四面エリアのフィールドダンジョン

 ステラがレイチェルやエルシィに各アイテムを分配していると、人気ペアランキング最上位の生徒達が霊園の中に入って行くのが見えた。

 イベントにしては随分と静かな開始に虚を突かれながらも、ケイシーと共に人気四番目のペアの後ろに並ぶ。


「ついに始まったったですね。生徒代表さんとかから開始の挨拶的なのがあるかなって思ってたです……」

「ウチの学院はだいたいの行事がこんな感じ。今日のはマシな方だよ」

「そうなんだ。私たちは後何分後に入るですか?」

「……3分おきに入っていくから、12分後くらい?」

「OKです!」


 列の後ろに並ぶ友人達に応援ジェスチャーをしてもらい、それに返しているうちに、あっという間にステラ達の番が回ってきた。

 落ち着かない様子で飛び回る相棒を呼び、霊園のゲートをくぐれば、あまりにも寂しげな光景が広がっていた。


 園内には先日降った雪が残っており、ずらりと並んだ墓石のてっぺんが白く覆われている。よくよく見ると多くの墓石が痛んでいて、酷いものだと倒壊している。

 亡くなった者達の名前もメッセージも読み取れなくなっているようだ。


 ステラは墓石から通路へと視線を移す。

 所々に残った足跡は先に入った生徒達のものだろうか。

 霊園の奥――フィールドダンジョンの方へと続いている。

 それらを辿るようにして、ステラ達も歩いて行く。

 暫く無言かと思いきや、ケイシーが話をふってくれた。


「――この墓石の下には、中級階級の人たちが眠っていると聞いたよ」

「中流? 真ん中くらいの立場に居た人達ですか?」

「うん。意外かもしれないけど、この都市にも一時期中流階級が多かったことがあったんだ。国の経済政策が失敗し、ジワジワと貧しくなっていったんだとか。それで、この先の通りがダンジョン化したことをキッカケに、都市を出て行ったらしいよ」

「都市の他の場所には引っ越せなかったですね」

「そうらしい。本当のところはどうなのか分からないけどね」

「ふむふむ」


 霊園内を見回っていたアジ・ダハーカがケイシーの話に興味を持ったのか、彼女の頭の上に降り立った。


「今はダンジョン内に住むものは居なくなったのか?」

「居ないって聞いた。……でも普通出て行くよね。モンスターがはびこり、新しい人間が来たかと思えばあちらこちらで戦闘が繰り広げられるんだよ。戦闘能力のない一般人が住めるようなところじゃないと思う」

「そうか。それでも人っ子一人居なくなるというのは、少し違和感があるがな」

「この国は胡散臭いからね。気になりだしたらキリがない」


「難しい国なんです……」


 学院内に居る分には、それなりにまとまった印象を受けるけれど、ちょいちょい漏れ聞こえてくるお国の事情がエグすぎる……。

 ダリアからネクロマンサー協会との取引の件を持ちかけられてはいるが、近い将来商売することになったとしても、細心の注意を払う必要があるだろう。


 二人と一匹とで話しているうちに、霊園を抜けていた。


 一気に視界が明るくなり、風景も一変する。


 地上に並ぶのは、雪を被った廃れた街並。頭上にはややレトロな可愛らしい街。そして左右には農村部と言っても過言ではないような街が存在する。目をこらして上空の街の通りの様子を観察してみれば、旧式な魔導車が煙を上げながら走っており、さすがのステラもビックリしてしまう。


「すっごいんです! 何で逆さまになった街を魔導車が走れるですか?? 落っこちてきそうなのに、上の面に吸い付いてるみたいに、安定感があるっぽいです! 頭が混乱する……」

「ホントに不思議。魔導車にも驚いたけど、空間の明るさもおかしいよ。今通り抜けてきた霊園の方が暗いとか……。太陽が完全に隠れてるのに、どういう原理なんだろう??」


 二人で夢中になって、「あれはこれは」と話していると、見聞の広い相棒が彼なりの考察を話しだす。


「これはおそらく、ここに使われた魔法が時間軸を弄るものであり、失敗したからこのように珍妙な現象が起こってしまっているのだろう。以前にもお主が適当に考えた魔法が使われ、失敗した時に空間全体が同規模で歪んだものであったな」

「う……ぐ……」

「このエリアに使われた魔法は邪神が創り出したものだったんじゃ? それがどうしてステラの話に繋がるの?」

「「……」」


 ケイシーはなかなかに鋭い。

 ”あり得ない”の壁を抜けたなら結論に至ってしまいそうな危うさに、ステラは黙り込み、卑怯なことに、相棒までフォローの言葉を口にしない。

 その状況にケイシーは首を傾げたものの「言いたくないなら言わなくていい」と、譲歩してくれた。


 サッパリした態度の友人に内心感謝しながら、ステラはイブリン・グリスベルに貰った地図を開く。


 ステラ達が目指そうとしているのは地図の上側に位置する貯水池だ。

 ただ、そこに入っているはずの高純度ナスクーマ大聖水は時間によって四面のうちの同じ位置のどれかに移動する。

 現在はどこに存在するのか見当がつかないため、とりあえずステラは地上面の同位置に向かってみようと思っている。


 ステラは地図に引いたマーカーの線をよく観察してから、廃れた街へと踏み入った。



 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る