便利な使役獣
300年前のエリアではガーラヘル魔法学校の先輩達による修羅場のようなやり取りが繰り広げられた。
人生経験が浅いステラには、彼等のやり取りはただギスギスしているだけに聞こえてしまい、相棒やケイシーと共にそそくさと移転装置へと移動した。
グウェル生徒会長が現れてから、さほど時間がたっていないので、すんなりと一つ前のエリアに戻れるだろうとふんでいたが、いざ移転装置を踏んでみると今度は今までみたどのエリアとも異なる場所に飛ばされた。
古くもなく、新しくもない。微妙な光景だ。
「200年前のエリアなんです? う~~ん。うまくいかないものですね」
肩を落とすステラを、アジ・ダハーカとケイシーが励ます。
「そうだな。だが、かりに先ほどのエリアに戻ったとしても、現在と同じ時間軸のエリアに真っすぐ繋がっているとも言えないだろう」
「焦ってもしょうがない。気長に渡っていこう」
「そのとおりなんです! 疲れたら私の作ったポーションを飲もうです!」
気を取り直して、もう一度イブリンに貰った地図を開いてみる。
移転装置はこの位置だけではなく、もう1つあったはずだ。
「えーと、ここから北西方向にあるですね。さっそく行こうです!」
「了解だ」「行こう」
二人と一匹で歩き出し、300mほど歩いただろうか?
疲れた足をぺしぺしと叩いていると、少し離れたところにある丘の上から、聞き覚えのある声が聞こえた。
「あ! ステラ!! いいところに来たねー!!」
「その声、レイチェルさんですか!?」
「そうだよ!!」
明るい声色にホッとし、ステラは笑顔で声の方向を見る。
すると、丘の上の木から、レイチェルが手を振っていた。
あんなところで一体何をしているのだろうか?
「そんな高い木に登れるだなんて、勇気あるですね!」
「よゆーよゆー! っていうか、ステラ達が来ないかな~、ってここで360度見てたんだ」
「私を? なんで?」
「マイアさんと二人で、現行エリアへのルートを見つけたんだ。一緒に戻ろう!」
「えええ! 凄く助かるです……。しがみついてでも一緒に行くです!」
大喜びでジャンプしているうちに、レイチェルはするすると木を下り、軽快な足取りでステラ達に近寄って来た。
「マイアさんまで案内するよ。ついて来て!」
「ふぁい!!」
レイチェルの提案にアジ・ダハーカもケイシーも安心したようで、緊張感が若干無くなっている。
そしてその空気は、マイアとの合流で更に緩くなった。
マイアはさっきレイチェルが居た丘の近くに居た。
何故かツルハシを肩に担いでいて、その傍からは大量の土や石が噴き上がっている。ちょっと見ただけでは、彼女が何をしているのかさっぱり分からない。
ステラはおそるおそる彼女に近寄る。
「マ、マイアさん。何をしてるですか??」
「ステラちゃんと、アジちゃんと、ケイシーちゃんだ~~。やっほ~~。あたしはね~、ディックちゃんに地下道まで掘らせてるよ~」
「ふむ?」
「200年前も地下道があるからね~」
「ああ! 時計塔まで通じてるっていうアレのことですか!」
「そ~なんだよ~~」
「でも、200年前の時計塔に行っても、アジさんの為の術式は無いような??」
「安心していよ~。地下道を時計塔に進む途中で~、時間軸が一本化されるみたい?? 現在の時間に戻るみたいだからね~」
「そんなことになってるです?」
分かるような、分からないような話である。
つまりは、地下道のどこかの時点でこのフィールドダンジョンから抜け出し、普通の場所になるということなんだろうか??
とりあえず、彼女を信用するしかなさそうではある。
ステラが首をひねっている側から、レイチェルが穴の中を覗き込む。
「おお~、随分掘ってくれてるじゃん! 偉いな!」
「偉いよね~~。地下道まで掘れたら、直ぐに下に下りようね~。早くしないと、空間の修復が始まっちゃうから」
「うわぁ!! 下手すると、あたしら埋まっちゃう!?」
「だね~。あはは~~」
なんだかとんでもない話をしている……。
楽にダンジョンから抜けれるかと思いきや、重大なリスクがあるらしい。
ステラが顔を青ざめさせていると、穴から土などが上がってこなくなり、代わりに巨大なモグラのようなモンスターが顔を出した。
「チー! チー!!!」
「お、ディックちゃんナイスだよ~~。今日のご飯はミミズ2倍あげるからね~~」
「チーーー!!!」
大はしゃぎの巨大モグラが穴から這い出ると、入れ替わるようにマイアが穴に入った。
「お~~い!! 安全そうだから、ステラちゃん達もおいでよ~!!」
「この高さを下りるですか……」
「アタシがおんぶしてあげるよ!!」
「本当ですか! レイチェルさん。助かるです!」
身体能力の高いレイチェルなら、問題なく着地出来るだろう。
ステラは遠慮なく彼女の背中にしがみ付く。
そうしている間に相棒とケイシーは穴から下りてゆき、ステラ達もそれに続く。
大した衝撃もなく降り立ったのは、人間二人程がようやく通れるような地下道だった。肉眼で出口も見えないくらいに長く、閉塞感が凄い……。
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