虎穴に入り、賠償金を免除してもらうのである

 食事のためにガーラヘル王立魔法学校の友人達と入った店は、運が悪いことにスカル・ゴブレッドのリーダー:イブリン・グリスベルの親類が経営する食事処だった。

 そして、ステラ達が入店したとの情報を聞きつけ、のこのことやってきたのはイブリン・グリスベルその人。


 ガーラヘル王国の王女エルシィの御前にて、同席を願い出た彼女は大胆極まりなく、エルシィとイブリンの間で目に見えない火花が散る。


 ステラだけではなく、レイチェルやエマ、そして給仕達までもが固唾かたずをのんで見守る中、エルシィは拒絶の言葉を重ねる。


「イブリンさん。貴女が昨日お話していたのは、”ステラさんを紹介してほしい”ではありませんでしたわ。ただしくは、”貴女方が信仰する邪教の儀式に参加するように、私から命じてほしい”でしたわよね? だというのに、昨日の今日で貴女の同席を許すはずがないでしょう?」

「次期ガーラヘル王たる貴女が、邪教徒を差別するのですか?」

「話をすり替えないでいただきたいですわ」

「失礼しました。……でも、警戒されるととても悲しいですね。私はただ、貴女様と同じ学校のヘスティア様から、『ステラ・マクスウェルさんはガーラヘル王立魔法学校No1の実力者であり、幼いながらにしてやり手の実業家』と聞いたものですから、親交を深めたくなっただけです」


「えっと……。実力とかはないです。全然、全く……。実業家というのもなにがなんだか……」


 ステラは謙遜けんそんするが、イブリンの方はたいして興味なさそうで、どこか芝居しばいがかった口調で話を続ける。


「私とステラさんはとても似ているような気がしています。両国の有力な次世代ながらも、エルシィ様のように成功への道が舗装されているわけではありません。少しでも目立てば前世代の人間共から妨害される。だから、私たちが手を取り合えたなら、両国はより素晴らしくなると思うんです」

「な、何の話ですか? 結構飛躍しちゃったような……」

「儀式への参加の話です」

「ええっ!?」

「ステラさんが私たちの儀式に参加してくださったら、きっとアンラ・マンユ神様の素晴らしさを理解してくださいますし、私たちは大親友になるでしょう」

「うーん……」


 奇妙な話をするものである。

 ステラ自身がイブリンの話を聞きながらモヤモヤとしている間に、向こうのテーブルに居る小さなドラゴンが口に含んでいたアルコールを盛大に噴き出す。

 笑い出すのを堪えるように、ヒクヒクと腹を震わせているのは、この会話がツボに入ってしまったからに他ならないだろう。

 確かにイブリンの主張は”ステラの正体を知らないままステラの前世を褒め称え、邪教への勧誘をしている”わけだから、ジワジワと面白くはある。

 しかし、ステラからしてみれば、正体を明かすわけにもいかないため、居心地が悪いだけだ……。


 心を落ち着かせるために、フルーツ牛乳をチビチビと飲み始めると、エルシィが再び迎撃してくれた。


「イブリンさん……。なんてシツコイ方なのでしょうか。とにかく、ステラさんは怪しげな儀式には参加なさいませんし、本日貴女と食事することもありませんわ。ステラさんからもキッチリとお断りしてくださいませ」

「うん」


「分かってませんね。ステラ・マクスウェルさんはまだキッパリと断っていません。その理由は、どこか私に惹かれるところがあるからですよね?」

「……」


 自信満々なイブリンの言葉を腹立たしく思うけれど、当たらずも遠からずだったりする。

 もちろん彼女自体に惹かれているわけではない。

 彼女がまとめる組織の扱い方についてだ。


 イブリン率いるスカル・ゴブレッドがやろうとしているのは、十中八九エリーゼが犠牲になった儀式なんだろう。つまり、ステラの視界の端でヒクヒクと震えるドラゴンを召喚するのを目的としており、ステラをそのエーテル源とするつもりに違いない。


 ガーラヘル王立魔法学校の先輩ヘスティアと交流があるようなので、彼女の推薦か、はたまた国立魔法女学院の生徒会長から話を聞いたのか、はたまた全く別の情報源からステラの存在を勧められたのか。

 その辺も少し気になるけれど、それよりも……。


(うまく立ち回ったなら、メイリン・ナルルさんに賠償金を支払わなくてよくなるかもしれない)


 大きなリスクがある一方で、彼女達の儀式へ参加することによって、弱みを握れるかもしれないのだ。しかしながら、どうするのが効果的なのかは情報が足りなすぎて考えようもない。

 少しでもイブリンの話を聞くことにより、勝率を上げたいところだ。


 ステラは体の位置を変え、イブリンにニカッと笑いかける。

 

「私もイブリンさんとお話したいなって思ってたです! 一緒にランチしようです!」


「ステラさん!?」


 ステラの言葉にショックを受けたのか、エルシィはとがめるように振り返る。彼女に少し申し訳なく思うも、ステラはもう決めてしまった。


「……有り難うございます。なんだか拍子抜けしますね」


 イブリンも若干戸惑うような表情を見せるが、すぐに感じの良い微笑みを浮かべてくれた。


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