に私に手を下すんでしょう?」
「そんなのはしないです。でも、頼みたいことがあるです」
「それを聞かないと、酷い目にあわすと?」
「酷い目!? 流石にそんな……、いえ、その通りなんです!!」
相当な悪人になっている気がして、動揺するけれど、ここは多少脅すほうが丸く収まりそうだ。
「えーと、ゴッホン! イブリンさん、この学院のスカル・ゴブレッドを解体するです。頼めますですか?」
「なんだ、そんなことですか。貴方に言われなくても、そのつもりでした。邪神である貴方が現れたんだから、こんな組織は不要です」
「話が早くて助かるですよ」
ステラはポケットの中に小さく折り畳んでおいたサークル解体申請書を取り出し、空欄を指さす。
「名前はもう書いてあるですので、
「……分かりました」
イブリンは自分のレイピアで親指を傷つけた後、きちんと拇印を捺す。
そこまで終わると、突然近くの木の葉がガサガサと鳴り、人間が二人下りて来た。
「ステラお疲れっ!」
「今のやり取りは~~、ちゃんと撮影させてもらったからね~~」
現れたのは、レイチェルとマイアの二人だ。
ステラもマイアがこの場に来るというのは聞いていたけれど、どこに潜むかまでは聞いておらず、素で驚いてしまう。
「わわっ! 二人ともそんな所に居たですか!」
「マイアさんに付いてきて正解だった! アジちゃんがあんなにかっこいい姿になるなんて、感動ものだよ!!」
「そうだよね~~、撮った映像はメイリン様に渡しとくよ~。ステラちゃんは~、賠償金を払わなくてもすむ~~~」
「うんうん! 良かったです~!」
一時はどうなるかと思ったけれど、大金を払わずに済んだのは大きい。
それに前世の親とかいうあの人にも馬鹿にされずに済みそうだ。
ステラがぼんやりと物思いにふけっている間に、周囲には宿舎の学院生たちが集まってきていた。
彼女達を代表するように、ケイシーがステラに話しかける。
「ステラ、寒い中お疲れ」
「ケイシーさん。スカル・ゴブレッドはこれで解体になるです。そちらの生徒会長さんに、渡してほしいです」
ケイシーにスカル・ゴブレッドのサークル解体申請書を手渡す。
ステラ達は明日にはこの学校を去らなければならない。だからこの学校で一番親交を深めたケイシーに、申請書を任せることにした。
彼女は神妙な顔で、申請書に目を通し、深く頷く。
「必ず渡す。有難うステラ。アタシ達だけじゃ解体なんて夢のまた夢だった。」
「……私の為にやっただけです。気にしないでほしいんです」
「うん。あのさ、最近出来た目標を聞いてくれるかな?」
「うん? なんですか?」
「この学院を生きて卒業出来たなら、ガーラヘルに渡航して、ステラの仕事を手伝いたい。だから、待っててほしい」
「……!? わ、分かったです。でも卒業までに心変わりしたら、遠慮なくそちらを優先してほしいです」
「心変わりはしないかな。よろしく」
「ほい。では、握手しようです」
差し出されたケイシーの手を、ステラは硬く握った。
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